イヤな予感……それは馬鹿(女神)からの贈り物……そして俺達は宿探し
「ツキヤ、まだ~?」
ディエナから、待ちくたびれた感丸出しの声が発せられた。
俺達は食事の後に、とある衣服屋に来てるんだけど…。
な~んか、良いモンが無いんだよなぁ…。
そりゃ元の世界の様なデザインの服なんてのは、無いのは分かってんだけど、こう…何て言うか、ビビッと来るヤツが…。
因みにディエナは、さっさと決めて、自分の服を三着ほど御購入しました。
今も購入したばかりの服に着替えて、俺を待ってます。
「ん~。やっぱり妥協はしたくないし…店、変えるか」
そう言って、俺はディエナを連れて店を出た。
「結局、決まらなかったの?」
横を歩くディエナが、俺を見上げて聞いてくる。
「うん。何かこう…イマイチなんだよなぁ…」
自分でも良く分からないんだけど、モヤモヤとして決まらなかったのだ。
「他の店に行ったら、良いのあるかなぁ…」
「どうだろう…?」
「う〜ん……………………………………………………………?」
俺はふと立ち止まり、大通りから裏道へと繋がる細い路地を見つめた。
何だ……?この感覚……………。引っ張られる……いや、違う。…………………………呼ばれてる?
不思議な感覚に捕らわれた俺は、迷い無く、その路地に足を踏み出す。
「!?ちょっ!?ツキヤ!?」
ディエナが慌ててついて来る。
初めて通る道。この世界に俺の知ってる場所なんてありはしない…。だが、全く迷い無く俺は歩を進める。
「ツキヤ?こんな所に何かあるの?」
「さぁ?……わかんねぇけど、多分…………何かある」
不安気なディエナ。
だが、俺は歩みを止めない。
しばらく歩くと、路地は行き止まりになっていた。
「行き止まり……だね」
「あぁ…だけど、間違いない……この『扉』の向こうだ」
行き止まりになっていた場所には、一枚の扉。民家の裏口にも見えるが、その扉の向こう側こそが俺の目指す場所だと、何かが告げていた。
キィィ…………
「ちょっと!?ツキヤ!?」
ディエナの言葉を無視して、俺は扉を開けて中に入る。
埃っぽく、どことなくカビ臭い室内。
中は薄暗く、外の陽の明かりで、辛うじて室内が見える程度。
その室内の一角に…………………『ソレ』は『有った』。
案山子の様な人形に、飾られた服。
薄手の袖無しのインナーに、少しダボついたズボン。足首の所で締め付けられる様に、二本のベルトが着いていた。
腰のベルトは細い皮紐の様だ。
インナーの上から羽織れるタイプのコートも、かなり薄い。
コートの襟は長く耳元まである。裾もかなり長く、引き裂いた様な感じになっていて、俺が着ても地に着くか着かないかのギリギリ。
靴はブーツっぽいヤツで、手に嵌めると指が出るタイプのグローブみたいなヤツまである。
そして色が、『黒一色』なのである。
所々、刺繍が施されているが、ほぼ黒一色だ。
「なに……コレ……」
ディエナが呟き、俺のズボンをギュッと握る。
俺はディエナの呟きを聞き流し、その服へと近づく。
すると、襟首辺りに一枚の紙が張り付いていた。
はて?なんだろ?
俺はその紙を手に取り、良く見てみると……
『やっほ〜♪元気してる?貴方が、この手紙を読んでるって事は無事に其方に着いたみたいね♪まぁ、これから色々とあるだろうから餞別として、この【闘衣】をプレゼントするわ。有り難く頂いちゃいなさい!!この闘衣は耐衝撃・耐刃・耐魔法にずば抜けた物だから、大切に扱ってね♪因みにデザインは私だから♪じゃ、頑張ってね〜♪』
…………………。
俺は無言でその手紙を丸めて床に叩き付けて踏みつける。
何度も踏みつける。
「ツ……ツキヤ?」
ディエナが戸惑いながら声を掛けてくるが…
「ぬぁぉうっ!!」
と、意味不明な叫びをあげてしまった!!
「ディエナ…」
「は…はい?」
「どうやら、この服は俺の為に用意された物らしい…」
「え!?」
ディエナさん、驚きと混乱。
ま、仕方がないか…。路地裏の廃屋に置いてあった服が俺の物です…なんて、普通は有り得ねぇべ?
とりあえず、闘衣に着替えてみるか♪
「ふぁ………」
着替え終わった俺の姿を見て、顔を赤くして口元を押さえるディエナ。
あれ?変……かなぁ?
「どう?ディエナ」
闘衣は見事に俺にピッタリサイズ♪
しかも、デザインもかな〜り俺好み♪
「うん……うん!!うん!!ツキヤ、凄く似合ってる!!カッコイイ!!」
そう叫んで飛びついてくるディエナをキャッチして抱き上げる。
「そか?似合ってるなら嬉しいねぇ」
ディエナの頭を撫でる俺。
「さて、服も手に入れたし…今日の宿を探しましょうか♪」
「だね♪」
俺は元の服に着替えて…え?何で着替えたんだって?
だって、ヤツが用意した服って確かに俺好みなんだけど、如何せん目立つからさぁ…。
俺達が路地裏から表通りへと出た時、すでに空は茜色に染まっていた。
……結構、時間が経ってたのね…
さて、俺とディエナは宿探しを始めたのだが…
「ゴメンね〜。今日は部屋が一杯で空いてないのよ…」
と、少々ふくよかなおばちゃんが、申し訳なさそうに俺に言ってくる。
既に宿屋三軒目なのだが、どこもかしこも部屋が空いてない。
どうやら武闘祭の関係で、いつもより客が多いらしいのだ。
「どうしよう…」
俺が呆然としていると、宿屋のおばちゃんが
「ひょっとしたら、ギルドの宿舎なら空いてるかも知れないよ」
「え!?本当ですか??」
「あぁ、とにかく行ってみたらどうだい?」
おばちゃんが進めてくれたので、ギルドまでの道を聞いて、俺とディエナはギルドへと向かった。