魔女の呻きVol:8
聖女は、黒のドレスで全身を覆い、
ブラックハットを被っていた。
帽子からは、黒色のレースが垂れ下がっており、
ほんの少し透けて、顔を確認できる。
故人を偲び、喪中に服す様な格好だ。
竜司にとっては、ただでさえ、
得体も知れない存在感を放つ聖女が、
全身黒づくめの服装と相まった、
それが、彼を恐怖に陥れたのだ。
ハッキリ言おう、竜司は怖さのあまり、漏れる寸前だった。
摩天楼に囲まれた、大都会の空は曇り、やがて、雨が降り始める。
身体が震えていた竜司に、聖女は、
人差し指で、彼の背中を押す。
すると、ピタリと彼の震えは、収まった。
「...はぁ...はぁ...。」
竜司は、硬直から解放され、息を乱している。
「竜司さんの中で、何か底知れないモノを感じたのですね。」
「いずれ、そのトラウマとも向き合う刻が来るでしょう。」
聖女は、異様な怯えていた竜司の様子にも、
微動だにせず、いつも通り、淡々と言葉を連ねる。
ーー...。
いつもならば、心のツッコミを一つや二つ、
軽口を入れる場面なのだが、それすらできない程、
竜司は、まとわりついていた恐れに慄いていた。
右手の平を見つめがら、呼吸を整えようとする。
「ふぅ...。」
心拍を安定させ、意識も取り戻しつつあった。
「では、今回の作戦ですが...」
雨足が強くなりつつあるが、聖女は構わず、
今回の夢の潜入ミッションを伝える。
「特に、ありません。」
ーーないのかい!
ツッコミのあまり、竜司は、ズッコけた。
「ひとまずは、彼女とコンタクトを取ってください。」
「彼女いるビルの防御は、張り巡らされていますが、
訓練されていないので、堅牢ではありません。」
「ただし、逃げ道は限られているので、隠密行動でいきましょう。」
「ビルの詳しい情報も、すでにインストールされています。」
竜司は、試しに、意識を頭に向け、
これから忍び込むビルを思い浮かべると、
あらゆる情報が出てくるのを確認できた。
「では、健闘を祈ります。」
そう言い伝えると、聖女は、また姿を消す。
竜司は、振り返り、装着していたサングラスを
一度、外して、これから潜入するビルを見上げた。
ここに、また一癖、二癖もあるターゲットがいる。
また命がけのミッションが始まる。
「...行くか。」
竜司は、サングラスをつけ直し、
歩を進め、ビルの入り口前の階段を上がって、
内部へと侵入していくのであった。




