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勇者狩り ~僕は女神に反逆し、異世界転移した勇者達を狩る~  作者: 羽生ルイ
Case2:アケトアテン-夢視る勇者じゃいられない
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#24

 ハンター協会での用事を済ませたあと、食料を買うという志織に付き合い、市場へ向かう。子供達が夫婦みたいだとはやし立てているのは聞こえなかったことにする。


「結構沢山買うんだね?ここの食料を持って帰るつもり?」

「いえ、明日の夜にシスターの快気祝いとしてささやかなパーティでもしようと思って。ユートさんのおかげでまた目が見えるようになってますから、手料理振る舞いますよ?」

「それは楽しみだけど……料理、できるの?」

「何言ってるんですか、ユートさん。私、錬金術師ですよ?」

「料理と錬金術は違うと思うけど……」


 そんな事を言いながら、アケトアテンでの一日は過ぎてゆく。

 そして翌日、僕達がこの世界を離れる日がやってきた。シスターの体調は当初の予想よりかなり改善していて、杖があれば立って、ゆっくりと歩けるほどに回復していた。

 まさに志織が言っていた「昨日出来なかったことが今日出来るようになった」というやつだ。おそらく数日もあればシスターは日常生活に支障を来さなくなることだろう。……僕達がその姿を見ることはないだろうけど。


 少し早めの夕食には志織が用意した豪華な料理が並んでいた。半分は僕も知ってる日本の料理。

 残りの半分は僕の知らない……たぶん、アケトアテンの料理。志織がこの1年で学んだレパートリーなんだろう。スパイスと酸味の利いた料理は少し食べ慣れない味だったけど、異国情緒があって新鮮だと思った。

 いや、ここは確かに異国だけど、それ以前に異世界なんだけどね。


 食事の後片付けをしている間に陽が落ちて、子供達は早々に眠りに就いた。その様子を確認したあと、僕と志織はシスターに別れを告げる。

 夜間の出立ということにシスターは驚いていたけど、僕が「御門」を開くためには王立工房にある賢者の石の前まで行く必要がある。さすがに白昼堂々工房の中で御門を開く訳にもいかないから、夜間の人がいないタイミングを狙って工房に侵入、帰還する必要がある。

 となると自動的に夜になってから出立することになるわけだけど……まさかシスターにそこまで説明する訳にもいかないからね。


「シスター・レイア、お元気で。本当にお世話になりました」

「私の方がシオリのお世話になってしまったわ。くれぐれも体に気を付けてね、シオリ」

「シスターこそ。エリクサーで体調は戻ると思いますけど、急に無理しちゃ駄目ですよ?」


 名残惜しそうにシスターと別れの挨拶を交わす志織を促し、僕達は街外れの教会を後にした。


 王立工房へ向かう夜道を歩いていると、志織が急に最後に街を見たいと言い出した。なんでも工房へ至る道を少し外れた所に王都を見渡せる見晴らしの良い丘があるらしい。


「だめ、ですか?」

「ここで駄目っていう程僕は朴念仁じゃないよ」

「ありがとう、ユートさん。好きです」

「はいはい」


 そう言って僕の腕にしがみついてきた志織の体が少し震えているのは、夜の肌寒さのせいなのか、それとも――。

 そんな事を考えながらも、僕も志織の体温を感じながら高台への道を2人、黙って歩いて行く。おそらく傍目に見れば僕達は仲の良いカップルにしか見えないだろうし、ハンター協会の人達や孤児院の子供達が見れば僕達が「結婚して国へ帰る」というストーリーは事実にしか見えないだろう。

 正直、僕自身もここまで志織に絆されるとは思っていなかった。


 ……だからこそ、心苦しい。なにせこれから帰還する現実世界では麗奈が待っているのだから。修羅場の予感に若干の不安を抱えながらも僕達はアケトアテンの王都を見渡せる小高い丘へとたどり着いた。


「きれい……」

「ああ、確かにこれは見ておく価値がある景色だね」

「ユートさん、ありがとうございます」

「この前からお礼ばかりだね?」

「そう言う気分なんです」


 眼下に広がる光景は、エーテルが生み出す光に照らし出された黄金の都。昼間は強い日差しでただギラギラと派手に輝いているだけに思えた街並みが、静かな光に照らされたことで上品な輝きを纏ったように感じられる。

 志織が改めて僕に礼を言うのは、きっとこの世界を去る前にこの光景が見られるよう「目が良く見える眼鏡」を手に入れたことに対する感謝なのだろう。そう思えるぐらい、アケトアテンの夜警は壮観だった。


「まるで夢みたい」

「確かに、現実世界じゃここまで金を使った街並みは存在しないだろうからね」

「でも、もうすぐ夢は終わるんですね」


 旅の間も志織は時折この異世界を夢の世界であると口にしていた。確かに錬金術が盛んで魔導具が存在する黄金の都は、アラビアンナイトの夢物語に登場するような夢の世界だと言えるかもしれない。けど、僕達は何時までもここに留まっているわけにはいかないんだ。


「……でもそれは、私にとってハッピーエンドなんです」

「なに、夢は終わっても世界は続くさ」


 志織の言葉に何度目かの違和感を感じる。けど、もうすぐ僕達は現実世界へ帰還する。彼女が何を考えていたのかは……日本に戻ってからゆっくりと聞けばいいだろう。

 ふと見下ろすと街外れに向かって大勢の人間が移動しているのが見えた。あれは……衛兵か何かだろうか?

 そう言えば辺境の村で僕達が討伐した盗賊は賢者の石を狙って侵入した隣国の手の者だと言っていた。もしかすると性懲りも無くそういった手合いがアケトアテンへ侵入したのだろうか。

 ……まぁ、どのみちあと1時間もすればこの世界から去る僕達には関係の無いことだ。



 ――そう思いながら向かった王立工房の建物の前に、騎士と兵士が待ち構えていた。シスター・レイアを人質に取って。


 おそらくこれは賢者の石によるリソース移動をおぼろげながら理解している王家の差し金だろう。けど、僕達がこの世界を去ろうとしていることを彼等はどうやって知った?

 シスターや孤児院の子供達が王家と接触するとは思えない。ハンター協会なら王家との接点はあるかもしれないが、あそこに登録しているのは王家が異世界人だと認識していない「シィ=チャン」であり、僕では無い。


 ……いや、待て。ハンター協会?

 僕は昨日、ハンター協会で王立工房に所属するハッサンさんに出会った。そして彼は……あの場で僕と志織が結婚して、国を出るというヨタ話を聞いていた……!

 そうか、彼が……ハッサンを通じて僕達が国を去る可能性を知った王立工房が王室に手を回したということか。


 おそらく先ほど見かけた街外れへ向かう兵士達は僕達が国外へで出ないよう街道封鎖を行う部隊だったのだろう。そして僕達が国外逃亡する際に行きがけの駄賃として賢者の石を奪っていくことを懸念した一隊が、王立工房に待ち構えていた……ということか。


 状況は概ね理解できた。けどだからといって事態が好転するわけではない。シスター・レイアは僕にとって人質たりえないけど、同行している志織には極めて有効な人質になりうる人物だ。

 そして僕は現実世界に帰還する際に、志織を連れて戻る必要がある。つまり、シスターは間接的にではあるが、僕に対する枷にもなる……。


『ユートさん。ロザリオを返してください。私が……(チート)を使ってシスターを助けます』

『駄目だよ。それは許可できない』


 騎士に聞かれないよう、志織は日本語で僕にそう告げた。瓶底眼鏡越しにこちらを見る志織がどのような目をしているのか、僕には伺い知ることは出来ない。けど僕は彼女の願いを聞き届けることは出来ない。

 なぜなら彼女がロザリオを――チート能力を使うと言うことは、「二度とこの力を使わない」と誓った約束を破ることになるから。


 僕は前回、チートを使わないという誓いを反故にした斎藤君を世界に対する裏切り者として殺した。なら……僕は約束を破ってしまう彼女のことも、同じように殺さないといけなくなる。

 僕は彼女を殺したくはない。でも、それでも。僕は「勇者狩り」だから。彼女には僕がそうする理由を語ることは出来ないけど、それでも――。


『……チートを使ったら、私を殺さないといけないから、ですよね』

『どうして、それを?』


 けど、志織は僕が話さなかった事を、何故か知っていた。僕はこの一月彼女と共に過ごし、様々な話をしたけど、勇者狩りとしての使命と斎藤君の話は志織には意図的にしなかったはずなのに!


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