第二編 ロゼリス、モテ期到来!?
ある日、王宮のイベント担当者がロゼリスを訪ねてきた。
「ロゼリス様、フラワールーナフェスタの王妃代理としてご出席をお願いしたく……」
「……え? わ、私が……ですの?」
花と月の祭典“フラワールーナフェスタ”。
ジークス王国最大規模の祭典であり、王妃もしくは将来の王妃候補が祭事を務める非常に重要な式典。
本来ならルチアが務めるはずだった。
しかし彼女は懐妊初期で悪阻が酷く、動くことすら困難になっていた。
「代わりに第二王妃候補であるロゼリス様に白羽の矢が立ちまして……」
(ルチア様……大丈夫かしら。推し✕推しの子供なんて……絶対に可愛いですわ……! でも、こんな大役……わたくしでよろしいの?)
不安はあった。
けれど任された以上、逃げるわけにはいかない。
「ロゼリス、無理はするなよ。お前は真面目だから心配だ」
アーロンの部屋で練習中、何度も転ぶ彼女を抱きとめながらアーロンは言った。
「大丈夫ですわ。アーロン様が見ていてくださるなら……」
「……そんな目で言うな。抱きしめたくなるだろ」
練習のたびにドキドキして全く集中できない。
その原因の半分はアーロンである。
***
そして迎えた祭典当日。
花をちりばめたタイトなドレスに身を包み、頭には月のヴェール。
ロゼリスはまるで“花の妖精”のように可憐だった。
隣には、王紋入りの黒いマントをまとったアーロン。
(アーロン様……黒いスーツが似合いすぎて……倒れそうですわ……!)
アーロンの視線はロゼリスに釘付けだった。
「……綺麗すぎる。ロゼリス、今日は絶対に俺の半径一メートルから離れるな」
「な、なぜですの?!」
「理由を言わせるな……」
アーロンの耳が赤い。
***
祭典は華やかに進み、いよいよロゼリスの“月の舞”が始まる。
満月が夜空に煌めき、その光がロゼリスの赤髪を照らした瞬間、場にざわめきが走った。
舞うたび、髪が光を帯びて流れ、ドレスが花びらのように揺れ、その表情は気品と可憐さが同居していて。
観客全員が息を呑んだ。
アーロンでさえ、固まったまま動かない。
「……ロゼリス……綺麗すぎる…………」
横にいたルミナスが肘で突く。
「アーロン殿下、鼻血、鼻血!」
「は……? っ……!」
アーロン、無自覚に鼻血を出し、ルミナスに止められる。
各国王子たちは崩れ落ち、胸を押さえ、頬を赤らめ
一斉にロゼリスへ視線を送った。
ロゼリス本人だけが状況を理解していなかった。
***
舞が終わり、役目を果たした安心感でロゼリスが息をついていた瞬間、周囲に各国王子たちが殺到した。
「ロゼリス嬢、月の舞……素晴らしかった!」
「ぜひ我が国へ!我が后に!」
「驚異的な美しさだ……!」
「え、えっと……あ、ありがとうございます……」
(な、なんで囲まれてますの?!)
「婚約者はいるのか?だが、結婚していないなら問題ない!」
「ぜひ我が国に嫁ぎ──」
「嫁げませんわ!!」
言い切ったその声は震えていたけれど、強かった。
「私は……婚約者を心から愛しています。ですから……申し訳ありません」
それでも王子たちは引き下がらない。
「愛? そんなもの、時間が経てば──」
その瞬間。
ロゼリスの細い腰を後ろから掴む強い腕があった。
「──悪いが」
アーロンだ。
炎のような瞳で王子達を睨みつけ、
そのままロゼリスの頰に“見せつけのキス”を落とした。
「彼女は、俺の婚約者だ。
近いうちに式も挙げる。俺の第二王妃になる。
だから──諦めろ」
声は丁寧なのに、明らかに挑発的。
王子達はぐうの音も出ず、散っていった。
ロゼリスはほっと息をつく。
「アーロン様……ありがとうございます。助かりました……」
その手を離すどころか、アーロンは彼女を引き寄せ、荒々しいキスを落としてきた。
「……っん……! ア、アーロン様……っ……」
角度を変えて何度も、深く、甘く。
舌が絡む音すら月夜に響いた。
「これが“恋人同士”の深いキスだ。覚えろ」
「そ……そんな……知らないですわ……っ」
息が上がり、ロゼリスが胸を押しても、
アーロンはその手を掴んで壁へと固定する。
「なぁ、ロゼリス。
お前が……魅力的すぎるのが悪い」
耳元で囁く声は低く熱い。
「他国の王子に見られて……口説かれて……俺は正気じゃいられん。閉じ込めておきたい。お前は、俺のものだ」
「アーロン……様……っ……ここ……外……!」
「関係ない」
再び深いキス。
満月の下。
花と月の加護を受ける祭典の夜に。
二人は互いの愛を、静かに、そして強く確かめ合った。




