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とある冒険者の後悔


 ミストが王都に到着しシンシアと出会い、リンディ達ともめ事を起こした頃とほぼ同時刻。

 砂漠の小国サクバの冒険者ギルドにある酒場にて声が響く。


「だからさ、何度も言わせんよ、ハムナス。その、勇者紋だっけ?ここの王子にあげちまえよ。その報奨金があればオアシス辺りに屋敷を立てれるじゃねぇか?」

「お前こそ何言ってんだよリーダー!!勇者候補に選ばれたんだぜ?!捨てる訳ねぇじゃねぇか!!」


 そう言って褐色の肌にターバンが巻かれたくせ毛の焦げ茶髪、砂色のフードマントを身に着けた青年、ハムナスは机に拳を叩きつけ怒鳴るが、目の前にいるリーダーやその他の仲間達には響いておらず、何とも面倒くさそうな表情をしていた。


「………そりゃ、お前がこの国一番の魔法使いとかだったら俺達だって喜んで送り出したさ。だがお前は攻撃魔法がろくに使えないどころか戦闘技術だってそこまで高くねぇじゃねぇか?」

「そうそう、抜きんでてんのはアンタの特殊な魔法と逃げ足だけ。そんなのが勇者になれるわけないじゃん」

「それにうちの国、お前しか勇者候補がいないんだろ?期待えぐいぞ?今売れば貴族に仲間入りできるぐらいの金をくれるんだ。もらっとけって」

「~~~!!もういい!!」


 仲間達からの散々ないいようについにキレたハムナスは立ち上がりそのまま足音を鳴らして酒場の出口へと歩いていく。仲間達は声を上げて呼び止めるが彼はそれを無視し出口のドアを乱暴に開け、そのまま出て行ってしまった。酒場から出たハムナスは民衆に紛れながら自分の生まれ育ったサクバという国を歩きながら眺める。

 辺り一面砂ばかりで雲一つない青空は強い日差しを人々に刺していた。そのくせ今はこんなに暑いのに、夜になると毛布なしでは眠れなくなるほど、寒くなる。おまけに慢性的な水不足のせいで植物は育ちづらく家畜の飼育も難しい。一応オアシスの近くならそれらの問題はある程度解決するが、オアシスも大概は貴族たちやその血族が所有権を持ってる。

 それら全てを考慮してハムナスは断ずる。


(この国はもうだめだ。これでも上位冒険者パーティに所属している俺でも日銭を稼ぐのが精いっぱい、月に一回冷たい水を飲むのが唯一の贅沢………。こんなのそう遠くない未来で死んじまう。

 勇者になれば、俺の底辺人生、全部ひっくり返せるはずなんだ……!!)


 聞いた話では先代の勇者や勇者候補の中には平民下民も多くいたが勇者、またはそのパーティに選ばれた者には爵位が与えられ貴族の仲間入りをしたという。確かに勇者の道を選ぶということは今までの冒険者人生とは比較にならないほど危険な選択であることは間違いない。

 だがそんなことは、このビッグチャンスの前では全て霞んでしまう。


(ぜってぇになってやる、勇者に貴族に幸せに!!!)


 そう決意したハムナスは早歩きのまま、自分を迎えに来た統一軍がいる停泊所を目指すのであった。



(…………もう1週間もたったのか、王都に来てから)


 ハムナスはサクバからの旅立ちの日のことを思い出していた。王都に初めて来たハムナスにとってここは衝撃の連続であった。

 サクバでは貴族しかもっていない冷蔵用魔導具が格安で売られており、というかいま住んでいる宿舎の個室内に備え付けていつでも冷たい水が飲み放題であったこと。

 女性が全員美人でレベルが高く、おまけに今の王都では足を長く見せるためのミニスカートが流行っているとのことで、強すぎる日差しから肌を守るためにほとんど露出がないサクバの女性と比べ非常に色っぽく、眼福であった。


(俺がサクバ人ってことで嫌な目をする奴らも多かったが、元々俺はサクバでも下に見られてた下民、なんてことはねぇ。…………正直勇者にならなくてもこの生活を維持して、王都に永住できるようになればいいじゃね?ってなってた。…………だが、今のこの場においては手のひら変え返させてもらうぜ。

 …………王都から出てってもいいから、こいつ等から逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


 内心絶叫をするハムナスが現在いる場所は王城にある特別宴会場。現在ここで勇者候補たちが全員集まり、食事会兼、明日行われる勇者選抜試験の説明会が行われるところであったが、正直言ってハムナスは今すぐこの場所から逃げ出したかった。その理由は極めてシンプル。

 この二人が怖すぎるからである。


「チッ………クソうざってぇな。シンシアにメッセンジャーだけ頼んでサボればよかった………」

「あー!!サボるとか言っちゃいけないんだぁー☆全く、勇者候補とは思えない言動だねぇー、やっぱり戦犯ちゃんには厳しいんじゃないの♪」

「………なんだ、羽音が聞こえるから蟲でもいると思ったけど………何もいないなぁ???」

「…………陰険ピチピチデカケツレズ女」

「あ”あ”ぁ?!もっぺん言ってみろ乳牛ビッチ!!」


 同じテーブルで一緒に座っている二人の少女。

 一人は青いメッシュが入った黒髪に露出多めの青系統のロングドレスを身に纏い、アメジストで装飾された髪飾りを付けた少女。

 もう一人は緑色のメッシュが入った金髪をツインテールに纏め、非常に大きな胸を強調するように胸元が大きく開いた鮮やかな緑色のミニドレスを身に纏った少女。

 どちらも年齢的にはまだ20にもなっていないと思われるが、口々で相手のことを挑発し、そして受け流すことなく真正面からキレて、その体からあふれる威圧感を周りに振りまいていた。


「……お、お前らさぁ、な、何があったか知らないけど、せっかくの飯の席だし仲良くしようぜ?

 今回の選抜試験のパーティに選ばれたんだからさ!」

「………あぁ?!」

「………はぁ?」

「あ、な、ナンデモナイデス………!!」


 ハムナスに冷たい怒りの声をぶつける黒髪の少女と金髪の少女、もといミストとイレクトアに完全にビビり、彼は頭を付せ紛らわせるように味を感じない食事を食べ始める。そんな彼に二人は何も特に思うところを見せずに武器を使わない、舌戦による戦争を繰り返していた。


(何で、なんでこんなことにぃぃぃぃぃぃ……………!!!)


 なぜ犬猿の仲であるミストとイレクトアが一緒のテーブルで食事をしているのか、それを知るには、おおよそその日の早朝にまでさかのぼる必要がある。


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