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105/106

105.俺はやりたくないけど、誰がやる?

「ふぅーっはっはっはっは!」


 突如、絶望ムードのギルド内に高笑いが響いた。なんだか凄く嫌な予感がする。こういう時の俺の予感は当たるのだ。…というか声からなんとなく、この後の展開を察してしまっている悲しい自分がいる。


「なんだっ!?」「あそこだっ!ほら2階の手すりのところ」「あれは頭のおかしい事で有名なっ」


 荒くれもの共が揃って見上げると、そこには姿を消していたクラリが両腕を組み、手すりの上に立って俺たちを見下ろしていた。どうでもいいが、あいつに見下ろされると非常にイラっとするな…


「何をしょぼくれているのデス!」


 そう言うとクラリは腕を解いて、瞳に手を当てて決めポーズをとった。荒くれもの共があっけにとられている姿を横目に俺はブーツを脱ぎ手に持つ


「この私…そう、蒼炎の魔眼使いであるクラリオット・ノワールにかかれば、アルクキヨジンなど一目でひれ伏させてご覧に入れましょう!」


 突然の異端児の到来にざわつく中、俺は狙いを定めて


「そぉい」


 鉄板の入ったブーツをクラリに投げつけた


 バカンッ


「痛ぁっ!」


 ブーツは緩やかな放物線を描きながら宙を舞い、そのままクラリの頭に直撃した


 よし、HIT!さすが俺。やれば出来るじゃないか。悔やまれるはアホの演説を未然に防げなかった事だが、この際それは考えても仕方が無い。俺は最善を尽くしたと思う


「誰ですか!?今っ、私に何か重くて固いものを投げたのは、誰ですかぁ!そこぉっ、さっき頭がおかしいって言いましたね!?忘れませんからねっ!!後で覚えておいてください!」


 ひぃ、とクラリに指さされた大男が小さく悲鳴を上げる。やはりいつの世も頭のおかしい奴とは関わり合いになりたく無いものなのだろう。…と冗談はこれくらいにしてそれにして確かにアルクキヨジンが人型であるならばクラリの魔眼も効果があるかもしれない。聞いている限り試すどころが遭遇した時点で秒殺されそうではあるのだが…或いは


「確かにあの辺りから…」


 犯人(俺)とは明後日の方向を向いたクラリが何やらぶつぶつ言っているのを尻目に俺は、バンッと少し大きめに机を叩き、こう続けた


「皆、どうだろう。俺に考えがあるんだが…」


ざわつくギルド内。そりゃそうだ、なんせ見ず知らずの怪しい男がこの場を仕切ろうと言うのだから。だがそれは杞憂だった。誰の杞憂かって?そりゃ俺のさ!意外な事に俺はギルドの連中に受け入れられていたらしい。確かに、あのよくわからんドラゴン信者(変態)達からこの村を救ったりしてる訳で実績は十分だ。むしろ評価されてない方がおかしい。最近はまともな人間と会話してなかったからか、この発想が出てこなかった。もうこの世界嫌だ。


「…という作戦で行こうと思うんだが。どうだろう?」


「「「ごくり」」」


 話を聞いていたギルドメンバーが一斉に喉を鳴らす。だがそれは、この作戦やばくねーか?俺達へたすりゃ全滅するんじゃねーの?の、ごくりではなく、コイツ…とんでもねぇ作戦を考えやがるぜ、狂ってるんじゃねーのか?だがこの作戦ならあるいは…のごくりである事は誰の目からも明らかだ。…と思う。つーかこの作戦以外では多分どうにもならないと思う実際。


「さぁ、どうする野郎ども!この村を見捨てて逃げるか?違うだろ!?今こそ男を魅せる時だろ!?」


「あぁ…」「なんか行ける気がしてきたぜ!」「俺の命、ここで使わずいつ使うんだ!?」「あんなの大きなネズミみたいなもんだろ!駆除してやんよぉ!」


よし、こいつらが単純で助かったぜ。士気はまずまずと言ったところだ、さっきまで絶望していた奴らと思えば上等上等。


「よっしゃーーー!俺についてこぉーーーい!」


「「「うおーーーー」」」


「いくぞ、野郎ども!ついてこいやぁ!!!」


「「「おう!」」」


 ギルドメンバーを含む冒険者の俺達はアルクキヨジンを待ち受けるべく村の入り口に集まって突貫作業で心元無いバリケードを作成する。盗賊の職業を持つ罠を作成するスキルを持つ冒険者はせっせと罠を作っては仕掛けている。顔に悲壮感が漂っているところを見ると、自身の仕掛けている罠にあまり意味が無いと思っているのだろう。


「凶夜さん、まだですか」


「はぁ?何が」


 さっきまで罠を興味深く見ていたクラリがいつの間にか隣に来ていた。ソワソワした様子で草原の方を見ている。


「まさか、アルクキヨジンを早く見たいのか?…お前正気か?俺は出来ればこのまま村に来ないで通り過ぎてくれればいいなって思ってるのに。というかここの奴ら全員そう思ってるぞ多分」


 アルクキヨジンに来て欲しいなんて思ってる奴はこの場にクラリを除いて1人もいないだろう。というかそんな事言ったら袋叩きにされるぞ。


「ち、違いますよ!流石に私もそんな不謹慎な事考えてませんよ!…まぁ、例え遭遇しても私の魔眼で瞬殺ですけどね!」


 ビシッという音が聞こえてきそうなポーズをとるクラリ 


 こいつはまったく…


「…まぁ、お前のポジティブの塊みたいな発言は、嫌いじゃないけどな」


「ふふん、やっと私の実力が分かりましたか、凶夜さんも大船に乗ったつもりで私にまかせると良いですよ」


「泥船の間違いだろ」


「なにおぅ!」


 クラリは相変わらずだが、ここまで来たら腹をくくるしかない。この村を捨てて逃げるって選択ももちろんあるし、いざとなったら全員逃げろと伝えてもいる。討伐作戦の内容は会議の際に粗方伝えたが、正直上手くいくかは五分五分といったところだ。まず、この超強力なモンスターであるアルクキヨジンは俺が知っているゲームでも存在している。但し異なっているのは名前。正式名称はグルヴェイグ、北欧神話にも登場する巨人だったはずだ。


(実物を見てみないと何とも言えないが…)


 実際のところ、普通に戦ってもまず勝ち目は無いだろう。そもそもこの巨人の正体は女神フレイヤだ。人間が神に勝てる訳が無い。じゃあ一体どうやってゲームでオチをつけたのか…?確か……


「キョウヤ、キョウヤ」


「ん?ミールか、どうした?」


 アルクキヨジンの攻略方について考えているとさっきまでうろちょろしていたクラリの姿は無く、今度はミールが隣に来ていた


「大丈夫?」


 心配そうにのぞき込んでくるミール、少し顔が強張っている様に見える、緊張してるんだろうか、そりゃそうかこの世界で恐れられている化け物とこれから戦うかもしれないんだ、しかも勝たなければ村はめちゃくちゃになるときてる


 …気が付くと自分の手が僅かに震えていた、俺も緊張しているらしい


「…ちょっと柄にもなく緊張してるかもな」


「なるようになるんだよ!ばぁーーーんってやって、ダメだったら逃げるんだよ!」


「あはは、そうだな。そうしよう、だがやるからには最善を尽くすつもりだ。……ところでクラリは何処にいるんだ?さっきまでそこに居たんだが…」




 ウーーーーーーカンカンカンカンッ!!




「く、来るぞ!!」


 突如、高台から周囲を監視していたギルドメンバーが鐘を鳴らし、叫んだ。


「うおおおおお、ついに来たのかぁぁぁ!?!?」


「この戦いが終わったら、俺結婚するんだ…そこらへんで拾った棒よ!俺に力をっ」


 周りの冒険者達が自らを鼓舞するかの様に叫び声を上げる。一部どう考えても死亡フラグを立てている奴がいるが気にしない…そんな事よりも…


「こんなに早く来るなんて…ミール!クラリを捜してくれ!さっきまでそこらに居たはずだ、この作戦はあいつがいないと成り立たないんだよっ!」


「そ、そそうなんだよ!クラリーーーー!こんな一大事に何処行ったんだよ!クラリィーーーーーー!!!」


 遠く離れた草原の向こうから、メタリックに輝く頭部が見えてきた。


 地面から軽い振動が感じられ、確かに大地が震えている。


「…あ、あ、あ、あ…あれが、デカすぎる…」


 俺の後ろで罠を作っていた誰かが震えた声で呟く


 確かに、想像していたよりも2倍…いや5倍はデカい、なんだこれ倒せるのか?


 一抹の不安が過るが今更どうしようもない


「なるようにしか、ならない…か」



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