魔女の呻きVol:9
ーーピッ!
「お待ちしておりました。キリアン様」
差し出されたIDカードは、異常なく、
難なく入口のセキュリティーを突破、
竜司改め、「キリアン・リーブ」は、最初の関門を通過する。
カードも、もちろん偽造ではあったが、
本物と相違ない、精巧な作りだ。
「さてと...。」
一旦、トイレに行き、個室に入って便座に座ると、
頭の中で、ビル内部の地図を整理する。
ターゲットのいる場所へ辿り着くには、
いくつもの障壁がある。
監視カメラ、赤外線、定期的に周回する
ドローン...etc
あらゆるセキリュティが、各フロアで張り巡らされている。
だが、幸いにも、彼女のいるフロアでは、
パーティーが開催されており、
幾分か、侵入しやすい状況だ。
加えて、招待客という体であるから、正面突破は容易い。
だが、油断は禁物、
仮に、最上階で、デッドヒートになれば、
下の階に逃げるしかないし、エレベーターも
使えないだろう。
逃げ道が塞がれて、袋のネズミにでもなれば、
それこそ、命がいくつあっても足りない。
なるべく、事を荒立てない行動が望ましい。
ーー飛んで火にいるなんとやら...か...。
これから、敵陣の中心へと飛び込むのだ。
竜司は、我ながら、危なっかしい事をしている事を
自覚して、苦笑いした。
「逃げ道は確保しとこ...。」
もしものための脱出口も考えながら、トイレを後にした。
そのままエレベーターホールへと向かい、
エレベーターに乗り込むと、最上階のボタンを押す。
ーーここまでは良し...。
頂上に着くまでの間、竜司は、松田峰香の事を思案した。
松田峰香、年齢50歳、
現在、竜司と同じ会社で働く
それなりの地位にある人物、
起床の荒い性格、情緒不安定、
また、本人は無自覚だが、アルコール依存症、
好みの男性は、歳下、
特に、外国人の様な濃い顔がタイプ、
男性遍歴はクセのある人ばかりだ。
7股もするヤ○チン男と交際、
30代後半でようやく縁談が来るも破談、
男性不信に陥いる、
そして、現在、(自称)外国人の歳下の
恋人とトラブルの渦中...etc
ーー叩けば埃が出てくるなぁ...。
竜司は、事前にインプットされた彼女の情報に、
改めて、面倒に巻き込まれた事を実感した。
「はぁ...。」
ため息が漏れるばかりだが、問題は、彼女のバイアスだ。
彼女を縛っているモノは明白だが、
それを彼女自身が受け入れられるのかは、
また話は別だ。
ーーまぁ、別にあの人に、同情する事はなければ、
思い入れとか、情もないし、容赦無くいくとするか。
物騒な考えでまとめる竜司であったが、
峰香には、荒療治の方がテキメンだろう。
ーーチンッ!
最上階へと到着した。
気づけば、150m以上も上がっており、
地上がもはや視認できない状態だ。
「さて...ここからが本番だな。」
そう言いながら、竜司は、エレベーターを出て、
大きな扉の前まで歩いていくのであった。




