プロローグ①
ニ作品目です。
よろしくお願いします。
雨が激しく降り続けている。
空は何かが起きているかを表しているかのように真っ黒だ。
そんな空の下、とある城の前に二つの人影があった。
一つは倒れこんでいる人影。もう一つは門の前に立ちはだかる人影。即ち――
「その若さでここまで一人で来れたことは称賛しましょう……しっかーし! 貴方には経験が浅かったわ! せめて後数年は待つべきだったわね! ギャハハハハハハハハハ!」
「くっ――!」
――勝者と敗者の姿がそこにはあった。
真っ黒な空から雷鳴が轟き、辺りを眩く照らす。その雷鳴の合間には、雨が降っているこの状況でも聞こえるほどの大きく不気味な笑い声が響いている。
「まだだ……!」
「何度言ったらわかるのかしら。それは効かないと言ったわよね!」
その隙を狙って、倒れている人影が暗闇の中でも強く光を放つ魔法弾で攻撃するも、強く光っていたはずの魔法弾はみるみる光を失っていき、闇に染まって門の前に立っていた人影に吸収されてしまった。
「さぁ、最後の『お返し』よ! 喰らってさっさと眠りなさぁい!」
その瞬間、倒れている人影に向かってドス黒い闇の魔法が放たれ、凄まじい衝撃とともに辺り一面を砂埃が舞った。
◆◆◆
夏が終わり、秋も中盤に差し掛かっていた。
部活は夏に既に引退しており、今は高校受験に向けて学年全体で雰囲気作りをしているところだ。
秋晴れという名前が相応しい今日も、彼、鬼龍院 魅月は同じように授業を受け、職員室までいって先生に分からないところを聞き、皆より少し遅めに帰る。
何も変わらない、日常にすらなり始めているこの行為。
今日もまた、いつも通りの道を通って帰路につく。
たまに吹く風が心地よく、また少し肌寒くも感じる。
「今日のご飯は何かなー。肌寒くなってきたし、シチューやおでんが食べた――ッ!?」
瞬間、強烈な風が辺り一面を支配する。
あまりの強さに魅月は腕で顔を庇い、飛ばされないように踏ん張りながら収まるのを待った。
それから数秒後、風はピタッと止んだ。
「すげぇ風だったな――ん? なんだこれ」
今の風で飛ばされてきたのか。魅月は目の前に落ちているものに手を伸ばす。
「手紙……? 宛先は――ないな。少し確認してみるか」
落ちていたのはシンプルな柄の手紙だ。
よく見ると、封が開いている。
魅月はそのまま手紙の中身を取り出した。
人間誰しも、手紙や付録などで封が開いていると、中がどうしても気になってしまうものだ。
中には二つ折りの紙が入っていた。
それを広げて、中身を読む。
『拝啓、この手紙。
読んでいる貴方に、魔王を倒していただきます』
「――は?」
その二行に書かれていたものは、あまりにも突飛な内容。
どうやら、子供の遊びだったようだ。
遊びということは、その手紙を置いていってはただのゴミとなってしまう。よって、ポケットに入れて再び帰路に付く――瞬間、先程とは比べ物にならないほどの暴風が魅月を襲った。
「なんだこの風っ! 天気予報は快晴で微風はずだろ!」
凄まじい轟音が鳴り響く。
最早踏ん張ることもままならないほどの暴風が魅月の回りで荒れ狂っている。目を開けたくても開けられない状態で、腕で顔を覆うも弾き飛ばされそうなほどだ。
だが、それから数十秒後。
風はようやくではあるが、少しずつ収まっていった。
「全く、なんて風だ。台風よりもすごいんじゃないか?」
ようやく止んだ風に一安心。
また来られても困るため走って帰ろうとした魅月だったが、何処か違和感を覚えた。
現在立っているのは道に間違いないのだが、そこは舗装されていない道だ。しかも、秋だというのに辺り一面が青々と繁った大木ばかり。
「……ここは……何処だ?」
嫌な汗が流れ、緊張感が生まれる。
鼓動が早くなり、息が荒くなる。
そして、何故かは分からないが、無意識に先程拾った手紙を再び開く。
そして、魅月は目を見開いた。
『拝啓、この手紙。
読んでいる貴方は今こちらの世界に来たと思います。
こちらで問題なく過ごせるように言語の問題は無くしてあります。
やってもらうことはただ一つ。勇者と協力して魔王を倒してもらいます。
特殊な能力を一つ差し上げますので、ご活用ください。
敬具。
追伸、この手紙は捨てることができません』