第三編 私に貴方の全てを捧げます
フラワールーナフェスタの成功から数週間。
第二王妃候補として、そしてルチアの代理として公務をこなすロゼリスは、日々を文字通り駆け抜けていた。
「これも……これも……明日の分も終わらせておきませんと……」
アーロンの執務室の一角を借り、積み上がる書類を片づけていたはずが気づけば、机に突っ伏したまま寝落ちしてしまっていた。
そこへ、静かに扉を開ける気配。
アーロンが近づき、ふっと微笑む。
「……無防備な寝顔。ほんと……そんな顔で寝てたら襲うぞ?」
だが、囁く声は優しくて、痛いほど愛情に満ちていた。
アーロンはそっとブランケットを肩に掛け、指先で乱れた髪を整える。
「……誕生日くらい、俺に祝わせろよ、ロゼリス。」
彼は立ち上がり、厨房へ向かった。
「……で、次は…」
「アーロン様、粉袋にそんな力を入れたら――」
ドンッッ!!!
小麦粉の爆発。
厨房が雪国みたいになる。
アーロン、真っ白。
ルミナス、真っ白。
その衝撃音で、ロゼリスが執務室から飛び起きる。
「な、なにごとですの!?……っあ」
扉を開けると、
粉まみれのアーロン。
(……っ、か、可愛い……!!)
ロゼリスは近づき、アーロンの頬についた粉を指でそっと拭った。
「ふふっ。アーロン様……私のためにケーキを作ってくださっていたのですわね。」
アーロンは少し拗ねたように視線を逸らす。
「……言うなよ。驚かせようと思ったんだ。」
ロゼリスはその不器用さごと愛しくて、微笑みながら髪を撫でる。
「アーロン様のお心遣いだけで……もう十分すぎるほど甘くて幸せですわ。」
その言葉に、アーロンの耳までほんのり赤く染まった。
結局、ロゼリスも加わり、3人でケーキ作りが再開。
笑い声が絶えず、台所は温かな空気に包まれた。
***
誕生祭の夜。
ロゼリスは、白と赤のバラが咲き誇るドレス
髪には、宝物の白ルビーのバレッタを飾り、光を浴びて咲き乱れるように輝いていた。
アーロンは一瞬、呼吸を忘れた。
(……綺麗……綺麗すぎて、言葉が出ねぇ……)
完全に固まる。
安定期に入り少しふっくらとしたお腹を嬉しそうに撫でながら、ルチアもやってきて微笑む。
「ロゼリス様、本当に薔薇の妖精のようです……!」
シルビアも優しく頷く。
「君は今日は主役だ。胸を張って、存分に楽しみなさい。」
推しカプに褒められるロゼリスは、尊みで軽く昇天しかける。
ケーキを食べながら嬉しそうに笑うロゼリスを見て、
アーロンの胸の奥で、静かな決意が固まる。
(この笑顔を……一生守り抜く。絶対に。)
***
誕生祭が終わり、人々が散った後。
アーロンはロゼリスの手を取り、そっと庭園へ導いた。
夜風がやわらかく、花々が静かに揺れ、月明かりが銀色に降り注いでいる。
ロゼリスが振り返る。
「アーロン様……?」
アーロンは深く息を吸い、彼女をまっすぐ見つめた。
「ロゼリス。」
「……俺と結婚してくれ。
一生そばにいてほしい。
お前以上の相手なんて……考えられない。」
ロゼリスの瞳に、瞬く間に涙があふれる。
胸の奥に、込み上げるものがあった。
「……っ、アーロン様……私は……
私はずっと……その言葉を……待っておりました……っ」
アーロンはそっと彼女を抱き寄せる。
「……答えを聞かせて。」
ロゼリスは涙を拭い、笑った。
「はい……喜んで……
アーロン様。私でよろしければ……一生、あなたの隣で生きていきたいですわ…。」
アーロンの腕に、力がこもった。
***
ロゼアロ婚姻式。
ロゼリスの髪を結い上げていた執事のキース。
いつもは無表情な彼だが、今日ばかりは目に涙が溜まっている。
「キース?泣いているの?」
そっとキースの顔を覗き込むロゼリス。
「はい。あんなに幼くて可愛らしいかったお嬢様がこんなに綺麗な花嫁になられるとは…うう……長年のお嬢様の恋が実ってアーロン殿下と婚姻を結ばれることは大変嬉しゅうございます。」
ハンカチで涙を拭うキース
「ふふっ…ありがとう、キース。でも、キースはアーロン様のことあまり好印象は抱いてなかったでしょう?」
「ええ、まぁ。最初の頃はお嬢様を幸せにする気がないならさっさと婚約破棄しろよと思っていたのが本音です。ですが、自身の気持ちに気づき、お嬢様を大切に愛しておられるので、彼自身は好きではありませんが、お嬢様を幸せにしてくださる方として認めてはいますよ…。」
キースな器用にロゼリスの髪をまとめ上げ、ロゼリスを送り出す。
送り出された婚姻式はルチア様とシルビア殿下の二人が全力で取り仕切っていた。
(推しカプに婚姻式の準備をしてもらうなんて幸せすぎますわ…!!)
花のアーチをくぐり、陽光が二人を祝福しているかのうに煌めいている。
アーロンは、白銀の装束に身を包み、ロゼリスだけを見つめていた。
ロゼリスは、薔薇を散りばめたドレスに身を包み、微笑む。
美しすぎる花嫁と花婿に誰もが釘付けになった。
誓いの言葉を交わす、アーロンはロゼリスの手を取り、声を震わせた。
「もう、二度と離さない。
……俺の生涯をすべてを、お前に捧げる。」
ロゼリスも涙の中で笑い、答える。
「私も……貴方のそばにずっとおりますわ。
だから……これからも貴方を愛させてください。」
指輪を交換し、アーロンはロゼリスを引き寄せ、
深く、永遠のようなキスを落とした。
その瞬間、花々がいっせいに風に揺れ、
光が二人を包む。
世界が祝福しているかのように。
推しカプを守り抜いた壁姫は、捨てられるはずの婚約者に溺愛され、愛することを知った。ロゼアロは、婚約者ではなく、“夫婦”としての新たな物語が幕を開けようとしていた。




