第45話 ルナとのデート 2
第45話 ルナとのデート 2
ルナ視点
調理器具の専門店を出て、近くを散策していたのですが、食べ物がたくさん飾ってある店がありました。
普通こんな天気のいい日に食べ物を屋外に置いていたら悪くなりませんか?
そう思って近づいてわたくしはびっくりしました。
だってあまりに精巧な贋物なんですもの。
あまりにわたくしが驚いてしまったのもありますが、あなた様、笑いすぎですわ。
…なるほど。
蝋で作られたサンプル⋯ですか。
食糧難の時代にどのようなものかを分かってもらうことを目的に作られた物なのですね。
確かにわたくし達の世界にはなかったものですわね。
そもそもこのようなサンプルがないのが当たり前でしたし。
あればお客様も食べたいものを選ぶ時の参考になりますわね。
ただ、素材が問題ですわね。
蜜蝋だと高くなりますし、わたくしたちがやるのでしたら木蝋でしょうか。
まあ考えても仕方ないですわね。
しかしこのパスタのサンプルは発想がいいですわね。
フォークが宙に浮いているのは面白いですわ。
飲み物のサンプルもいいですわね。
確かにあなた様が言った「百聞は一見にしかず」という言葉が理解できますわね。
あら。
サンプル作成の体験もできるのですか。
今日は時間がないのでまたの機会に挑戦してみましょう。
さて、次は⋯。
嘘でしょう!?
ヒューマンがガラスの工芸品を作っているのですか!?
このような工芸品、ドワーフの秘技ですわよ!?
⋯ヒューマンの技術の進歩、恐るべしですわ。
わたくしも元第一王女ですので、ドワーフの特産品はこれまでたくさん見てきたので審美眼はあるつもりです。
ヒューマンが作るガラス工芸はどんなものでしょう?
ワクワクしながら店内に入ってわたくしは絶句しました。
あまりに綺麗すぎました。
ドワーフのガラス細工は無骨であり力強いものが多いのですが、ヒューマンのガラス細工はドワーフと逆で繊細な物ばかりだったのです。
その中でも特に切子というものにわたくしは目を奪われました。
江戸切子、ですか。
ふむふむ。
そんな昔からあった技術なのですね。
寿命が短いヒューマンがこの技術を途絶えさせなかったことに敬意を評しますわ。
そのくらい素晴らしいものです。
私は我慢できず、あなた様と共に愛する恋人たちのため、人数分の江戸切子を購入しました。
ビアグラスと書いていましたからエール用でしょうか?
ですがアイスティーを入れても綺麗だと思いますわ。
店員さん、丁寧な梱包にも感謝いたします。
なんですか?
ええ、そうですわ。
わたくしの自慢の彼氏とデート中ですわ。
ふふ、わたくし、幸せですわ。
蒼魔視点
うん。
ルナはかっぱ橋商店街に連れてきて正解だったな。
普段あまり表情を変えないのにめちゃくちゃイキイキしていたからな。
切子ガラスは感動し過ぎて衝動買いしているからなあ。
まあ、向こうの世界だとドワーフしかこういった工芸品を作れなかったからな。
まあ、満足しているようで何より。
少し早い時間だが帰ろうとしたときにふと目に入った「刃物、丁寧に研がせていただきます」の看板。
「あなた様?どうしました?」
ルナが声をかけてきたが俺が返事を返さなかったので視線を追ったのだろう。
「ああ、研ぎですか。あなた様はなぜか研ぎにこだわっていましたわね。」
苦笑いするルナ。
「レアが使っていた魔剣、結構刃毀れしていたからな。あの魔剣の修復は俺もいい練習になったよ。」
「それがきっかけでドワーフに弟子入りしたんでしたわね。」
「ガンツ師匠は元気にしているかな。」
「ドワーフは酒があれば頑丈無敵ですわ。心配ないかと。」
「そうだな。」
ガハハと豪快に笑う師匠を思い出す。
そう言えばいつかお前が打った最高傑作、もってこいって言われていたな。
約束守れないから少し悔しいところはあるんだよね。
「興味があるのでしたらついていきますわよ?」
「いいの?」
「ええ。職人の目になったあなた様を見るのは好きですから。」
照れくさいな。
俺はルナと一緒に刃物研ぎの工房に入る。
棚にあった柳刃包丁を手に取る。
いいな。
かなり丁寧に研いでいるのがわかるが回転式の研ぎ機を使っているのかな。
少しむらがある気がする。
柳刃包丁を戻して隣においてあった出刃包丁を手に取る。
⋯これは綺麗だ。
昔からの砥石で研いだ感じだな。
職人の腕もいいようだ。
これはいい。
つい呟いてしまった。
「なんだ、坊主。刃物の良し悪しがわかるのか?」
この店の職人だろうか?
気難しそうな男が声をかけてきた。
「そこまではっきりはわかりませんが、いいものはわかります。」
職人の目が細くなる。
「ほう?じゃあちょっと見てくれや。」
そう言ってナイフが五本出てきた。
「坊主、この五本を切れ味順に並べられるか?」
おもしれぇ。
俺は無言で一つずつ刃先を確認していく。
微妙だが違いがあるな。
微妙な歪みや曲がりもあるのか。
自分が見たままに並べ替える。
「⋯坊主、すげえな。正解だ。」
「微妙な違いしかありませんでした。」
「そりゃ坊主の目を確認するためだからな。俺の弟子達より目がいいぞ。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「どうだ?試しに1本研いでみてくれねぇか?」
「俺がやっていいんですか?」
「むしろ、俺が見たいんだ。どうする?やり方は任せるが。」
ガンツ師匠の技がどこまで通じるか試してみるか。
「わかりました。」
俺とルナは研ぎ場に案内された。
ルナは研ぎ場のなかに入ったのが初めてだからかキョロキョロしていた。
で、弟子たちは全員ルナに見惚れている。
やらんぞ?(笑)
「坊主、回転砥石でやるか?」
「いえ、普通の砥石でやります。」
「ほう?」
「そっちのほうが慣れているんですよ。」
さあ、やるぞ。
俺は集中して研ぎ始める。
シャーコシャーコ。
シャーコシャーコ。
うん。
シャーコシャーコ。
シャーコシャーコ。
いい砥石だ。
やれるだけやってみよう。
研ぎ師の親方視点
正直驚いた。
高校生の坊主が刃物の研ぎの違いを見抜きやがった。
今日、店に並べていた柳刃包丁は弟子達に研がせ、出刃包丁は俺が研いだんだが、それを看破した。
俺は楽しくなってナイフの切れ味チェックをしてもらったが、悩む素振りもなく10分ほどで正解しちまった。
多分俺の一番弟子よりも目がいいんだろう。
この歳でここまでわかるのは、よほど師事した師匠がいいんだろう。
実際に研ぎ作業をやらせてみたが、正直うますぎる。
これは熟練の業だ。
むしろ俺がこの坊主の師匠に習いてえくらいだ。
色惚けしていた弟子たちもこの坊主が研ぎ出すと驚いていたな。
が、さすが俺の弟子たちだ。
すぐに技術を盗もうと真剣に見始めたな。
ここで動かないようなら破門だな。
この坊主の研ぎ方は普通じゃないが、いちいち理にかなっている。
俺も驚くくらいだ。
目も良いな。
確認する時の目がいい。
彼女さんも見惚れるわなあ。
お、できたか。
俺は坊主から彼が研いだナイフを受け取る。
素晴らしいのひと言だな。
「坊主、いい筋してんな。」
「師匠が良かったんですよ。」
「それでも、培った技術が身についている。大したもんだ。」
坊主も褒められて満更じゃないようだな。
弟子たちも坊主の研ぎを見て思うところがあったんだろう。
自分の作業にさっさと戻りやがった。
その後少し俺と坊主と話をし、彼らは帰っていった。
基本素人に研ぎはさせないんだが、今回はめっけもんだったな。
弟子たちもいま以上に育ってくれるだろう。
この店に来てくれた坊主に感謝、だな。
今夜はいい酒が飲めそうだ。
一番弟子と飲みに行って、奴の感想を聞いてみるか。
それがいいな。




