見た目の力
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「ふぅ……まぁこんなものかしらね?」
現在ちょうど午前11時。レイゼ達5名は現在、ショッピングバックに囲まれた会員制のカフェテリアのバルコニー席に座り、街の風景を見ながら紅茶をたしなんでいた。
否正確に言うならば景色を楽しんでいたのはレイゼとサラのみであり、ミスト、シンシア、ルイスの三人は息を切らしながらぐったりとしていた。
それもそのはず、彼女達はこの約2時間の間レイゼ達のショッピングに付き合っていたのだ、露出ありありのドレスを着ながら。
まずレイゼが自分達用に買っていたアクセサリーやヒール、施したネイルの費用はどれも一か月は仕事をしないで暮らせるほどの大金であり、富裕層街を端から端まで動き回ったのに加え精神的な疲労もかなりのモノ。
さらに追い打ちをかけるようにこのドレスである。スカートの中は見えてないか、胸はこぼれていないかなど不安になってしまい余計な体力を使ってしまっていたのだった。
ただそんな彼女達のことを気にせずレイゼは宝石でできた髪飾りを袋から取り出し、乳白色の宝石でできた鳥の髪飾りをシンシアの前に、黄色い宝石でできた星の髪飾りをルイスに、そして紫色の宝石でできた蝶の髪飾りを前に差し出した。
「これ、今日のパーティで付けなさい。よく似合うと思うわよ」
「………聞きたいんだけどさ、アンタ、本当に教会の人間?質素倹約で戒律大好きな教会所属、しかも最高幹部がこんな浪費してるなんて、バレたら不味いんじゃないの?」
「………とっくにバレてるわよ。でも私は自分のコンサートの収益を全額施設に寄付しているし、自慢じゃないけど私が七聖徒になってから若者を中心に入信率はそれなりに高くなっているの。文句なんて言わせないわ。………それに、
この世界には10年前から神はいない。裁かれる道理なんてないわ」
わずかながらも怒りに満ちたレイゼのつぶやきにシンシア、ルイスが押し黙る中、ミストは差し出された紫の髪飾りを手に取り「これ一個で魔道具一個分か……」とぼやきながら自分の髪に付けた。二人もその姿を見た後自分に差し出された髪飾りを付けた。
「わぁ!!よく似合っていますお三方!!非常にお美しい、きっと殿方もメロメロになることでしょう!!」
「メロメロになるかどうかは彼女達の立ち振る舞い次第だろうけど………それで、どうかしら?オシャレをして街を歩いた感想は?少なくともいつもとは違ったんじゃないかしら?」
サラからの誉め言葉に気恥しくなっていたミスト達3人であったがレイゼの言葉を聞き静かに黙り今の自分の姿を見る。
露出の多さ等はさておき、ほとんど肌の上に着ているにも関わらず、非常に着心地のいいドレス。
一流のスタイリストたちに整えられた髪。
事故視聴しすぎない程度に淡く塗られたネイル。おまけにミストは手にある傷やタコを目立たないように特殊な魔法で隠してくれていた。
姿勢をピンと伸ばしてくれているヒール。
そして、先ほど渡された職人細工の髪飾り。
正直な感想を言うと自分の体のはずなのに自分ではないかのような印象を受けていた。
「それが見た目の力よ。どれだけ配慮しようが人間は初対面の相手を見る時、半分以上は見た目で印象が変わるの。
そして印象が変われば評価も変わる。少なくともその場に応じた綺麗な格好をすれば余計なやっかみはなくなるわ」
「………まぁその代わりうっとおしい蠅は寄ってきたけどね」
ミストが吐き捨てるようにつぶやくと他二人は「あー……」と何か嫌なことを思い出したかのように声を上げる。
実はミスト達はショッピングをしている際、何度か貴族階級と思われる男たちからナンパを受けていたのだった。しかも店をまたぎ彼女達の装いがアップグレードとして行くたびに男のレベルも上がっていき、最終的に彼女達を「自分の愛人候補」にならないか、などとふざけたことを抜かした男は上位侯爵階級の次期当主であった。
「あ、そう言えばお礼言えてなかったですよね。あの時は助け船を出してくれてありがとうございました、レイゼ様」
「気にしなくていいわ、ああいう輩はどこにでもいるし、小さなトラブルを暴力抜きで解決する立ち振る舞いは今後教え……」
とその時であった。彼女達が座っている位置から見えるほど大きな煙を出しつつ爆発音が響く。思わずミスト達が立ち上がり煙が昇っている方を注視する。あの辺りはジュエリーショップやガラス細工店などが密集している地点である。
「あの辺って火元になるようなものが何かあったっけ?!」
「いや、なかったはずだし、事故にしては魔力が濃い!」
「ということは、強盗ですか……!!」
状況を判断した彼女達は素早かった。シンシアは手袋型魔導具、ボルトレッド・グローブを身に着け、ルイスは懐に入れていた金貨をスキルによって砂鉄に変換し磁力で操作、人間数人が乗れる巨大な板を作る。そしてミストは隣に置いていた鉄カバンを手に持ち起動、ヒドゥンエッジとサイコプレート4枚に分離させるとシンシアと共にルイスが作った磁力の板の上に乗る。
僅か数秒で出撃準備を完了させたミスト達は振り返る。
「下手人はこっちが捕まえる!!レイゼはサラを守r……?!!」
だがその時3人は気が付いた。自分達が振り向いた先、さっきまで座っていたはずのレイゼの姿がどこにもいなかったことに。
落ち着いた様子でケーキを食べているサラは彼女達に語る。
「行く必要はありませんよお嬢様方。レイゼ様はもう行かれました。
あと1分もしない内に片は付くと思いますよ」
*
時間は僅かに遡り、爆発が起こった宝石店。そこでは店員や警護していたと思われる魔法使い達の体に岩の破片が突き刺さり、血を流して倒れて呼吸も荒く危険な状態であった。しかしこの惨状を引き起こしたと思われる仮面とローブで顔を隠した魔法使いの一団達はそれを無視し、乱暴にケースを割り中の宝石を袋の中へと詰め込んでいく。
「オイ急げ!!他の連中はもう完了してる!!俺らも速く逃げねぇと軍や騎士団が来るぞ!!」
「分かってるよ!!よしこれで最後……!!」
ケースの宝石を取り切った強盗の一人が袋を担ぎ店から離れようとしたその時、まだ意識があった店員の一人が痛みに耐えながらも彼の脚を掴み行かせまいとしたが、強盗の男は一瞬イラついたような表情を見せつつ店員の顔面に蹴りを入れ手を離させ、もう一人の男の後を追うのであった。
店を出ると正面にある靴屋や店や隣のガラス細工店にも放火され、中からは強盗団達と同じように顔を仮面とローブで隠した者達が出てきた。
「首尾は?!」
「大まか完了した!!もう連絡はしたから2分もしない内に空間魔法で俺達を転送してもらえるはずだ!!」
それを聞いた強盗のリーダー格と思われる男は手のひらを地面に当てると魔力が地面を走りこの辺りを崩しつつ自分達の周りに5メートルほどの厚い岩壁を出現させる。その後自分に視線を集中している仲間達に向かって男は宣言する。
「聞いたかお前ら!!あの2分でこいつらは俺達のものだ!!情報が正しければ今日この辺りを警備している連中に大した連中はいねぇ!!
それまで絶対に守り切れ!!」
「それは、少し厳しいんじゃないかしら?」
男の宣言に冷や水を浴びせるような声が響いた時、強盗団達はその声がした方向、岩壁の上を見る。そこにはいつの間にか再現魔法を解き、ドレス姿からいつものアシンメトリーな白いシスタードレスにシスターキャップを被ったレイゼが座っており、笑みを浮かべつつも冷ややかな視線を彼らへと向けていた。
桃色が混じった美しい白長髪に、特徴的なアシンメトリー改造を施された白いシスタードレスで今自分達の前に現れた存在を理解し、強盗達は喉が干上がっていく。
このような蛮行を行ったにもかかわらずビビり怯えている彼らを蔑むようにレイゼは言う。
「どうしたのかしら?自分でいうのはなんだけど、
国有数の、大した奴のお出ましよ?もっと喝采したら?」




