朝練
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地獄の宴会より約12時間前、午前6時。まだ日が昇り始めたばかりで薄暗い状態であったが、統一軍勇者用宿舎の運動用グラウンドには3人の少女が準備体操をしていた。
一人はミスト。彼女は簡素な黒い運動着に着替えており、地べたに座り込みながら足を大きく開きながら体を伸ばしていた。
もう二人はシンシアとルイス。彼女達はともに軍の運動着を着用しておりお互いに相手のストレッチを入念に手伝っていた。
三人とも既に運動した後だったのか体か湯気が昇っており、ストレッチが終わるとそれぞれ所定の場所につくと、ミストは地面に置いてあった鉄カバンを右手で持ち起動、ヒドゥンエッジとサイコプレートに変形させ左手にはヴォーパルを持ちに変則二刀流の構えを取る。それに対しシンシアはボルトレッド・グローブのの指先を赤く変色させ、ルイスは体から暖かい光を発させながら持っていた3枚の金貨を大量の砂鉄に変換し周囲に漂わせる。
彼女達が準備完了すると共に運動場の四角が光り始め、それぞれ光っている点目掛けて光の線を伸ばし、それらがつながると光の壁が上空に伸びて彼女達を覆うのであった。
「防護結界魔術展開完了。準備万端って感じだね。…………いいぞ、好きなタイミングでかかってこい」
「うん、よろしく………それじゃあ、行くよ!!
ネイル・キャノンッッッ!!!」
シンシアは掛け声とともに腕をクロスし、それを大きく振り払う。それと同時に収束された魔力のレーザー10本が交差しながら彼女の指から放出され、ミストを襲う。対してミストは避けるどころか真っすぐ突っ込み 魔力レーザーの隅間を縫って接近するが、シンシアが攻撃したのと同時に前に出ていたルイスが彼女の前に現れる。
彼女の両腕には小柄な彼女には不釣り合いな巨大な黒い手甲が付けられていた。
「マグネ・………ガンドレッド!!」
「……!!」
引き絞り放たれた黒い拳にミストは左手のヴォーパルを振ろうとするが、それを見た瞬間シンシアは拳の軌道をわずかに内側にそらした。それを見たミストは僅かに舌打ちをしつつ、振るうのをやめ、素早いバックステップとストームブーツの推進力で一気に後ろに下がり砂鉄手甲のコンビネーション攻撃を回避する。
しかし躱されるのは彼女達にとっては想定の範囲内であった。
「かかった!!ルイスちゃんお願い!!」
「了解です!!ロケット・ガンドレッド!!」
シンシアは広げた両腕をまっすぐ前に伸ばし、ネイル・キャノンを発射。発射されたネイルキャノンは最初真っすぐ放たれたが前方にいたルイスに当たりそうになると直角に曲がり、ルイスを避けると再び前方真っすぐの軌道となって伸びていく。
ルイスも両腕を前に出すと共に紫電が手甲に流れ、そのまま磁力の反発作用によって手甲をミストに向かって発射した。
両サイドはシンシアのネイル・キャノンによって塞がれ、前方からはルイスが発射したロケット・ガンドレッドの拳が迫っていた。そのためミストは足に力を入れ、ストームブーツの効果込みで大きく飛び上がり攻撃を回避したが、
「「ッッ!!ここぉ!!」」
ミストが上に逃げたタイミングで、シンシアはネイル・キャノンを解除し右腕を裏拳を放つかのように引き絞り、ルイスは飛んで行った砂鉄手甲の軌道を操作して上昇させミストの後ろに回り込ませ手甲の形を解除しそのままミストを砂鉄球の中に包み込む。
(ヴォーパルは、一度に複数の物質に致命線を生み出すことはできない!!)
(これで行動がワンアクション遅れる!!届く!!)
「これで一気に決めるよ!!キャノン・ボール!!」
「+マグネ・エンチャント!!」
シンシアの裏拳と共に放たれた彼女の体より大きな魔力玉は赤色の磁力を帯びた状態で、青色の磁力を与えられた砂鉄毬に向かって急速に飛んで行き直撃、大爆発。ミストの体に大ダメージを負うはずであったが、崩れた磁力の毬から落ちてきたのはミストの体や魔導具の残骸ではなく、
赤黒い肉の毬であった。それに反応し、二人が追撃態勢を取ろうとしたその時、
既に勝負は決まっていた。
ビュッ!!ガッガッガッガッ!!
「がぁっ………!!」
「ッッ!!シンシアさっ………」
いつの間にか空中で待機していた4枚のサイコプレートが急降下しシンシアを強襲、シンシアはそれをネイル・キャノンの斬撃で2つを切り壊したが、残り二つが足を払い、うつぶせで転んだところを背中から押さえつけて動けなくしてしまう。
ルイスが一瞬シンシアの悲鳴に反応し気をそちらに向けてしまった瞬間に、肉の毬から赤黒い帯状の筋肉、靭帯とウーツ鋼でできた鎧を身に着けたミストが飛び出しルイスの顔を掴み、そのまま結界の壁の端まで彼女の体を叩きつける。
砂煙で様子は見えなかったが、シンシアは助けに行こうと魔力を放出させ自分の体を押し付けているサイコプレートを破壊しようとするが気がつけば目の前にもう一枚のサイコプレートが浮遊しており、動けばぶつける、という無言の意思を感じられたためか、シンシアは降参するように力を抜く。
そうしている間に砂煙が張れルイスの顔を掴んで結界の壁に押し付けているミストの姿が明らかになる。
ミストが身に着けているのは鬼筋鎧で間違いなかったが、以前までの物とは違いウーツ鋼の鎧パーツがスケイルメイル状になっており、マフラー部分の先に手のようなパーツが付けられヒドゥンエッジとヴォーパルが握られ意志を持っているかのように宙に浮いていた。
「連携はよかったが、格上相手に気を逸らすなんて凡ミス犯したな」
「磁力を、操る暇も………放電する、暇もないなんて………!!」
「龍鬼筋鎧・壱。翠星の前の体を材料で生まれ変わった『失敗傑作』だ。………でどうする、続ける?」
「………意地悪を言わないでください、御姉様。
ギブアップです」
ルイスの宣言を聞いた後ミストは彼女の顔から手を離し、ポケットの中に入れていた回復ポーション入りの小さな霧吹きをルイスの体へと吹き付け、彼女の顔に負った怪我をなおした。その後全ての魔導具を解除した後倒れたいたシンシアを起こすと、ミストは今の組手の総評を出す。
「さて、今日までの5日間組手を見させてもらったけど最初と比べて中々いい出来だった。シンシアは魔導具込みとはいえ制御できていたし、ルイスも接近戦を瞬時に選んでいたのはよかった。この調子で続けていくようにしなよ
………さぁ朝練は終わりだ、アンタ達は先に上がって食堂に行っといて、私はもう数週走ってくる」
そう言い終えるとミストは軽く足を延ばした後、足早にランニングに出て行ってしまった。二人はそんな彼女の後ろ姿に礼をした後、ため息をつきつつダウンのためのストレッチを始める。
「今日は行けると思ったんだけどな~。ごめんねルイスちゃん、本当はルイスちゃんが後衛の方がいいのに………」
「いえ、むしろ今まで余裕のある時しか接近戦をしてこなかったツケが回ってきただけです。それに後衛云々でいうなら瞬間火力はシンシアさんの方が上ですしね。
………それにしても御姉様は自分だけ追加でランニングですか……あのランニングコース1週2キロはあるはずですが、それを継いで感覚でこなすとは………尊敬しかありません」
うっとりとした表情で話すルイスに対し、シンシアは「そ、そううだねー」とあいまいな返事をする。
言うことはできるはずがなかった。ミストが最後ランニングをする理由、それは以前一緒に彼女がルイスと入浴した際、貞操の危機を感じたため入浴する時間をずらすためにやっているなどと。
シンシアは僅かにせき込むふりをした後、立ち上がる。
「じゃあ、汗を流しにお風呂に行こうか!!」




