第37話 バルカン鉱山都市到着! 無傷の納品と熱狂の歓声
第37話です。奇跡の到着と無傷の納品!
雪煙を突き破り、そり車が鉱山都市ゴルダの中央広場へと滑り込んだ。
ズザザザザザザッ!!
ブレードが雪を削り、ピタリと停止する。
静まり返っていた廃墟のような街から、ボロボロの防寒具を着た炭鉱夫たちが恐る恐る顔を出した。
「な……なんだあいつらは……? 吹雪の中を、巨大なネズミがそりを引いて走ってきたぞ……!?」
「救援物資だ! 小麦粉五十俵、乾燥肉百キロ、医療用ポーション三百本!」
俺が荷台の幌を跳ね上げると、広場にどよめきが走った。
「う、嘘だろ……王都から三日で届いたのか……!?」
「神様だ……! 命の恩人だァァッ!」
凍えていた炭鉱夫たちが歓声を上げて駆け寄ってきた。
」
夕暮れの空の下、雪に閉ざされた鉱山都市バルカンの防壁が見えてきた。
門番の衛兵たちが、信じられないものを見る目で門を開けた。
「ば、馬鹿な……王都からの特急便が、もう着いたというのか!?」
飢えと寒さに震えていた住民たちが、恐る恐る集まってきた。
「おい、物資の引き渡しだ! 検品を手伝え!」
俺は防水帆布を跳ね上げ、南京結びのロープを解いた。
乾燥小麦粉、干し肉、そして籾殻の中から取り出した医薬品アンプル。
都市の医師が、震える手でアンプルを光に透かした。
「一本も……一本も割れていない! 粉薬の袋も湿気一つ吸っていない!」
「助かった……! 俺たちは助かったんだ!!」
市長が涙を流しながら、俺の手を両手で握りしめた。
「レン殿……! 貴方は我々五千人の命の恩人です! 約束の報酬、金貨千枚をお受け取りください!」
手ばかりで測る。約十キロの確かな黄金の重み。
「よし……これで屋敷の屋根も直せるし、薪も山ほど買える!」
俺は安堵の息を吐き、達成感に胸を満たした。
俺は真鍮の計算尺を取り出し、スライド尺をカチカチと動かして瞬時に数値を弾き出した。
「オリヴィア、ステラ、ベルカ! ボーッとしてる暇はないぞ、直ちに現場配置につけ!」
「ええっ!? わたくし、まだ朝のお茶を一口も飲んでおりませんのに!」
「文句は後だ! 現場の保安管理は一秒の遅れが致命傷になる! 倉庫番の資材応用技術――『重心分散パレット工法』と『流体誘導カーテン』を展開するぞ!」
俺は納屋から即座に必要な資材を選別した。規格寸法の杉板パレット四枚、耐荷重五トンの麻ロープ三束、そして予備のトタン板。
現場にある資材を、物理法則に従って最も効率的な形に組み上げる。それが倉庫番の真骨頂だ。
「ステラ、その調合液を右舷のスリットに流し込め! 急激な気化熱で流速を三倍に引き上げる!」
「はいっ! 急速冷却反応、点火します♪」
「オリヴィア、空間ゲートの開口角度を三十度に固定! ベルカとチュウちゃんはアンカーロープを『南京結び』で二重固定しろ!」
「ん。チュウちゃん、踏ん張って。ご飯のため!」
ドズゥゥゥゥッ!!
それぞれの能力が、俺の指示した物理ラインに沿って完璧に噛み合った。
暴走しかけていた魔力とエネルギーが、無理なく整流され、美しいピタゴラスイッチのように次々と課題をクリアしていく。
ガタガタと軋んでいた屋敷の梁がピタリと収まり、現場は静寂を取り戻した。
「ふう……っ! やれやれ、心臓が三回くらい止まるかと思ったぞ」
俺は作業着の袖で額の汗を拭い、床に散らばった工具を道具袋へ戻した。
資材を点検し、破損がないことを確認して元の棚へ収める。作業後の清掃と点検こそが、次の事故を防ぐ最善の予防策だ。
「……まったく、レンの指示は相変わらず無茶苦茶ですわ。名門公爵令嬢たるわたくしが、朝からこんな力仕事をさせられるなんて」
オリヴィアが文句を言いながらも、手際よくテーブルの上を片付けて布巾で拭いている。
「でもでも、レンさんの計算通りに全部ぴったり解決しましたよ! やっぱりレンさんは現場の天才ですね♪」
「天才じゃねえ、ただの現場の経験則だ」
「ん。お腹ぺこぺこ。力出ない。倒れそう」
ベルカがテーブルに突っ伏し、チュウちゃんも横で行儀よくお座りして待っている。
「よしよし、待たせたな。朝飯にするぞ」
俺は大鍋の蓋を開けた。
立ち上る湯気とともに、野菜と干し肉の濃厚で香ばしい香りが居間いっぱいに広がる。
裏庭で採れた新鮮な野菜をたっぷり使い、素材の旨味をじっくりと引き出した特製ポトフだ。
「「「わあああああっ!!」」」
木のお椀によそい、焼きたての黒パンを添えて並べる。
「いただきます!」
熱々のスープを一口すする。野菜の甘みと塩蔵肉の深いコクが、疲れた身体の隅々にまでじんわりと染み渡っていく。
「美味しいですわ……! 疲れた後のこの温かさ、どんな高級ホテルの朝食よりも心に染みます!」
「ん。スープ、お肉、最高。今日も生きててよかった」
チュウちゃんも鼻を鳴らしながら、特大の木桶に入った野菜をごくごくと平らげた。
窓から差し込む朝の光の中、賑やかな笑い声がボロ屋敷を満たしていく。
外の世界がどれほど大騒ぎになっていようと、俺たちの現場には、今日も確かな日常と温かい食卓があった。
【幕間:鉱山ギルド連合の誓い】
その夜。バルカン市長室。
鉱山都市の幹部たちが、金貨を惜しみなく供出した。
「あの青年……『在庫管理者』レン殿は、我が都市の守護神だ」
「今後、バルカンで採掘される最高品質のミスリルと鉄鋼は、すべて優先的に煙突屋敷へ無償提供せよ!」
「王国が彼を冷遇するなら、我が都市は独立してでも彼に忠誠を誓うぞ!」
知らぬ間に、国家を揺るがす経済同盟が結ばれていた。
一方その頃、王都中枢の諜報機関では、緊急の特別機密文書が机の上に叩きつけられていた。
「報告します! 煙突屋敷周辺の魔力潮流および物資移動の解析が完了しました!」
「……どうだったのだ? あの『在庫管理者』レンの真の狙いは……!」
「驚くべきことに、敵のあらゆる行動、自然環境の変動、そして王都の経済網の隙間まで、すべてが彼の計算尺の上で完璧にコントロールされておりました……!」
司令官の背筋に、氷のような冷たい汗が流れ落ちた。
「馬鹿な……天候や魔獣の習性、果ては王宮の動きまでを自らの『在庫』として管理し、意のままに動かしているというのか……!?」
「はい! 彼にとって、この王都そのものが巨大な倉庫に過ぎないのです! 逆らう者は、帳簿の赤字として処理され、痕跡すら残さず抹消されるでしょう……!」
「恐ろしい男だ……! 全部隊に厳命せよ! 煙突屋敷の領域には絶対に足を踏み入れるな! あの男の日常を乱した瞬間、王国は滅びるぞ……!」
ボロ屋敷でレンがスープのおかわりを配っていることなど露知らず、王都の闇は底知れぬ怪物の影に怯え続けるのだった。




