102.強襲
酷く息を切らしながら、この平穏な時間に突如としてやって来たのは、あろうことか以前に俺の事を死刑にしようとした裁判長のライムだった。
「響凶夜…こんな形で再開するのは私としても不本意だが…いや、悪い意味で言っている訳ではない。この前の事は謝罪しよう。だが、助けて欲しい」
謝罪にもならない謝罪をしながら、ライムは続ける。こいつ…本当に悪いと思ってるんだろうか?俺はマジで死ぬところだったんだが…
「…驚かないで聞いてくれ、実はこの村にアルクキヨジンが向かっているのだ。」
「アルクキヨジン…?」
なにそれ?アルクキヨジン…ああ…歩く巨人ってことか?だとしたらネーミングセンス無さ過ぎるだろ
「あっ…あるくきよじんっ!?まさかあれがこの村に向かっていると言うのですか!?凶夜さんっ知らないんですか!?やばい、やばいですよ!」
「そうだ。非常にまずい状況だ」
2人で盛り上がっているところ悪いが、一体何がどうヤバいのだろうか。丁寧に説明して欲しい。
しばらくして一息ついたライムの話によると、この世界にはアルクキヨジンと呼ばれる人型の大型モンスターが存在しており、本来そいつは普段は森や海を行き来するだけで人里には来ないはずなんだとか。他の町からの連絡で、それが何故か今回この村へ一直線に向かって来ているという事が分かったらしい。
そもそも、こいつは草しか食べないらしく、人里に来る意味がまったく分からないんだとか。しかもこの村は森に囲まれているわけでもない、もしかしたら何者かの謀略という線もあると。既に冒険者ギルドでは、依頼が受注され、多くの冒険者がこれに興味を示しているという、最も、恐怖心の方が強いそうだが。
俺はこの話を聞いて、トラブルばかりで元々そんなに好きじゃなかったこの世界が更に嫌いになった。何が悲しくて各国が問題視する化け物の話を朝っぱらから聞かなけりゃならんのじゃ。
「ちなみに、草しか食わないとか…温厚そうな感じもするんだが」
「確かにアルクキヨジンは50年以上前から確認されていて、人里を襲った事は今まで無かった。それでも道を塞いだり、攻撃を仕掛けてきたものに対しては恐ろしい威力の魔法を使って壊滅させているのだ。」
「それがこの村に向かっている…と」
いや、それ無理ゲーじゃね?
「で、なんでそんな話を俺達に聞かせるんだ?」
「そう、それだ。響凶夜、貴殿は真の容疑者だった手練れのアプリコットを倒したそうだな。」
「……」
嫌な予感がする
「是非、その力、今こそ振るってはくれないか?」
俺は一呼吸置くと、簡潔明快にこう答えた。
「断る」