魔女の呻き:Vol10
扉はすでに開かれており、通り抜けると、
そこは、大広間であった。
豪華なシャンデリアや壁画、大理石で散りばめられ、
いかにも豪華な内装だ。
それに釣り合うかの如く、華やかな衣装で着飾った
人達が、各々に談笑し合っていた。
おそらく、お金持ちのパーティーだろう。
そこに、数杯のワイングラスを乗せた
トレーを持った執事らしき人物が、
竜司に差し出してきた。
竜司は、そのまま一つグラスを取り、
ゆっくりと会場の中を歩いて観察する事にした。
ーーこれは難しいぞ...。
理由はシンプルだ。
全員、目元だけを隠したマスクをつけている。
流石に、顔の一部とはいえ、隠されてしまうと
観察眼に優れた竜司でも、判別は難しい。
しらみつぶしに探索するしかないかと思った矢先、
「あら、初めての方ですか?」
赤いドレスを着た女性が、話しかけてきた。
「えぇ、知り合いがいないもので..」
社交界デビューとなった竜司改め、
キリアンは、その場のモブキャラになり切って
演じる。
「そうなのね、どちらからいらしたの?」
「遠い所からですよ。会社の友人の誘いで
きたのですが、直前で、来れなくなってしまって...。」
「まぁ、そうだったの、お気の毒に...。」
年齢は、竜司より上の人だろう。
その立ち振る舞いには、落ち着きがあった。
「この様な場には慣れていなかったので、
お酒でも嗜もうと思っていたのですが、
このワインが美味しいですね。」
これ以上の詮索はさせない様に、
キリアンは、相手に会話の中心人物に
仕立てあげようとした。
「あら、お酒が好きなの?」
「はい、少ししか飲めませんが、美味しい
お酒が好きですよ。そちらもですか?」
「そうよ。私、とてもワイン好きでね。」
「私の血は、ワインでできている位、好きなのよ。」
ーーどこかで聞いた事のあるセリフだな...。
余計なツッコミはしなかったが、
キリアンは、彼女のセリフに既視感を覚える。
少なくとも、話の矢印を相手に向ける事には成功した。
「あっ...そういえば、自己紹介はまだだったわね。」
おそらく彼女の好きな話題に夢中になりそうな手前、
ふと我に戻った彼女は恥ずかしげだった。
「そうですね、失礼しました。」
「私は、キリアンと言います。」
先に、キリアンの方から自己紹介した。
「キリアンね。私は...」
「ミネカよ。」
「日本の名前で、ミネカ・マツダよ。」
いきなり、ターゲットとのコンタクトに成功するのだった。




