「集中」と「連携」
機工龍での移動中にメーリルが結界を張るため人柱となった現聖女の一人娘であることをルイスから聞いていたミストは、彼女に対し謝ることを決めており、そのことはシンシア、ルイスにも話していた。もしもメーリルが自身に攻撃を行ったとしても、それを邪魔しないでほしいとも。
わずかな時が流れたがメーリルは息を吐くと、「顔を上げてください」と穏やかに話しかける。
「………私達教会は魔族と正面から戦うあなた方と違い、安全圏からサポートと祈りをするのみです。そんな私達に一体どうしてあなた達を責めることができましょう?それにもしここであなたを責めてしまえば、信仰と王国のために殉じた聖女様の御心を穢す行為となります。
………でももし、未だ心にわだかまりがあるのなら、もう一度その力を国のために貸してください、ミストさん」
「………ああ、そう言ってくれたらありがたい」
「いえ、それではこちらにどうぞ」
そう言うとメーリルは再び後ろを向き、案内を再開する。ミスト達もそれについて行く中、シンシアはミストに近づき、耳元で話しかける。
(………よかったね、ミストちゃん。ちゃんと謝れて)
(謝れて、か………。まぁ、この続きはまた今度かな)
「……皆さん到着しましたよ。この部屋です。」
そうして、メーリルに案内された部屋にミスト達は入る。その部屋は窓が一切なく明かりは天井近くに浮かんでいる小さい光球のみであるためか、少々薄暗かった。と、ミストとシンシアが周りを見渡している中、メーリルは「そちらの椅子にどうぞ」と二人を促し、用意していた椅子に座ってもらった。
「この防音部屋は一度締めれ透視魔法の類を使っても中の様子を確認することはできません。情報守秘は守られています。ご安心ください。……あぁすみません、ルイスさんの椅子が用意できていませんね。今から用意しますね」
「いえ、結構です。私はあくまで付添いの身、御姉様とシンシアさんの後ろにいますので、スキル鑑定の方、よろしくお願いします」
「御姉……?……いえ、分かりました。それでは鑑定の方を始めさせてもらいます」
メーリルは自分の目を覆っていた黒い目隠し布を外すと、その目を見開いた。その目は虹色の輝いており瞳孔は縦に割れていた。その恐ろしくも美しい瞳に二人が見入っている中、鑑定が終わったのかメーリルは黒い目隠しを再び付けた。
「鑑定完了しました。まずはミスト・クリアランスさん。あなたが女神より与えられた力は、「集中」のスキルです。スキルの効果は意識が研ぎ澄まされている時、思考を加速させ疑似的な時間停滞状態を作ることができる、というものです」
「………やっぱ、そういうタイプの力か。大体想像通りの力だね」
メーリルからの説明に対し、ミストは想定していたのか特に驚くようなこともなく納得したように答える。
魔法学校での戦いが終わり逃げている中、ミストは自身に起こっていた不可解な現象の考察を行っていた。それはイレクトアに上空に吹き飛ばされたあの時、周りの全てがゆっくりと動くような現象に襲われたことだった。最初ミストは走馬灯のようなものだと勝手に判断していたが、安全圏にまで逃げる間に集中して周りを確認していた際にも同じことがたびたび起きていた。もしかすればこれがイレクトアが言っていた、勇者紋に選ばれた者が使えるスキルと考えていたのであった。
そしてあくまで考察でしかなかったそれに確信を持ったのは、ヴォーパルの稼働テスト時に使っている時であった。本来のミストのスペックではルイスの下金によって増量した砂鉄の群れをすべて捌くのは不可能であったが、このスキルのおかげで相手の攻撃をすべて見切ることができ結果勝利することができた。あれがなければおそらくミストは勝ったとしても手足の1,2本は失っていたであろう。
「そして、シンシアさん。あなたの力は「連携」。自分が仲間として認識した相手に対し敵意抜きで放った攻撃はすべて無効化します。さらに好感度によっては副産物も与えます。シンシアさんの場合生命属性の魔力を持っていますから、対象を回復するようですね」
「なるほど……!!だからミストちゃんやサファイヤさんが私の魔力に触れてもダメージがなかったのはそういう事だったんだ!」
「……秘書官からの報告書で見ましたが、シンシアさんは魔法使い数百人分の魔力を持ってるんですよね?つまり仲間を巻き込まずに戦術魔法クラスの魔力放出を放てる……。はっきり言って反則級ですね」
「それに関しては色々と検証はいるが、まぁ色々知れたからゼロから調べるより手っ取り早い。メーリル感謝するよ」
ミストの謝礼に対して「いえ、こちらこそ」とメーリルが答えるとさっきまで閉じていたドアが開き、4人は防音室から出てきた。それと同時にルイスの懐に入れていた軍用通信魔導具から着信音が鳴り、ルイスはそれを舌打ち交じりに取るが誰がかけてきたのかを察するとその場で背筋を整え、通信を受ける。この時焦ってしまったのか拡音状態になっていることを気が付いていなかった。
「こ、こちらルイス・クラウラー!提督、何か御用でしょうか!」
「ッ!!」
「……ッ?!」
通信をかけてきた相手が統一軍のトップ、ヴォルフであることを気が付くとミストは一気に不機嫌そうな顔に代わり、シンシアは逆にうれしそうな顔に変わる。メーリルは若干顔を青くしているルイスも含めた3人の顔を見比べながら静かにこの様子を見ていた。
【用か、正直色々聞きたいことがある。サファイヤとお前はちゃんとキリアに謁見での蛮行を抑える努力をしたのか、先ほど現れた金属のワイバーンは何なのか、などな】
「……!!そ、それは……!!」
「………私は礼儀を払う価値のない連中には礼儀は払わない。それに機工龍[蒼銀]私の魔導具だ。どこでどう使おうが私の勝手だ。少なくてもお前に指図されるいわれはない、ヴォルフ」
冷や汗をかきながら対応するルイスを見ていられなかったのか、ミストは彼女から通信魔導具を取り上げヴォルフと話し始める。
【ミスト……謁見での一件、ブラウン爵を中心に魔法連からほぼ苦情のような要求が入った。無視することはできないからお前が対処をしろ。………ただでさえ今この国に残された時間は少ないのだ、子供のように波風を立てるようなことをするな。勇者候補である自覚を持て】
「はん、先に波風を立たせたのは向こうでしょ。戦争じゃロクに役にも立ってないくせに、よくあんなことを言えるもんだ。流石、あのボンクラ将軍の親族って感じだよ。」
【………一応は気が付いていたんだな】
「そりゃいいところ0のカスだったが、アイツから受けた屈辱の数々は、忘れられなくても忘れることなんてできないからね。
………第4大隊隊長、騎士団からの天下り魔法使い、カストロ・ブラウンの家の人間でしょ、アイツ」




