57 復帰
忘れないでいてくださった方に感謝です!
リカルドとセレイナは共に王宮へと急いだ。
王宮全体に結界が張られているため、中へは直接転移することができない。
ルーニーの強いものにとってはできないこともないがそれが規則であるのだから、それを破れば不法侵入となり敵とみなされる。
警備がいる王宮入口前へと転移した2人は、入口警備の兵に会釈されながらリカルドを先頭に中へと進んでいった。
王宮の入り口も事件対策本部となっている広間の扉を護衛官が開ける際にも、リカルドの半歩後ろを颯爽と無言で歩く殺気立つ美麗な人物については誰も止めることも訊ねることもしな…いや、正直なところできなかった。
広間に入ると只ならぬ雰囲気のリカルドと、怒りが漏れてスパークを纏っている長身美人の見知らぬ女性に注目が集まり一旦場が静まり返った。
しかし誰も話しかける者はいなかった。
リカルドは広間を横切りその奥に設えた王太子用の部屋の扉をノックし戻ったことを告げた。
すると直ぐに入室の許可がされセレイナを伴って中へと入った。
ルーカス殿下とジョゼフはリカルドと共に入ってきた女性に目を向けた。
入って来た女性は着ている物こそ中流女性の日常着ではあるが、王族に対してする淑女の礼を完璧にとった後に名乗った。
「ルーカス王太子殿下。初めてご挨拶をさせて頂きます。突然の無礼をお許しください。私はリカルドの母でセレイナ・サルバドールと申します。」
王太子殿下は驚く表情などせずニヤリと口角を上げ答えた。
殿下は彼女が名乗る前から漏れ出たリカルドとそっくりなルーニーで、既に素性は特定してしまっていたようだ。
「ああ、あなたが『光』の称号を持つ魔道騎士か。逢えて光栄だよ。おおよその事情はリカルドから聞いているから畏まらずにね。」
殿下にソファーに促されたセレイナは腰掛け、リカルドはその背面に立った。
リカルドも孤児院での事件のことは概要しか聞いていなかったので、セレイナが話す孤児院であったことの一部始終を共に聞いた。
ユリアーヌが攫われたことの全てを話し終えるとセレイナは、一度は自ら捨てた騎士ではあるがこの件を手伝わせて欲しいとルーカス殿下に頭を下げ願い出た。
ルーカス殿下はそんなセレイナを見ながら再びニヤリと口角を上げこう言ったのである。
「サルバドール、随分と長い休職ではあったが無事に復職されることを私も嬉しく思う。」
殿下の言葉をリカルドとジョゼフに加え、本人のセレイナでさえ一瞬何を言っているのか分からず目を見開き言葉が出ないでいた。
「ん?どうした。確か20年前に休職願いが出され受理されてたぞ。正式には復職の書類も出さないといけないが、これから用意させるから後で記入して提出しておいてくれ。20年ほど前と軍の体制が少し変っているから正式な所属は後日だな。それまでは私の近衛所属の特別任務としておこう。どうせ軍の主な書類決裁は私だ。ははは、そうだな今から君の復職を許可する!」
あっけにとられている3人をよそに、ご機嫌なルーカス殿下はランデスター教新聖派を捕縛するための作戦会議をすると言う。
「サルバドール、広間を出て左側の部屋が女性騎士の更衣・休憩室になっている。復職したのだから騎士服に着替えてきたらどうだ。」
ルーカス殿下はセレイナの傍らの大きな包みに視線を落とすと笑顔でそうセレイナに向かって言い、その後立ち上がると自ら部屋の扉を勢い良く開けると手を一つパンと叩き良く通る声を広間に響かせた。
「さあ、作戦会議を行う!今から20分後だ。」




