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この度もお読みくださりありがとうございます。

ブクマ&拍手&コメに背中を押され、投稿を頑張っています。

サナ植物庭園は王都の中心から少し離れたところにある。

もとは王立の植物園だったこともあり、国内外のたくさんの植物が展示されている。

行動範囲の広くなかったユリアーヌのお気に入りの場所の一つでもあり、昔からよく足を運んでいる。

ここには国内最大の温室もある。


温室に来るようにとの指示ではあるが、なぜ植物公園なのか?その温室なのか?全く分からない。

頭をひねりながら温室に入ろうと入口に近づけば、入口に立つ案内係が扉を開けてくれる。


「あの…『プロテア』が見ごろだと聞いたのだけれど…。」


少し緊張しながらリカルドに指示された言葉を伝えた。


「承知しました。こちらでございます。」


案内係が扉の内側に控えていた白髪の混じるコンシェルジュに引き継ぎ、そのコンシェルジュが笑顔で案内をしてくれるのでその後ろをユリアーヌと侍女のアリスが続いた。


温室の最奥には3メートル程の木が数本茂っていて、その裏に鍵のかかった『立入禁止』と書かれた扉が隠されるようにあった。

コンシェルジュが手をかざすと鍵が開き、その扉を抜けると地下へと階段がつながっていた。

コンシェルジュに続きユリアーヌとアリスは階段を降りていく。

降りた先には赤いじゅうたんの敷かれた廊下が広がっており、まるでそこは王宮の中であるかのような明るさと装飾に2人は驚く。


「お嬢さまはこちらへ。お付きの方はあちらが控室となっておりますのでそこでお待ちください。」


そう言われて、伴われた侍従が控える部屋の前でアリスと別れる。

その向かいの部屋の重厚な扉を開けてくれたコンシェルジュが「お連れ様がご到着になりました。」と、中の人物に声をかけユリアーヌが入室するとソファーまで案内してくれた。

ソファーに座る人物が立ち上がった。


「急な呼び出しで申し訳なかった。大丈夫でしたか?」


当然居るのはリカルドなのだが、いつも見慣れている騎士服ではなく私服で撫でつけていない自然な髪の、

普段と違う雰囲気の彼にドキリとする。

中に着ている白いシャツには濃いグレーの細いタイが緩く巻かれ、細身の黒いパンツに同じ色で丈が長めのジャケットを羽織っていた。

固まっていたユリアーヌは、ここが室内だというのにまだつばの広い帽子を被ったままだということに気が付き、慌てて帽子を取り手袋を外す。


「私は大丈夫です。アーバンヒル隊長様の方こそ、お休みの日でしたら申し訳ありませんでした。」


少し慌てて返事をしたユリアーヌに、座るように勧めてリカルドも座る。


「お嬢様のお飲物もご用意いたしますが、何がよろしいですか?」


コンシェルジュが聞くのでユリアーヌは紅茶をお願いした。


「植物庭園にこのような場所があるなんて驚きました。」


「一般には公表されていない場所なのです。昔まだここが王家の持ち物だったころに秘密の会談や逢瀬が行われていた場所だったとか。今日はお会いしてお話を聞くのに何処ですべきか悩んで、殿下の札を使わせてもらいました。」


リカルドはそう言うと内ポケットから彫金の札を覗かせた。


「今朝はあのような方法の伝令を送ってしまい、驚かれたのでは?」


「少し驚きはしましたが、すぐに伝令だと気が付きました。私も送られてきたものを何度か見たことがありますが、今日のようなものは初めて見たものでした。普通は鳥や蝶の形を模して飛んできますから。」


それを聞いたリカルドは昨晩通常の伝令を何度か飛ばしたが、その伝令がオルスター家の手前で消失してしまったことを伝えた。


「恐らく強力なシールドが敷地に張ってあり、アーノルド殿の許可の取れていないものは全て弾かれてしまうようになっているのでしょう。その他にも…ユリアーヌ殿に現在位置を知らせる術がかかっていますよ。」


「えっっ!!!」


あまりにも驚きすぎて思わず立ち上がってしまい、膝の上にのせていた帽子と手袋を床に落としてしまった。

慌ててそれらを拾って再び座ったユリアーヌを見てリカルドは微笑みながら言った。


「ですからお会いする場所も『植物庭園』という、あなたがよく来られるという情報をもとに不自然ではない場所にしたのです。私はまだオルスター総務官に抹殺されたくないので。」


リカルドの言葉の最後は笑い声が含まれていた。

それでもユリアーヌは過保護すぎると思われる父の行為や、昨日の非礼な振る舞いを思い出して赤面した。


「昨日は父が失礼な態度で、申し訳ございませんでした。普段は違うのですが。」


「私も普段のオルスター総務官を見知っているだけに、少々驚きました。」


「お恥ずかしい話ですが…母によるとどうやら、私に関わる男性に対してよくする態度のようです。」


「そうなのですか。私は母一人子一人の家庭でしたので、男親が娘を大切にする気持ちがわかりませんが、父親にはいろいろと思うところがあるのでしょう。」


リカルドが「ユリアーヌ殿も大変ですね。」とフワリと笑って言う姿にドキリとする。


その後ユリアーヌは警護の術が施された理由や一連のことについて父アーノルドから聞いたことを伝えた。

リカルドは昨日聞けなかった日常的に行く場所や主な交友関係などを訪ね、手帳に書き留めていた。


「改めて上げてみると行動範囲が狭いうえ、交友も少なくて恥ずかしいです。」


ユリアーヌが少し俯いてしまう。


「警護する側にとっては非常にやり易くて助かります。」


リカルドがそう言ってくれたので、再び顔を上げて彼の顔を見ることができた。

ユリアーヌも警護に関することで幾つか質問した。

それが終わってしまうと、なんとなく会話も途絶えてしまった。



先に口を開いたのはリカルドだった。


「この後の予定は?」


リカルドは意味のない小さな咳払いをしてから言った。


「特別な用事はありません。父も領地の叔父に呼ばれて出かけていますので、ゆっくりと植物庭園を見てから帰ろうと思っています。」


「そうですか…。あの…、せっかくですから私と温室を回りませんか?」


リカルドは温室散策に誘った。

もちろんユリアーヌは喜んで申し出を受けた。


最近ユリアーヌは外出時に大きなつばの帽子をかぶるように両親から言われた。

その帽子は珍しい黒色の髪と瞳を人眼から隠してくれる。

話をしていた部屋を後にし、コンシェルジュに誘導されながら温室へと続く階段を上り、「立入禁止」の扉へと戻ってくる。

別室で待たせている侍女のアリスには、温室を見て回るから馬車で待機しているように伝えて欲しいとコンシェルジュにお願いをした。


コンシェルジュが扉を開けると、2人は扉の外に出た。

扉は樹木の影になっていて順路からは気付かれない。


「もし嫌でなければエスコートさせてください。」


リカルドはユリアーヌに右腕を差し出し、笑顔で「はい」と頷いたユリアーヌはその腕に手をそっと乗せた。

1人で歩く時よりも控え目に、ゆっくり歩くリカルドの半歩後ろをユリアーヌが歩いて行く。

歩き出したリカルドはユリアーヌが焼き菓子を届けてくれたあと、お礼の言葉一つ伝えていなかったことに気がつく。


「そういえば先日は焼き菓子をありがとう。お礼を言うのが遅くなってしまっていた。食べるのが惜しいくらいで、でも食べてみればとても美味しくて。おまけに部下たちにも振舞ってくれ、すごい喜びようだった。」


「皆さんに喜んでもらえて私もうれしいです。アーバンヒル隊長様のお口には合いましたか?」


「もちろん!…もし…よかったら、また作ってはくれないだろうか?…ああ、もちろん私にだけに。」


照れながら切れ切れに言うリカルドの耳が赤くなっていることは、大きな帽子にさえぎられてユリアーヌは気付いていない。


「もちろんです。喜んで!」


頬を少し染めてユリアーヌは言った。



二人は庭園を歩きながら展示されている植物を丁寧に見ていく。

意外だったのはリカルドが存外に植物のことに詳しいということだ。

ただし植物の種類や名前ではなく、国内の植物であればケガや病への効用だとか薬としていくらの価値だとか。

外国のものであればどの国との友好の証で贈られたものであるだとか、○○王がどこそこに凱旋したときに持ち帰ったものだ…などという話であった。


ユリアーヌも植物庭園が好きでよく足を運んでいる。

それで植物の種類やその生態には割と詳しくなっていた。

だからリカルドの話す うんちく はとても面白く興味が持てた。

じっくり一つ一つ解説をしていたせいで、温室内を一回りするだけで結構な時間を要した。

ユリアーヌは帰らねばならないことを告げる。


「とても楽しい時間でした。ありがとうございました。」


「私も楽しかった。今日は温室だけだったので、ぜひ次の機会には庭園を一緒に回りたいものです。」


男性からの誘いを受けたことなどなかったユリアーヌはリカルドの「次の」という言葉にほほを染めた。


「それから…」


また同様に自ら女性を誘ったことが無かったリカルドだったが、思い切ってずっと心にあったお願いを口に出してみた。


「それから私のことは『アーバンヒル隊長』ではなく『リカルド』と呼んでもらえないだろうか?」


「えっ!」


「あっ、いや…もちろん『リカルド隊長』でも構わないのだが…。」


彼らしくない動揺する姿が、今まで彼が女性の扱いに慣れているように見えていたユリアーヌには微笑ましく思えた。


「では、リカルド様…と呼ばせてもらいますね。私のことは『ユリア』と。呼び捨てで構いません。それからあまり畏まらずにお話してください。」


二人の顔が赤いのは、きっと周りを赤く染める夕焼けのせい。

馬車乗り場に現れ話をしているユリアーヌを見つけたアリスが「ユリアーヌさまぁ!」と手を振る。

そのアリスを乗せた馬車がユリアーヌの前まで来ると、リカルドが扉を開いてユリアーヌの手を取り馬車に乗せてくれる。

リカルドは手を放す前にユリアーヌの手をキュッと一度強く握ってから離した。


「ではまた。ユリア。」

「はい。さようなら、リカルド様。」


リカルドが扉を閉め3歩ほど下がる。

御者のヨハンがリカルドに会釈をし、馬に出発の合図を出した。

馬はゆっくりと歩き出し、カツカツと石畳を行く蹄の音を響かせながら遠くなっていった。

ユリアーヌまさかのGPSが付けられていたうえに、ウイルスバスターで手紙(伝令)も弾かれていた事実を知った日(笑)

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