ゴールデンウィーク
ゴールデンウィークに入った。敦賀もそれなりに賑わうし、イベントも盛んである。
由紀江は、そういった部分も優子に経験してほしいと思っていた。
ただし、由紀江は経営者。正直な所、土日もゴールデンウィークも平日も働くときは働く。なので、そこまで大企業の社員みたいなゴールデンウィークはなかった。
優子にはもちろん休暇を取らせている。ただ、大企業みたいな一週間以上とかそういうのはない。カレンダー通りである。由紀江は
「カレンダー通りでごめん…。」
と優子に謝った。優子は、
「それが普通なのでは?」
と、スンっとしていた。
由紀江は二階の事務所でたまに仕事をしていたりすることがあったので、休日丸々、優子と過ごすことはできなかった。優子には休日に事務所来ちゃダメ、仕事しちゃダメ、と伝えてあるので、三階の由紀江の家には来ることはあっても、二階の事務所に来ることはなかった。由紀江に会いに顔を出すことはあった。
優子はゴールデンウィーク中、一人で金ヶ崎に行った。そこには海に突き出た広いデッキがある。そのデッキの中央付近に、さらに海に突き出た船のような形のデッキもある。ちらほら人が見えて、皆思い思いの過ごし方をしている。
優子は平和な風景だと思った。夜桜を見に金ヶ崎に来て以来だったが、ここは良いところだと思っていた。
犬の散歩をしている人がいる。
カップルがいる。
ランニングしている人がいる。
皆それぞれの時間を過ごしている。
優子はそこに一人佇んだ。このまま、夕日が沈むまでここにいるのも良いと思った。せっかくだから金ヶ崎宮にも登ろうと思い、参道まで行き、階段を歩き始めた。
由紀江と一緒に花見をしたのを思い出す。あの雰囲気は優子は忘れられなかった。夜の山の中腹の神社がライトアップされ、桜が咲き誇り、日が落ちてからも多くの人がいて、にぎやかだった。優子はあの時の自分の心にあった謎の小さな興奮がどうしても忘れられない。あの時少し不安に思ったことも忘れていない。けれども、今思い返せば、不安よりも高揚感の方が強く心に残っていることに気が付いた。
金ヶ崎宮にたどり着き、少し神社境内を見まわして、桜を思い出した後、敦賀を望む展望の場所に行き、街並みと港を見た。夜見るのとは違うものだ。
金ヶ崎宮の奥にも道がつながっていた。そこに行ってみることにした。途中金ヶ崎緑地がよく見える場所があり、金ヶ崎で遊んでいる人たちが見える。一人でいる人もいるが、誰かと一緒にいる人の方が多い。
(由紀江さん、何してるかな。仕事してるのかな。)
優子は不意に由紀江のことを考え出した。由紀江のことが恋しくなったのか。恋しくなるとは何なのか。優子にとってはわからない感情だった。ただこれが恋しくなるということなのだろうなと、その時思った。優子は冷静だった。
道をさらに進むと、岬に出たようだ。さらに奥の港が見える。海を見晴らす。
さらに山の上にも道は続いていたが、優子はこれ以上はやめておいた。
優子は金ヶ崎を気に入った。小さな港町だけど、人が和める場所がある。優子にとっては穏やかな時間が流れる場所だった。




