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2年ぶり


 王家の継承思器を持った魔将であるアティに大ダメージを与え、五体満足で一時撤退に成功したという破格の大手柄を上げたガイウス達であったが、全員成功感や満足感を感じられる表情はしておらず必死の形相で木々をかき分け強化魔法を全開で発動させながら逃げていた。

 強化魔法を使うことができないナタクを担ぎながら走っているガイウスは必至な様子で叫ぶ。


「なぁ、ラントあいつは死んだと思うか?つか死んでるって言ってくれねぇかなぁ?!」

「こうやってあの化け物から必死に距離を取っているのが答えだろう………?!クソ、寄生怪蟲たちでも食いつぶしきれないなんて………!!

 おまけに『交換』スキルも見せてしまった。もう我々じゃ奴には勝てない………!!!」


 オルトラント・トルキシオンのスキル「交換」。オルトラントと彼が触った自身の体重以下の無生物、もしくは彼が触った自身の体重以下の無生物同士の位置を入れ替えることができる。また実験によりオルトラントの魔力、または彼の魔力に包まれているものも交換の対象になることが分かっている。これによりオルトラントは自分の血肉を混ぜて作った怪蟲、そして自身や怪蟲によって彼の魔力を付与された生物も効果対象にすることができるのである。

 先ほどの一合ではガイウス、ナタクに脱出装置的な扱いで体に超小型の怪蟲を忍ばせており、アティの意識がほんの一瞬後ろに意識を向いたタイミングに怪蟲の命を代償に大量の魔力を放出。彼らを包み交換スキルの効果対象にして爆弾の怪蟲と位置交換した、というのが真相なのである。


「向こうが回復能力にかまけてガードしなかったからうまくいったがもう通じない………もう僕の動作確認ができて居る蟲じゃ殺しきることはできない………!!」

「幸いなのは魔将自身の魔法であいつも遠距離攻撃ができないことだよね……!あいつ自身であたしやオルトラント君を追わなくちゃいけない……!!」

(………そう、うまくいけばいいけれどね)


 レイゼは必死に逃走しながらも考える。先ほどアティが出していた髑髏天秤、あれが彼女の化身魔法であることは間違いない。そしてあの魔法を発動後アティが剣を振るった瞬間遠くへいたはずのノーブゥルの断末魔が響いた。

 それが意味することは一つ。おそらくアティは例外的な遠距離もとい全距離対応の斬撃を放つことができるのではないかという事。


(あの怪物が発動している遠距離攻撃無効魔法はおそらく常時発動している魔法、ほとんど特性、制限に近い物。それを解除して攻撃するには何らかの厳しい条件を満たす必要があるはず………!!

 でもそれが私達には分からない……!!)

「クソ、最初のプランに固執しすぎてた……!!もっとあの子から聞いていれば………!!」





「………お口が悪いですよ、歌姫様☆」


 レイゼがほとんど自分にだけ聞こえるような悪態をついた瞬間、何かが彼女の横を一瞬で通り過ぎる。レイゼはもちろん他四人も気が付き、思わずと言った様子で足を止め後ろを振り向くが、その時点ではすでに声の人物はいなくなっていた。

 

「………今の、声は………」

「………まぁあの怪物とまともな打ち合いをできるのは、結界内では彼女しかいないでしょうね」

「………これで私達のやるべきことは明確になったわ。()()が囮になっている内に本隊と合流し裏を取る。………頼むわよ、

 最凶最悪の魔法騎士………!!」


 アティの化身魔法の基本的な発動条件は2つある。

 1つ、相手の魔力を自分の身で触れること。

 1つ、相手のミドルネームを除く正確な本名を知ること。

 一応相手の魔力を受け続け解析していけば時間は掛かるが相手の名前を判明させることができる。

 最も今回に限ってはそんな手間は必要ない。アティはもう既に知っている。


(一番大柄なあの男……ノーブゥル(愚かな子孫)のことを弟と呼んでいた。確かに王族特有の白金色の髪に瞳の色も同じ灰色………血族であることは間違いない。

 そして奴は仲間の修道女からガイウスと呼ばれていた………と言うことは、

 あの男の名前はガイウス、ラックリバー!!条件はクリアした!!)

「リブラよ!!これより裁判を始める!!かの罪人は傲慢嫉妬憤怒強欲怠惰暴食色欲、死に至る7つの罪を犯したか否か!!

 判決を下せ!!!」


 アティは詠唱を行うと彼女の後ろに召喚されていたドクロの意匠がみられる巨大な秤の右のさらに黄色の人魂のような炎が着火、そのまま判決が行われようとしていたが、


ふぅーーー……。


 黄色の人魂の炎は儚い蝋燭の炎のように一瞬で消えてしまう。


(?!な、なぜ、なぜリブラが起動しない?!……いやこれはまさか……!! 名前が、違うのか?!)


 リブラが発動しなかったことは原因、それは相手の本名が違う、魔力の性質を変えることなどできない以上、これしか考えられなかった。かつて似たようなことで不発になったことがあったため間違いはない。

 しかしアティは考える。見たところガイウスは命がけの戦闘中に嘘をつけるような人間でないことはこの少ない戦いの中でもある程度理解することができた。しかも名前に関しても彼の仲間が言っていたことを聞いたのである。正直に言うと訳が分からなかった。

 アティは知る由もなかった。ガイウスは今でこそとある不祥事が原因で元王家であることが分かり、王都冒険者ギルドの意向でガイウス・ラックリバーというかつての名前を名乗っているが、そもそも彼は本質的には廃嫡され家名を失っている。

 つまり彼の本名はただのガイウスでしかない。

 これによってリブラの「()()な本名を知る」という条件を満たすことができずリブラを使用することができなかったのである。


(ならば、直接殺すまで!!)


 アティはリブラを霧散させると腕を後方へと引き絞り腰を落としながら右足を大きく前に出す。さらにこの時強化魔法にて脚部を中心に強化、一歩踏み出せば木々を貫いて一直線苦いウス達を追い越せる、移動特化の体を作っていく。


(奴らはもう仲間と合流しただろう。しかしいくら数が増えようが、今の私には焼け石に水!!

 全員裁いてくれる!!!)


 そうしてアティが力を込め右足に力を込めた踏み抜こうとしたその時であった。


 ブゥゥゥワァァァァッッッッ!!!


 探知魔法など使わなくとも察知できる強大な魔力の波動を自分の後ろから感じる。先ほどまでは一切感じなかったにもかかわらずいきなり現れた魔力、

 しかもその忌々しい魔力には覚えがあった。



『貴っ様ぁぁ!!!卑怯者め、封印などと……!!!剣士ならば正々堂々と戦えぇっっ!!!』

『あははは………やなこった☆生憎私は戦いに来たんじゃなくてアンタを処分しにきたんだよ♡』

『………!!!復活できたなら……貴様は、絶対に……!!殺してやる……イレクトア……!!』

『………復活、できないよ。アンタは意識が完全になくなるまで石像になるんだから。まっいいか☆


 じゃあね正義の魔将、私がくたばった後でなら、復活できるよう祈ってるよん♪』



「………やはり、本物だったかぁ!! 待ちわびたぞぉ!!!イレクトアァァ!!!」

「こっちは待ってねぇんだよ、ゾンビババァ!!!」


 アティは歓喜と怒りが混じった叫び声を上げつつ体を大きく右側にねじり方向転換、それと同時に左手2つのでもっていた宝矛を逆手持ちに持ち替え、体を向けると同時に後方、もう既に自分の後ろに迫り剣を振り下ろしていたイレクトアに向かって宝矛を切りつける。

 イレクトアの使う騎士団汎用の剣とアティの宝矛、武器のスペックは歴然、加えてフィジカルも頂纏魔法を発動しているアティが圧倒的優位ではあるが流石にいきなりの方向転換からの攻撃では力が入りきらないためか、


 ギギギギッ、ドォォォォォォン!!!


 つばぜり合いの後、爆発とともに周囲にまばらに残っていた木々を残さず破壊しつつイレクトアとアティは両者後方に吹き飛ばされる。 しかし彼女達は瞬時に体制を整え地面を踏みしめるとそのまま一直線に相手へと向かってくる。


「あの時の決闘の続きだ!!!今度は逃がさんぞっっっ!!!」

「ほざいてろ!!今度はちゃーーんと、ぶっ殺してやるよぉ!!」

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