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前進~2~

テスト期間なので大分更新がキツイです。時間はかかりますが、ゆっくりやっていこうと思います。


誤字脱字、その他感想や「こんな描写も試して欲しい」という意見なども待っております。他のことでも構いません。


この作品がより良いものとなるように、これからも頑張っていきます。

 《始まり街道》はズラッと並べられた石畳が道を構成しており、その中にモンスターが進入することは出来ない。いわば初心者ニュービー向けに作られた初級ステージのようなものだ。石畳を外れて歩くとそこに広がっているのは草原で、初心者でも安全に倒せるよう設計されたモンスターがそこら中で派手に動き回っている。まるで倒してくださいといわんばかりに、だ。


 俺は道を外れて少しの草原で、この世界において戦闘の基本である《バトルスキル》の体得に努めていた。


 俺が見つけたのはこの領域内でも最もポピュラーな大兎、《クルーラビット》。レベル1の俺からしたら格好の獲物であり、他プレイヤーにとっても経験値獲得の対象として長きに渡って狩られることになるリバルダイト内で最弱のモンスターだ。


 俺は気が付かれないように背後から忍び寄り、腰の鞘から片刃直刀を抜いた。視界の大兎には円形のカーソルがあてられ、敵であることを示す真っ赤なアイコンを映し出していた。


「――ふっ!」


 気が付かれる前に一気に近づき、初撃をどの位置に当てるか見定めてから俺は剣を振るった。鋭い刃による一撃をもらった大兎はキィィ、と甲高い声を上げながら、鮮血にもよく似た光点を振り撒きその場で倒れ伏せた。しかし致命傷には至らなかったのか、倒れた後も足を震わせながら大地に脚を突き立て、起き上がる。その一連のやり取りを見ながら、俺は不思議な感覚に陥っていた。


「これで……せいっ!」


 俺は止めに《アブレーション》の片手用直刀スキル、《ヘキサヘドライト》を放った。向かってきた大兎に対して、滑らかに動き出した俺の剣は弧を描いて大兎の肩に命中し、そして二発目の攻撃に移行した辺りで、刃に青色のライトエフェクトがかかった。俺はガイドに任せて剣を横薙ぎに振り払い、勢いよく大兎の顔面を引き裂いた。直撃を貰った大兎は先程より一際甲高い声を上げ、右上に表示されている横線――HPバーをゼロにして吹き飛んでいった。


 瞬間。声を上げて吹き飛んだ大兎は空中で一時停止し、俺が最後に命中させた顔の部分からひび割れて砕け散った。大兎はその後、無数のポリゴンとなって地上を浮遊した後、経験値加算の黄色いフォントとともにスッと空気に溶けていった。


 これで累計三体目の大兎だ。しかもキリの良いことに累計した経験値がレベルアップの値にまで達したのか、小気味良い音とともに俺は初レベルアップを迎えた。鳴り響くレベルアップ音とともにステータスが表示され、自分のパラメータの加算分が黄色いフォントで表示される。本来なら嬉しさに喜びを噛み締めるところだろう。


 しかし俺に喜んでいる余裕はなく、その場で肩を激しく上下させながら呼吸を繰り返した。バトルスキルには一定のスタミナ消費が伴うので、まだレベルやスキルの熟練度が低い段階では単発ですら身体に堪える。そんな俺に、遠巻きで観察していた勇気が近づいてきた。その顔は何処となく嬉しそうだったが、三回の戦闘で目に見えない体力を減らした俺にとっては不愉快以外の何者でもなかった。そんな俺の気持ちを察してか、勇気は遅いながらも謝ってきた。


「いきなり領域フィールドに連れて来たことは謝る……すまん」


「……ったく、いきなりここまで連れて来て、何を言い出すかと思えば『あの大兎を倒して来い』だぁ? 初心者に言う台詞か、普通」


 俺の言葉に勇気はもう一度すまん、と言って謝罪を重ねた。


 一般的に良心を持っているヤツは、『俺が手本を見せるから』とか、『ここは一緒にやってみよう』とか言ってくれるだろう。しかしコイツはあろうことかまだイマイチ攻撃の仕方もわかっていない初心者の俺に対して、一人で狩って来い、と言ったのだ。鬼畜にもほどがある。


「あんましスキルばっかで戦わないほうがいいぞ? 技後硬直の時間は短くないし、通常技も織り交ぜたほうがスタミナの燃費も良い」


「そりゃそうだけどさ……」


 俺の戦闘スタイルについて指摘が入る。スキル一発一発を出すのはそこまで難しくはない。ただスタミナが足枷となり、スムーズな戦闘を妨げているのだ。例えばスキルを使って一撃で仕留められなかった場合、技後硬直とスタミナ減少による疲労の相乗効果で敵からの攻撃を受けやすくなるといった具合に。自分でも使い過ぎは控えたほうがいいとは思うのだ。


 しかしそうかといって使わないわけにもいかない。領域での戦闘において基本的に待ったがかかることはないのだ。二回目の戦闘のときは通常攻撃だけで倒そうと試みたのだが、これがどうにも上手くいかず、一方的に攻撃を食らって一時危険域にまで達しそうになった。結局、最後はスキルを使って仕留める羽目となり、いまいち通常攻撃の練習ができていない。


「それにしても、スキル使えるようになるの早すぎだろ。俺だって最初は苦労して一つ一つ覚えたっていうのに……」


「さっき、丁度スキル欄を見る機会があってな。そこで目を通した」


 勇気が覚えた、というのはバトルスキルのモーションのことだろう。


 スキルにはそのスキルを発動するためのモーションがあり、それが行われると機械が認識してそのスキルのアシストをする。よって実際に剣を使ったことが無い人でもそのモーションに沿って行動すれば、さながら剣士の如くそのスキルを優雅に繰り出すことが出来る。本物の剣、並びに剣道の竹刀すら握ったことの無い俺が、あそこまで滑らかな動きで敵を攻撃することができたのは、そのアシストシステムのお陰だ。


「はぁ……目を通しただけで、普通に出来るものか? 普通身体に染み付くまでやり込んで、それでやっと出せるもんだと思うんだけど」


「できてしまったんだから仕方ないだろ。全く……」


「俺なんか最初はビビリ過ぎて、あっという間に体力を減らされたっていうのに……お前はやっぱり凄いヤツだな」


 そう言いながら勇気はおもむろに背中から両刃長剣を抜き出し、スキルを発動してみせた。柔らかな緑色の閃光を宿しながら、振られた剣は人間技では到底不可能な傷跡を地面に残した。どれほどの威力かは、その地面を見れば一目瞭然だろう。


「……」


 勇気の言葉、技に思わず息を飲む。


 そんなことは、ない。


 俺は勇気が思っているほどデキる人間じゃない。正直さっきの戦闘だって、恐怖を押し留めるために咄嗟にやってのけたこと。考えて使ったものではない。それなら何度もあの戦闘を体験して、やっと習得したスキルを好きなタイミングで使える勇気のほうが、余程デキる人間だと言えるだろう。


 戦闘技術も勇気の方が数段上だし、一度だけ大きな鼠のモンスターとの戦闘を見せてもらったのだが、その動きはシステムにアシストされているとはいえ、先程の俺とは比べ物にならないくらい優雅に立ち回っていた。スキルと通常技の境目が、俺には分からないくらいに。


 それに剣だけならまだしも、これに魔法が追加されれば、先程の戦闘は一体どのような光景になるのか――それを想像するのは恐らく至難の業だ。


「さて、あと数体狩ったらレベルアップだから、その後はもうちょっと強いのと……」


 何やらブツブツと独り言を言い出した勇気。これからのことでも考えているのか、剣を抜いたままその場に立ち尽くしている。俺もそのことについて幾つか質問しようと勇気に近づく。しかし、俺は気づいた。


「――ゆ、勇気! 後ろ!」


「はっ? ――うぐぁっ!?」


 勇気の真後ろ、そこから銀色に輝く閃光が、そのまま勇気に振り下ろされた。咄嗟の出来事に思わず目を疑う。最初の位置よりはるか遠くに吹き飛ばされた勇気の元へ駆け寄り、声をかける。勇気は抑揚の無い声で大丈夫だ、と言うと剣で地面を突いて立ち上がった。右上のバーを見ても装備のお陰かダメージはそれほど酷いものではなく、三分の一程度に抑えられていた。俺は安心し、先程まで勇気がいた場所に目を向けると――


「《シルベンウルフ》だと……?」


 勇気が低く唸った。先程まで勇気がいた場所には、この草原には似つかわしいほどの荘厳な雰囲気を醸し出す――一頭の銀狼の姿があった。モンスターの右上にはHPバーと名前が表示される。《シルベンウルフ》と記されたこのモンスターは、どうやら相手を威圧するようなメータスキルを持っているようで、常に威圧的なオーラを放っている。二メートルほどはあるだろうか――コイツにはこの場所に出てくるモンスターにしては恐ろしいほどの殺意を感じた。先程の大兎など目ではないくらいに。


「リュウ、これはちょっと逃げるしかないな」


 勇気にしては珍しく弱気な発言だが、今回ばかりは大賛成だった。しかし、それは可能なのだろうか?


「……こんなヤツから、逃げられるのか?」


 銀狼は品定めでもするかのように俺と勇気を交互に見た。逃走の隙は殆ど無いと言っていいだろう。


「街道まで行ければモンスターは進入できないからな。上手くいけば、逃げ切れる。けどな――」


 勇気がそこまで言ったとき――


「グルォォォッ!!」


 銀狼は凄まじい咆哮を上げ、大きな前足で大地を踏み鳴らしながら、巨体を揺らして飛び掛ってきた。横回転するかのように回避し、追撃がこない内にすぐに立ち上がる。俺たちはすぐさま回れ右し、そのまま自分たちが来た街道の方向へと猛スピードで走り始めた。走りながらも勇気はこちらに向かって声を出す。


「……コイツがよ! 序盤のモンスターん中で一番動きが速いんだ! 逃げられるかどうかは大分ギリギリだな!」


 勇気の情報に顔が軽く青ざめる。


 そういえば先程から力の限りを尽くして走っているのだが、中々距離が広がらない。むしろ段々と距離を詰められている感じだ。序盤で一番速いのにも納得できる。しかし――


「何でこんな強そうなモンスターが、こんな所にいるんだよ!? ここ初心者向けなんだろ!?」


 俺は先程から思っていた疑問を投げかける。ここは仮にも一番初めの領域。そんな場所にどうしてこんな強敵がいるのだろうか。詳しい説明が欲しい所だ。


「それはアイツが――ぐっ!?」


「勇気っ!?」


 気が付かなかった。それほど接近はされていないと思っていた銀狼に、いつの間にか距離を縮められていたようだ。勇気は銀狼による背後からの強力な一撃によって、真横に吹っ飛ばされた。右上で確認できるHPバーもレッドゾーンに突入している。このままではゲームオーバーは免れないだろう。


 ゲームオーバーには現在の装備の消失と、倒されたモンスター(自分を倒した個体)を倒さない限り直らない経験値半減のペナルティがかかる。復活はオルオンからすぐにでも行われるが、その後同じ個体を見つけて倒すまでは経験値が戻らないのだ。結構シビアだと戦闘前に勇気に言われたばかりだというのに、まさか勇気の方にこんな危機が迫ろうとは。


「こ、こういう時はどうすればいいんだ……?」


 勇気が吹き飛ばされた先に銀狼が突撃する。俺はどうすることもできずに呆然と立ち尽くしていた。このままじゃ、勇気の命は……!


 俺は覚悟を決め、剣を抜いて銀狼に斬りかかろうと足を踏み出した。このスピードでは間に合わないかもしれないが、やらないよりはマシだろう。俺は剣を引き摺るように持って走りだす。しかし、そこへ――


「――兄さん! 伏せて!」


 後方から聞き慣れた、よく通る声が草原に響き渡った。


「熱っ!?」


 本能の感じるまま頭を下げてみると、熱源が俺の頭上を通過した感覚が伝わった。これは――魔法?


「グルァッ!?」


 前方から銀狼の唸り。声の方に顔を向けてみると、頭上を通過した火球が銀狼を捉え、大きな火のエフェクトとともに燃え盛った所だった。


 そのお陰か銀狼は攻撃のタイミングを失い、振り上げた腕による一撃を空振りさせていた。勇気はこのチャンスを逃すまいと足を動かし、先程の逃走劇にも引けをとらない速さでこちらに戻ってきた。


「あぶねーっ! もうちょっとでサックリやられるところだったよ! つーか狼顔超怖えーっ!」


「確かに、危ない所だった……ホント、お前は運がいいよ」


 俺はそういいながら後ろを振り向く。そう、先程の声は間違いない。家に帰ればひたすらにVRゲームに打ち込んでいる我が妹、凛の声だ。振り向くと案の定そこには凛が立っていた。凛は少し呆れたような視線を向け、小さい溜息を吐いて呟いた。


「早速モンスターを狩ろうと思って領域に出てきてみれば……ナニコレ?」


 凛はまだ熱で悶える銀狼を一瞥し、俺に視線を戻した。状況といっても、それほど大したものではない。俺は短い文章で簡潔に伝えた。


「……なるほど。不意打ちされた、と」


「ま、そんなとこだ。助けてくれてありがとう」


「いやいや。ここのゲーム、デスペナ結構キツイし可哀想だと思ってね」


 少し生意気な口調はゲームになっても変わらないのか、と俺は感じた。いや、逆にこれこそ凛のゲームでの性質なのかもしれない。


 勇気は全力で走って呼吸が乱れていたのだが、凛の存在に気が付いたのかなんとか落ち着けながら言葉を紡ぐ。


「あ、あの凛ちゃんか……悪ぃ、本当に助かったぞ。それと、久しぶりだな」


「あ……!」


 勇気の顔を見た途端、凛の顔は朱で染まった。そして少し興奮したような口調で喋りだす。


「お、お久しぶりです! と、当然のことをしたまでですよ! ハハハ……」


 凛は俺と喋ったときとは全く別のことを言い、無理に笑顔を作る。それに凛は顔を合わせることが出来ないのか、視線をあちこちに向けて忙しかった。照れるのはいいが、まだ危機は去っていないことに気が付いて欲しいと思う。


「グルォォォッ!!」


 戦闘を再開させるかのように、銀狼は咆哮を張り上げた。そう、先程の一撃だけでは完璧にヤツのHPを削ることは出来なかったのだ。猛然とこちらに向き直る銀狼は、出会ったときより幾分か殺気が増していたような気がする。


「やばっ……!」


「こりゃ、逃げるが勝ちだな?」


「じ、実は私ももう精神力がなくて、魔法撃てません……」


 全員がこの場で逃げることの選択をし、すぐさま街道に向かって突き進む。さきほどの魔法のお陰で、ここから銀狼までは相当の距離が生まれている。恐らく逃げ切ることは可能だろう。


「グルォォォッ!!」


 背後から銀狼の叫びを聞きながら、俺らは死に物狂いで街道に向かってひた走る。


「うおおおおお!!」


「だあああああ!!」


「きゃああああ!!」


 咆哮にも似た絶叫を上げながら走り出した俺たちは、こんなので本当に強くなれるのか――と、一抹の不安を抱えながらも街道に到着することができたのだった。

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