52 歓喜
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翌朝ユリアーヌは侍女のアリスが起こしにくる前に目が覚めた。
カーテンの閉まっている室内はまだ薄暗く、聞こえてくる屋敷内の物音もあまりしないことから夜が明けたばかりなのだろうとぼんやり思う。
ユリアーヌは目を閉じまだはっきりとしない頭でサイドテーブルにあるスタンドライトを点けようと、青い石を使っていた時のようにルーニーをコントロールするように力を巡らせた。
そして青い石を身に付けていないことを思い出し「あっ、そうだったわ。」とひとり苦笑した。
幼い頃に青い魔石を手にしてから訓練を積み、まるで自分のルーニーの様に使えるようになっていたことは簡単には抜けないものだ…と思いながら、ゆっくりと瞼を持ち上げながらボタン式にしてもらったスタンドライトのスイッチに触れようとした。
「!?」
スタンドライトのボタンに手を伸ばし触れる直前、ユリアーヌは驚きではっきりと目が覚めた。
灯りは既に点いていたのだ。
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思考が一瞬停止したが、もう一度自分にはないはずのルーニーを操ってライトを消してみる。
消えた!
今度は部屋の灯りを点けてみる。
すると部屋の四隅に設置された灯りが点き全体を明るくした。
ユリアーヌは思わず寝衣のまま部屋を飛び出し、隣接するリカルドの部屋の扉を叩きリカルドの名を呼んだ。
「どうした?」
既にリカルドは起きていて部屋の灯りを点け着替えている途中だったようで、シャツのボタンは止めておらず羽織った状態で扉を開けた。
「リカルド様、私ルーニーが使えます!」
「?…ユリア、何か…夢でも見たのか?」
慌てて飛び込んできてリカルドの腕を掴み、花が綻ぶような笑みで突拍子の無いことを言う。
薄手の寝衣のユリアーヌにリカルドは驚いていたが、その澄んだ笑顔の持ち主に手近にあった自分のガウンを肩にかけた。
「本当なのです。見てください!」
先ほどと同じようにリカルドの部屋の灯りにユリアーヌが働きかけると灯りが消えた。
「ほら、消えましたでしょ?青い石もないのに!」
子どもの様に無邪気にはしゃぐユリアーヌに「・・・ちょっといいか?」そう言ってリカルドは手をかざしユリアーヌのルーニーを調べた。
「・・・ああ、分かったぞ。あと2~3回点けたり消したりすると終わってしまう量のルーニーがユリアの中にある。でもこれは…。」
リカルドはユリアーヌのルーニーが自分のものだとすぐに感じ取った。
そして自分のルーニーがユリアーヌの中に存在する理由を探し、記憶をたどった。
リカルドは昨日の夢中になって深くなってしまった口づけが原因ではないかということに行きついた。
リカルドのルーニーが知らず知らずルーニーを持たないユリアーヌに流れ込んでしまっていたのだろう。
ルーニーを持たないユリアーヌは幼いころからペンダントの青い魔石の力を利用するために、魔石をコントロールする術を訓練し身に付けた。
その術がリカルドから漏れ出た自分のものではないルーニーを無意識に取り込み、操ることができることに繋がったのではないかと説明した。
これはルーニー研究機関も驚く、すごい発見だとリカルドは思っていたのだが…。
「では、またすぐに使えなくなってしまうのですか…。」
ユリアーヌはしょんぼりしながら言った。
そんなユリアーヌが可愛らしく愛おしく思ってリカルドはきつく抱きしめながら口づけをする。
そして今回は意識しながら己のルーニーをユリアーヌに流し込む。
朝から少々濃厚な口づけに真っ赤になっているユリアーヌにリカルドは言った。
「ほらこうやって俺が君に毎日ルーニーを分け与えたらいいのではないか?」
ニヤリと楽しそうに笑うリカルドに対して、「もう!」と、真っ赤になったユリアーヌが彼の胸を押して離れた。
「もう少しルーニーが長持ちする方法はないのかしら。」
そんなユリアーヌの呟きにリカルドは今回の件を踏まえると、確証はまだないができる方法に心当たりがないわけではない。
しかし純朴な彼女に今は未だそのことは伝えない。
この日からリカルドの理性が保てる時刻=朝のひと時が、甘い時間に変わったのは言うまでもない。




