21.
スライムが捕まってから十日が過ぎた。
朝食を手早く済ませて今日も嘆願に出向こうと支度をしていたリュドミラの所に、伝令の警備兵がやってきた。
まさか、スライムを厳罰に処することを伝えに来たのかとビクビクしていると、彼は意外なことを口にした。
「国王陛下の御前にて、お前の小話をスライムと一緒に披露することに相成った。迎えの馬車を横付けしてあるので、直ちに支度せよ」
夢ではないかと頬をつねるリュドミラだったが、「聞こえぬのか!」と兵士が怒鳴るので大慌てで着替えを済ませ、ディミトリを連れて部屋を飛び出した。
リュドミラは、廊下で待っていた三人の警備兵と伝令の四人に連行されるように階段を下り、宿屋の外で停車中の馬車に肩をすぼめてディミトリと乗って王宮へ向かう。
窓の外は、警備兵と視線を合わせない通行人ばかり。たまに、リュドミラの姿を認める者もいたが、哀れみの表情すら見せなかった。
王宮に到着するとさらに警備兵が増え、リュドミラとディミトリを取り囲む。その集団が長い廊下をゾロゾロと歩いて謁見の間に入った。ここは、彼女が一度も招き入れられたことがない部屋だった。
噂には聞いていた豪華な調度品と彫像と絵画に目を奪われ、天井にまで描かれた神話の絵画に圧倒されて息を飲む。
しかし、そんな感嘆は長くは続かず、ズカズカと兵士や高官が現れ、たちまち恐怖に取って代わる。ドレスの裾を引っ張るディミトリも震えているようだ。
幾重にも囲む聴衆の人垣にはもう慣れていたが、高官たちの威圧的な視線は初めてで、すっかり自信を失ってしまった。
緊張のあまり、小話の途中で台詞が飛ぶかも知れない。そう思っただけで頭が真っ白になり、目の前の彼らが霞んで見えなくなっていった。




