31.
黒いローブに黒いフードを被った魔女は、かなりの年寄りに見えた。
イワンは魔女を一瞥しただけだが、魔女はギラギラした目でイワンの方を向いている。
「黒魔術の魔女だな」
ドミトリーは魔女を睨み付ける。
「そうさ」
魔女は前歯が抜けた歯をむき出しにし、しわがれた声で答えた。
「名前はアガーテだな」
「ああ、そうさ」
「最初に会ったときはもっと若かったはずだが」
「そりゃ、変身魔法でどうにでもなるさ」
「この中に俺に近づくように指示した奴がいるはずだ。そいつはどこにいる?」
「そこさ」
魔女が顎で指し示す先にイワンがいた。
「このイワンだな?」
「そうさ」
「イワンはお前に何を依頼した?」
「王子が変装して町にいるから、王子に近づいて変身魔法を教えろと言ったのさ」
「何の変身魔法だ?」
「スライムさ」
謁見の間にざわめきが広がる。
「なぜ、スライムに?」
「誰かに殺させるためさ。人間より魔物の方が殺しやすいだろう? 魔物だという言い訳が立つし」
「スライムにした後、お前が消えた理由は?」
「いなくなれば外に出るだろう? すると、傭兵とか勇者にでもやられるだろうと思って放置したさ。あたしゃ、殺しは嫌いなんでね。……ところが、スライムっていうか王子はこの国に戻ってきてしまった。そしたら、またイワンから指示が来たのさ」
「なんて?」
「薬剤師がそっちに行くように仕向けたから、『しゃべるスライムの核を切り刻んで煎じて飲ませればよい』と言えと」
ドミトリーは、青ざめるイワンを見て薄ら笑いを浮かべた。




