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どうしてこんな状況に陥っているのだろう。僕らは灯りの消えた部屋で、ベッドに横並びで座っている。関本と僕との距離は、肩が触れるか触れないか位の微妙な間隔を保っている。
これ以上近付いたら、僕は平静を保つことができない。関本と触れそうな肩から、ぞわぞわと腕や頬の産毛が立ち上がる。震えそうな自分を保つ為に、僕は拳を握った。
灯りの消えた部屋は全くの暗闇ではない。ベランダから差しこむ青い月灯りが、僕らの輪郭を浮かべていた。
「どうして」
さっきから何も言わない関本に、僕は半分笑ってそう言った。上手く笑えたのか、僕には自信がない。
僕と寝ると言った関本。好きだと告白したのは工藤であり、関本と僕の間にそんな問題は発生していない。何を考えての発言なのか。関本の真意が分からないから、僕は慎重になる。
「考え過ぎなんだよ」
関本の声は静かで、優しい。
寝る事なんて容易いことだと言っているのか。
「意味が分からない。どうして」
僕の声には微かな苛立ちが混じる。さっきと堂々巡りになっているのは自分でも分かっていたが、それ以上の言葉が浮かばなかった。
足を組む衣擦れの音がして、一瞬だけ僕の肩に関本の肩が触れる。
ビリっと身体に電流が走った。心臓がきゅっと収縮する。
「好きなんだろうな、たぶん……」
たぶんと言う言葉の後を、関本は呑み込んだと思う。
さっき触れた肩に、今度は明らかに意思を持って関本の肩が触れる。関本の使っているシャンプーの香りが、強い芳香を放って僕を包み込んだ。
僕は青い闇から逃れる為に眼を瞑った。
漆黒の暗闇の中へ落ちて行く。
このまま何も起こらず、関本が帰って行けばいい。僕は手に入れるものより、失うものの大きさを、恐れずにはいられなかった。




