42 互いの秘密と告白と
やっと♡
「ユリアも状況が分からなくて不安だろうから、少し話しをしようか。」
リカルドはまず、ユリアーヌの記憶があいまいだと言う所から話し始めた。
魔獣を倒し仲間が到着して直ぐに森に入って、御者のヨハンを間一髪のところで救うことが出来たこと。
ヨハンは襲ってきた者に肩を傷つけられたが、命には別状なく手当てを受けた後にオルスター家に送り届けられたこと。
ユリアーヌを襲った老人を拘束したが、その後捉えられておらずいつの間にか姿を消していたこと。
この度の事件で王太子殿下が指揮を執る捜査本部が置かれることになったので、神聖派の内部にまで調べが及ぶようになるだろうこと…。
それから自身のことも。
ユリアーヌを守るためには仕事柄、あらぬ反感などから攻撃されることも考えて住み始めた当初から強固な結界を張っているこの屋敷が最適であると考えて連れてきたと話した。
連れ帰ったときに更に結界を強化したこと、自分が屋敷から離れる場合は母セレイナに警護を任せているということも話した。
「ユリアが医師の処方した薬で深く眠っている間にアーノルド殿とフィルダナ大臣がやって来たと母から聞いた。どうやら彼らは母と旧知の仲らしく、君がここに留まることを承知して帰ったと言っていた。」
あの父がここに留まることを簡単に許すなんて考えられないだけに、ユリアーヌは驚いていた。
「あの2人を納得させられるなんて、セレイナ先生…リカルド様のお母さまっていったいどういう方なのでしょう?」
笑いながらリカルドは、母親と自分の話を始めた。
「母は…訳あって身を隠すように生活をしている。もともとは高位貴族の生まれで非常に強いルーニーと抜群のセンス、優秀な頭脳を持っていたから学校は飛び級したらしい。歳こそ違うがそのときに共に学んだ友人だったのが、アーノルド殿とシルベス殿だということだ。卒業後、母は魔道騎士となって程なくその活躍によって王より「光」の称号を与えられた。
その頃母には想い合った相手がいて、その男の子どもを身ごもった…それが俺だ。しかし家柄なのか相手側の事情なのか分からないが、一緒になることは許されなかったようだ。
母は俺に父親の話をしない。きっと軽々しくできないような事情を持った人なのだと思っている。
母の父親…俺には祖父だが、相手の男の名を言わない未婚のままの母を家の醜聞になると勘当した…と言うのは世間向けのことで、実のところは内密に孤児院を設立し母を経営者としてそこに置いて、経営が軌道に乗るまでは嫁いだ祖父の妹名義で寄付をして影ながら支えていた。
俺が名乗っている『アーバンヒル』は曾祖母の実家の姓だ。
俺は孤児ではなかったが魔道学校の寄宿舎に入るまでは、母と共にアシャンテ孤児院で子どもたちと寝食を共にしていた。
俺がこの屋敷を賜ったときには、俺が生まれたときに支えてくれた母の乳兄弟や侍女に来てもらった。ユリアの診察をしたのも母の実家のお抱え医師だ。皆信用のおける者だから安心して欲しい。」
リカルドから聞く話は驚くことばかりであった。
しかし自身も秘密を抱える身であるユリアーヌにとって、先に大切な話をしてくれたことで自分も話がしやすくなった。
ユリアーヌは一呼吸おくと「では私の話もしますね。」と意を決し、自分のことを語り始めた。
誰かに『自分のこと』を自ら話すことは初めてでとても緊張したが、きっとリカルドならありのままの自分を受け止めてくれるのではないかと感じていた。
ユリアーヌも自分の現在までの状況を包み隠さずリカルドに伝えた。
「実は前からユリアのルーニーに少し違和感があった。今はそのペンダントが無いからルーニーも感じられない、だが体の調子が悪いわけではない…ということなのだな。ユリアが『渡り人』なら以前の…、こちらの世界に来る前の記憶は少しでもあるのか?」
「全くないとは言えませんが、幼かったこともあって確かな記憶といいるかは分かりません。どこか非現実的で客観的に見ているような断片的なもの…記憶と言うよりは『夢』のような感じです。私と同じ色の瞳と髪の女性が微笑んでいる姿やその人が唄う歌の一部とか、木にたくさんの白なのか薄いピンクなのか…花が咲いた並木道だとか、紙を折って作ったものとか。子どもの頃はそれが何なのか分からなかったのですが、きっとそれが『ユリアーヌ』になる前の私の記憶なのだと思います。」
「偶然でも君がオルスター夫妻に保護されてよかった。」
「本当に運が良かったと思います。召喚術が成功していたら私はどうなっていたか。それに保護された後も場所やその人たちの気持ち次第でどうなっていたか…。
オルスターの母は体が弱く子が望めないと分かっていましたが、それを含めて父は母と結婚したそうです。互いに納得の上の結婚でしたが本人たちがよくても、世間の風当たりは思っていた以上に強かったようです。気にしないように努めていても周りの反応にだんだんと互いがどこか気を使いすぎるようになり、母は父に申し訳ないと思う気持ちが強くなってしまったと言います。父はそんな母を気遣いすぎて溝が生まれてしまったようなのです。けれど私を娘にしたことで徐々に2人の関係も元通りになっていき、やっと本当に家族となれたと言っていました。ただ私を家族にすることで書類などに多少の虚偽をすることになってしまったようです。けれど伯父の話では先日、王太子殿下がそれを不問にしてくれたと聞きました。」
「まあ…書類の虚偽は私の家も何か言えた義理ではないな。」
人生が秘密だらけだった2人は、お互いの顔を見合わせて微笑んだ。
ユリアーヌはこの幸せな時間がずっと続けばいいと思いながら、ふと心に過ぎる不安を口にした。
「あの…、私をこちらのお屋敷に置くことでリカルド様の…。あの…その…。」
「ん?どうした?」
ユリアーヌは言いたいことがうまく言えず真っ赤になってしまう。
それでも思い切って自分の想いを伝えたいと思った。
「私がリカルド様のお屋敷にいたら、恋人やご婚約者が嫌がりませんか?それにリカルド様の醜聞にもなってしまいます…。」
「ああ、そんなことか。あいにく臍を曲げるような恋人や婚約者はいなし、醜聞になって困るような家柄でもない。俺よりも女性のユリアの方が迷惑だと思うのだけれど、それについて君はいいのかい?」
「私は…。リカルド様とだったら…構いません!」
俯き真っ赤になりながら勇気を振り絞りユリアは答えた。
その様子にリカルドは堪らなくなり、グッと彼女を自分の胸に引き寄せ抱き締めた。
「君こそリングラン国のナサニエル・イスバス殿ととても親しげで、それに…ルーカス殿下のお妃候補だという噂も耳にした。」
「王太子殿下の!?それはありません。それにネイサンは血縁です…戸籍上ですけれど。幼いころはエリックと3人、フィルダナ家で遊んだ仲で兄妹みたいなものです。」
リカルドはずっと心に引っかかっていたものがふっと取れた。
抱きしめ合う互いの体から、強く早い鼓動が伝わってきた。
リカルドの抱きしめる力が緩み、少しだけ体が離れる。
ユリアーヌがリカルドの肩口に押し当てていた顔をあげると、互いに見つめ合う形になりリカルドがユリアーヌの額に口づけた。
リカルドがソファーから立ちあがったことで彼の体がそっと離れた。
そしてリカルドはユリアーヌの前に跪く。
左手を自分の胸に当てユリアーヌの返事を請うように、彼女の右手を取りその手の甲を自身の額に当てた。
「俺は…ずっと…たぶん初めて会ったときに惹かれ始めたのだと思う。君のことが好きだ。ずっと一緒にいたい。だから…これからの人生を共にしてくれないか?」
この国の騎士がする正式な求婚にユリアーヌは驚きすぎて、暫く何も言えなくなってしまった。
やっと喉の奥から声を押しだすようにしてユリアーヌもリカルドに告げた。
「はい。私も…リカルド様のことが…好きです。これから先も共に在りたいです。」
その返事を聞いたリカルドはユリアーヌの手を自身の額から外し、その甲に唇を当て誓いのキスをした。
ユリアーヌの黒い瞳は驚きと嬉しさと幸福で潤んでいたが、気持ちが通じ合った喜びに花開くような笑顔をリカルドに向ければ、彼はその愛らしい唇にそっと口づけ再びきつく抱きしめた。
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