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6.
「来ないで!」
「まあまあ、そんなに怖がるなよ。捕食して溶かしやしないぜ」
尻で枕を踏んで壁に背中をくっつけたリュドミラは、前進をやめたスライムがそう言ってもすぐには信用できない。
「こっちに来ないで!」
「へいへい」
ピクリともしなくなったスライムの全身に視線を這わした彼女は、攻撃をしてこないことにちょっとは安心した。そして、ゴクリと喉を鳴らして唾を飲むと、震え気味の声を出す。
「あ、あなた、な、名前は?」
「名を尋ねるなら、先に名を名乗れ」
もっともなことを言う不思議な魔物がいるものだと思った彼女は、深呼吸をして名前を告げた。
「リュドミラよ」
「ふーん」
「…………」
「…………」
「そ、それで終わり!?」
「おおっ、俺の名前か?」
「そうよ」
「コホン。聞いて驚くなよ」
「(ゴクッ……)」
「名前は――まだない」
「はあ!?」
「あるわけないだろ、魔物の個体それぞれに」




