5.
スライムはリュドミラの悲鳴に動揺したのか、大きく上下に揺れた。そのおかげで、背後の夕陽が飲み込まれ吐き出されを繰り返す。
歯の根が合わないリュドミラは、そんな滑稽なスライムの動きを見ても、恐怖に支配されて声が出ない。ディミトリはふかし芋を抱えたまま椅子の下に潜り込み、「キー! キー!」と鳴きながら縮こまっている。
揺れが収まったスライムは、突然、早回しのテープレコーダーのような高い声を出した。
「ども」
たった二文字の短い挨拶を終えたスライムが、下方向に体を半分ほど縮め、すぐに斜め上方向に体を伸ばした。人間なら膝を大きく曲げて弾みを付けてジャンプした格好だ。そうやって、「よっこらしょい」と言いながらボヨンと音を立てて床に着地し、再び上下に大きく揺れた。
「なんだ、いるのかよ。昼間来たら誰もいないから、てっきり空いていると思ったぜ」
「スライムがしゃべった!」
「おいおい。『ども』の段階で気付よ。おせーなぁ」
「…………」
「無視かよ! ……ま、いい」
今度はスライムが前後に伸び縮みしながらヌルヌルと床を這ってリュドミラに迫ってくるので、彼女はベッドの上で両手をばたつかせ、枕元まで尻を滑らせて後退した。
しゃべるスライムなんか見たことも聞いたこともない。
人が魔法をかけられてスライムになったという話は、魔法の勉強していたときにも耳にしたことはなかった。
だから、目の前にいるスライムを見て、リュドミラは夢を見ているのではないかと頬をつねる。しかし、痛みを感じただけで、スライムは依然として迫ってくる。
「ちょっといいか?」
夢ではない。本当にスライムがしゃべっているのだ。




