撮影会 その2
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サラの苦悶の声というBGMが撮影室に響く中ミスト達はカメラマンから説明を受けていた。
「ねぇミストちゃん、さっきからサラさんのうめき声が聞こえるんだけど?大丈夫なのかな?!」
「シンシア、とりあえずこの撮影が終わるまではもう思考は放棄しろ、そっちの方が気楽だ」
「本当になんでこんなことに……」
「それでは、撮影をさせていただきますが、その前に。レイゼ様からお聞きしましたが3人とも勇者候補著いう事で間違いないでしょうか?」
カメラマンの質問に三人とも肯定の意を示すと、カメラマンは他の撮影スタッフと僅かに話し合い、自分達の撮影プランを話し始める。
「分かりました。それではまず皆さんには勇者紋を出していただいてもよろしいでしょうか?その出た部位によってポーズ等を決めさせていただきます」
「………勇者紋か」
「………いやアタシ達は、別にいいんですけど……」
「…………いえ大丈夫です、出しましょう」
カメラマンからの要望にわずかにミストとシンシアが渋り、ルイスが何かを我慢するように拳を震わせるが観念したように息を吐くと、彼女達はそれぞれ自分の勇者紋をカメラマンたちに見せる。
ミストは左手の甲、シンシアは右手の甲から勇者紋を浮かび上がらせて見せる。そして、ルイスは前髪を大きく掻き上げ、丸見えになった額から勇者紋を浮かび上がらせるのであった。
ルイスのそのシュールな様子に思わず笑いかけたスタッフもいたがすぐ隣の別のスタッフに小突かれるのであった。気まずそうにカメラマンが咳払いをした後、「位置は分かりました、少しお待ちください」と言い他のスタッフに指示を始め、小道具などを準備させた。
その間にミストとシンシアは今までとは別種の羞恥に震えているルイスに近づき肩に手を置く。
「だから嫌なんですよ、勇者紋を見せるのは………!!軍の上司や両親も笑われたんです……!!………私も御姉様やシンシアさんみたいに手や腕にできるのがよかった……」
「……まぁ、気にすんな」
「そうそう!!それにもしまた笑ったら今度は私達から文句を言ってあげるから」
「お待たせしました。それでは準備が完了しましたのでミストさんとシンシアさんは後ろに、ルイスさんはそちらの椅子に座ってください」
カメラマンが声をかけ掌で方向を差すと、そこにはいつの間にか一人用の豪華なソファーが置かれており、ミスト達はカメラマンの指示通りの位置に移動する。位置についたことを確認するとカメラマンは3人にポーズ指示を出す。
「それでは、次にポーズですが。
まずミストさんは後ろを向いて椅子に背中を預けるように立ってください。それから振り返るようにこちらを見てください。この時に左手の甲をこちらに向けてください。
次にシンシアさんは正面を向いて前かがみをするように体を曲げて体をソファの背もたれで支えてください。
そして最後、ルイス様は足を組んでリラックスするように腰かけ、右手で前髪を掻き上げてください。ああ、でも前髪全部を掻き上げなくて結構です。手を荒めのような櫛として使うようなイメージでお願いします!
はいそれではお願いします!!はいはいはい!!!」
カメラマンの指示に「はぁ……?!」「ええ、本当にそのポーズ…?!」「あれ待ってください、その構図……」とミスト達は意見を口にしようとするが、カメラマンの圧に押され渋々そのポーズをとる。その後は度々カメラマンからの注意や適宜の注文を受けつつ撮影を開始すること約五分。ついに。
「………これだ!!OKです!!素晴らしい写真が取れました!!」
「どれどれ……。おお、いいじゃない」
「ゲホゲホっ……………!!ほ、本当ですね……ゴホォっ……!!」
カメラマンが自身の念写魔法で魔導写真機から直接現像した写真を見た時レイゼとサラ(満身創痍)は素直な感嘆の声を上げる。
彼女達が見た写真、そこには尊大さと妖しさを感じさせる表情をしつつも、掻き上げられた前髪からわずかに覗き浮かぶ紋章が勇者であることを示しているルイス。額から紋章が浮かぶというのは先ほどと同じであるが掻き上げ方を変えるだけで、ここまで凛々しく変わっていた。
背を向けドレスから露出した生の背中と左手の甲の紋章を惜しげもなく見せつけているミスト。その表情はどこか冷たさを感じさせ心にあるマゾヒズムを刺激させるものであった。
体を前傾させソファの背もたれに腕を置き、頑張って蟲惑な表情をしているシンシア。前にかがむことで重力に負けず一切垂れていない彼女の胸とその谷間を全面に押し出しており非常にセクシーな印象を与えていた。
まだまだ表情が硬かったりすることをはあるが、この手の写真撮影などほとんどしたことがないであろうことを考えれば上出来と言って差支えがないであろう。
ただ被写体である彼女達は感嘆の声を上げることはなく、ミストとシンシアは近くにあった椅子に座り顔を押さえ、ルイスはそれを気まずそうに視線を向けていた
「………ねぇミストちゃん。この写真新聞に載るんだよね?しかもフルカラーで。……これってさぁ羞恥プレイって奴じゃないのかなぁ?!エッチな小説とかでよくあるさぁ?!!」
「………シンシア、合図を出したらプリミティブ・キャノン・ボールで写真機ごとあいつらを吹き飛ばせ。………死人さえ出なければ勇者の権限でもみ消せるはず!!」
「やめてください!!御姉様、シンシアさん!!そんなことされればいろいろ終わってしまいます、特に私が!!」
「そりゃお前はいいだろうなぁ!!ドレスだって一番露出が少ないし普通によさげな写真そうだしなぁ!!」
「でもミストちゃんは背中丸出し!!私にいたっては胸を放り出してたんだよ?!あれ魔法学園の連中に見られるならともかく、宿舎の人たちに見られるなんて普通に許容できないんだけどぉぉ?!!」
顔を真っ赤にしながら暴れるミストとシンシアをルイスが羽交い絞めして必死に止めようとする中、レイゼは悠々と歩いて彼女達に近づいていく。なおその間にカメラマンとスタッフたちはサラに連れられ、そそくさと退散していた。
ルイスを引き離した二人は追うとするがレイゼが前に立つ。
「全く、落ち着きなさい。別にセミヌード、フルヌードを撮られたわけでもないのに……」
「うっさい!!アンタと私らを一緒にするな!!」
「というかそもそもこれ勇者候補の宣材写真として取ったんですよね一応?!このドレス姿で取る必要があります?!」
「割と今更ねその質問………。ただまぁその質問に答えるなら、必要よ。特に私達のような女にはね。
知っているかもしれないけど、ほんの数十年前までこの国は魔法による差別と同じくらい男尊女卑の考えが見られたわ」
レイゼの真剣な声に暴れていたミストとシンシアも動きを止め彼女の話に耳を傾ける。
この統一国の男尊女卑の風潮、それ自体は学校の歴史授業で習い学ぶことであり、この伝統至上主義の統一国の中では珍しく、悪しき風習であると正式に断定された事柄でもある。
「まぁその理由は極めて簡単、50年前の魔王討伐戦において勇者ヴォルフ・カラレスを支えた勇者パーティ達の実質的なリーダーが女性だったからよ。しかも彼女は最前線で戦い仲間達を何十人も救った。彼女がいなければヴォルフ様以外は全員死んでいた、と言われていたぐらいだわ」
「ええ、そのことは軍学校でも習いました。ですが、それは要するに実力で差別をねじ伏せた、というだけではないんですか?」
「実際その面はあるでしょうね。でも彼女はそれだけじゃなかったわ。これを見なさい」
そう言うとレイゼは彼女が持っていたカバンの中から一枚、透明なシートに挟まった写真を彼女達に一枚手渡す。
それには無造作な灰色の髪とコートが特徴な不愛想な表情の少年。
そして、腰まである長く艶やか黒髪に赤い瞳、抜群のプロポーションを生かすようなヒガシマの着物とミニスカート合わせたような奇抜だが美しい少女の姿が写っていた。
その姿にシンシアとルイスが釘付けになる中、ミストはその写真の人物を懐かしそうな表情で見ていた。
「その方の名前はシズカ・タチギ。………後にシズカ・カラレスと呼ばれるヴォルフ様の奥様よ。」
「そして………会ったこともない、私の祖母ちゃんだよ」




