101.嫌な予感
「…そうだ、ミールだ」
廃墟?廃屋?から帰ってきて、宿で食っちゃ寝を繰り返して早3日、そろそろいい加減にこの話題に触れないとヤバいんじゃないかな?と思い口にする。実際ミールの事だし、どうにかなっていると信じているが、うん
「はぁ…」
クラリが凶夜を一瞥し、深い溜息を付く
「…外部からのマインドコントロールか?俺としたことが…今まで全く思い出せなかったぜ☆」
あちゃー、と掌で額を叩く
「それ、単純に忘れてただけじゃないですか、ていうか私はこの3日間で3回くらいミールさんの話をした記憶があるのですが?」
「……くそ、クラリがミールの話しをしているのにも関わらず、それを俺に認識させないとは…かなり高度なマインドコントロールだな」
クラリに見えるように、手で顔を押さえ上を向いて大げさに頭を振ってみるが、相変わらずクラリが俺を見る眼は冷たい
「凶夜さんがそこまで人でなしの屑だとは思いませんでしたよ。今すぐ死んでください」
どこから連れて来たか分からない真っ黒な猫を撫でながらクラリが吐き捨てる様に言う
「にゃにゃーん(笑」
ここぞとばかりに青い目を光らせ、猫もクラリに示し合わせるように鳴く。何だコイツ、人の言葉が分かってるんじゃねーのか?
「おまっ、俺だけのせいにすんじゃねーよ!お前だって「あ、そう言えばミー…」言いかけて辞めてたじゃねーか!ちなみにその3回とも最後まで話してねーだろ!」
「な、な、なにをぉ!そんな事はないですよ!?ええ、私はちゃぁーんとミールさんを探したほうがいいんじゃないかなぁー?って雰囲気だしてましたよ!」
「雰囲気ってお前、そんなん分かるかぁっ」
「ま、まぁ、いいじゃないですか!こうして気がついた訳ですし…さっそくミールさんを探しに行きましょう!」
同じくクラリの腕に抱えられた猫も俺を見て、一言にゃあ!と鳴いた。それと同時にその猫をクラリからひったくる。
「ああーっ!?」
不意打ちに猫を取り上げられたクラリが悲鳴を上げる。一瞬、唖然としていたクラリは自分の腕の中と俺が首根っこを掴んで持ち上げている猫を交互に見る。別に乱暴に扱っている訳ではない。猫の持ち方と言うのはこれで正しいのだ。そして俺は愛猫家でもある。
「こ、こ、この悪魔!何もふれいむえんぺらーを奪う事は無いじゃないですか!早く返してくださあああああああーーー」
「スロット」
俺の掴んでいる猫を奪おうとした少女の頭上に俺が呼び出したスロットが落下する。頭を目掛けて落下するスロットをクラリが悲鳴を上げながらなんとか回避しようと仰け反って…そして、そのままベッドの木の角部分に頭を盛大にぶつける。
「なんかこういうシーンってスローモーションに見えるよなぁ…」
純粋で純情な感想を言ってみるが。
「………っーーー」
転んだ時に打ち付けた頭を両手で押さえながら声を殺して足をバタバタさせているクラリに更に追い討ちをかける。。。
「その程度じゃ、俺にはかなわないぞ?こう見えても、数々の苦難を乗りこてるんだ。主にお前らのせいだが。」
うん。自分で言ってて悲しくなってきた。
暫くの間、痛みにた打ち回るクラリを観察していると、ある程度は落ち着いたのか涙を浮かべながら恨みがましくこちらを見てきた。
俺の腕にはすっぽりと猫が収まっている。主人が倒されるや否や、鞍替えするとは現金な猫だ。
「ああっ、ふれいむえんぺらーまでっ、凶夜さん…もう冗談ではすまされませんよっ!」
そんな事言われても、これは俺のせいではない。いや、厳密に言えば俺のせいだが、猫のとばっちりを食うのは納得がいかないぞ。そんな事を考えている間に、目の間のクラリの目の色が変わった。
といっても、比喩では無い。実際に色が変わったのだ。
「お、お前!それは卑怯だぞっ!」
「ふふふ…」
あまりにもこいつがアホで、すっかり忘れていた、こいつは変態でアホだが、魔眼使いだった。しかも世間に出回っている紛いモノじゃなく、正真正銘本物の。
「そっちがその気なら、お前の胸の感触について感想を書いた紙を町中にばら撒いてやるからな!」
「な、なななんんですか、それ!なんでそんなモノあるんですか!?セクハラです!セクハラ親父です!」
「ふっ、こんな事もあろうかと作っておいたのよ」
もちろん、嘘だが。そんなモノは無い。だが、クラリをおぶった事があるという事実が、クラリの判断を鈍らせるのだ。まさか、いやしかし…と、それはドッシリとした不安に繋がるはず。
と、くだらないやり取りをしていると。
「響凶夜!響凶夜はいるか!?」
宿屋のドアが激しく叩かれたのだった。