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31/106

31.女性は秘密が多い方が良いって言ったの誰だよ!

「…キョウヤ様、キョウヤ様」

 

 ううん

 

 なんだよ、うっせぇなぁ

 

 ガンガンガンガン

 

 ん?

 

「…キョウヤ様っ!」

 

 自身の名前を呼ぶ声と、何かを叩く音が交差している

 

 ガンガン…

 

(ああ、わーったよ。今起きるよ、まったく…)

 

「…って、この声は…アプリか!?」

 

 がばっと質素なベッドから身を起こし、鉄格子の方を見る

 

「ええ、わたくしですわ♪」

 

 鉄格子の向こう側に立っている彼女の傍らには、同じように白いローブを纏っている男が2人、彼女の両サイドにかしずいていた

 …同じようなローブだが、装飾が施されていないところを見るにアプリよりも階級?が低いんだろうか、階級っていうものが存在するならだけど

 

「なぁ、俺は一体どうなっちまったんだ?気がついたらこんな所にいるし」

 

 アプリはフフっと笑い

 

「私、キョウヤ様を愛していますの!」

 

「へ?」

 

 想定外の回答だった、というか回答にすらなっていない。ハッキリと言って意味が分からない。なんともいえない気持ち悪さを感じながらアプリを見る

 アプリは、にこにこしてそれ以上の事を言う気配はない。仕方なしに俺は言葉を続ける

 

「あ、ありがとう、それはまぁ、う、嬉しいんだが、とりあえず状況をだな…」

 

 …何なんだ?何で急に告られてるんだ?俺は…

 

「キョウヤ様はどうですの?」

 

「は?」

 

(今はこんな話をしている場合ではないだろ?こいつは何を考えてるんだ…)

 

「いや、俺は…てかまだ会ってそんなに経ってないだろ?こういうのはもっとこう、時間を掛けてだな…あ、いや嫌いって訳じゃなくてだな…」


 何か、不穏な空気を感じ取り、口籠ってしまう。暴漢からアプリを救って一緒に飯に行くことになった時はこの世の春が来た!と思っていたものだが、それも今じゃなんとも思えない。それくらいアプリが発する空気は異常だった

 

 凶夜がおずおずと言うが、そのあいだ

 アプリは自身の身を抱きしめ、しかし瞳は真っ直ぐに凶夜を見据えていた

 

 凶夜が言い終わった後、少し間をおき、アプリがぽつりと言った

 

「…キョウヤ様は愛を、私の愛を受けられないと言うのですね?」

 

 その刹那、アプリの両サイドにいた男の一人がピクリと肩を震わせる

 

 一体なんなんだ、何が起きているんだ…明らかにアプリの様子が変だ。会話が通じていない気がする

 

 凶夜がその思考に至った時

 

「何を、貴方、貴方、勝手に動いてるんじゃありませぇぇぇぇん!!」

 

 アプリが先ほど震えた男を無造作に殴り付ける

 何処にそんな力があったんだとばかりに男は吹っ飛び、地べたに倒れ、ピクリともしない

 

「貴方ぁぁぁ、貴方は私の愛の信徒でしょう?愛を…私からの愛を受けておいて、それを蔑ろにするなんてぇぇぇ。あぁ…蔑ろにするなんて蔑ろにされる私ぃあぁ…心が濡れますわぁ」

 

 アプリは自身を抱く様な仕草をし蕩けた表情をした後、倒れピクリとも動かない男に馬乗りになり、殴り続ける

 

「……は?」

 

 何が起こったのか状況についていけずに思わず声が漏れる

 

 その間もガスガスと、男が殴られる音が牢獄に響く…

 

「あぁ、あぁああああ、これこそ愛!私からの愛を受け取るのですわぁあああ。ねぇ?嬉しいでしょう?ねぇねぇねぇええええ」

 

 アプリの拳は真っ赤に染まり、それが男のものなのか、彼女のものなのかも判別が出来ない。男はなすが儘にされている。あの出血だ、恐らくもう…


 この状況で、もう1人の男は微塵も動かずにただ傅いているのがまた恐ろしさと不気味さを引き立てる

 

(なんだ、一体なんなんだよ…!?)

 

 アプリのあの変わり様はなんだ?

 

 とてもあんな事をする女性には見えなかった。そうは言っても出会ってそんなに経っていないのも事実…簡単に人の本性ってのは見抜けるはずないと言われればそれまでだが


 …人を見かけで判断しないってのは、今後の教訓にしようと心の中で固く誓う。…最も今後があればだが

 

「貴方の声が、肉が、骨がっ聞こえますわぁ!愛される喜びを噛み締めておりますわぁ!」

 

 あれは、ダメだ、ダメなやつだ…メンヘラ?アレが流行りのメンヘラってやつなのか?


お父さんお母さん、異世界に来て初めて会えたと思った美少女がメンヘラでしたよ、もうほんとヤダこの異世界

 

 暫し茫然自失とする俺だったが、この状況を見て何となく分かった事もある、恐らくこの牢屋に俺を入れたのはアプリだろう


 つーか、この状況で他に犯人がいたら脳の処理が追いつかない

 

 だが、どちらにせよ牢獄に閉じ込められている俺にとっては何が分かったところでこの状況が絶望的な事に変わりは無い

 

 そんな事を思案していると、唐突に男を殴る音が止み、アプリが首だけをぐるりと動かしてこちらを見る


 その顔は、先程の蕩けた顔とは打って変わり酒場で会った時と同じ綺麗な笑顔だった

 

 殴った男の返り血で髪が顔にへばりついている事を除けばだが

 

「キョウヤ様?お顔の色が優れないようですが、大丈夫ですよ?直ぐにここから出して差し上げますからね♪」

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