追憶~乱入
こうして始まったイレクトアとエドガーの御前試合、二人共強化魔法によって自分の膂力や木剣を強化し、相手に向かって攻撃、激しく攻めていく。
「はぁッ!!」
「っ!!ふぅっ!!」
エドガーは突きを重点に置く王宮剣術のセオリー通り早く鋭く、それでいて隙のない素早い突きをイレクトアに向かって繰り出していく。イレクトアは体を必要最低限に動かし回避、または木剣を使って攻撃を受け流していく。その表情は真剣そのものでエドガーと比べ余裕は見られなかったが、その瞳に宿った光は消えていなかった。
そして連続突きのわずかな間、エドガーがほんの一瞬息を入れようとしたその時、イレクトアは動く。
「!!ここっ!!!」
「っっ!!」
イレクトアは一気に前へと飛び出し両者の間合いを一気に詰めようとする。当然そうはさせまいとエドガーは突きで迎撃しようとするが、先ほどまでと違い腰に力が入っていない不完全な突き。
イレクトアは木剣を構え刀身の側面で木剣の突きを受けると、そのまま木剣を流れるように手前側に傾けさせ突きを上方向へと受け流し、エドガーへと急接近する。
「この距離なら私に部があります!!お覚悟を!!」
イレクトアは木剣を力強く横薙ぎに振るいエドガーの腹部にたたき込もうとするが、エドガーに攻撃が当たりそうになった次の瞬間、エドガーは限界ギリギリまで足に強化魔法を集中、つま先の力のみで飛び上がって宙返り、イレクトアの横薙ぎを回避する。攻撃を躱されたイレクトアはすぐさま後ろを向くがその瞬間、
ガッ!!カァァァーーーン………!!
空中のまま放たれたエドガーの斬撃がイレクトアの木剣の刀身側面に命中、激しい衝撃とともにイレクトアは手を離してしまい、彼女の木剣は音を立てて闘技場の地面を滑っていった。さらにイレクトアの前にはすでに着地し姿勢を整え木剣の切っ先を突きつけているエドガーの姿があり、イレクトアは顔をわずかに俯かせる。
そして自分の中の気持ちを吐き出すかのように息を吐くと姿勢を整えまっすぐ目の前のエドガーを見る。
「……私の負けです。降参します。ありがとう、ございます」
「こちらこそ、素晴らしい試合ができた。本当にありがとう」
『決まったぁぁぁ!!今年のBグループ魔法武芸御前試合!!優勝は前評判通りエドガー・フィンジェイド選手だぁぁぁ!!だがしかしイレクトア選手も女性騎士でありながら素晴らしい奮闘でした!!これならば統一国と騎士団の未来は明るいでしょう!! 皆様、どうか二人に盛大なる拍手を!!』
握手をするエドガーとイレクトアに観客達は全員精一杯の尊敬を表すように拍手を送っていた。このままならば御前試合は大成功で幕を下ろす、はずであった。
だがそうはならなかった、なぜなら彼女が声を張り上げたのだから。
「待てっっ!!」
「「「っっ?!」」」
祝福ムードをぶち壊すかのように声が響き渡りエドガー達が固まる中、一人の少女が観客席から飛び降り闘技場へと着地する。
その少女はセミロングの長い青髪と瞳を持ち、体には下衣を黒いホットパンツに替えた統一軍訓練学校生用の改造軍服を身につけていた。
ここにいる者達のほとんどは騎士団やそれを応援する国民、魔法連や貴族など現在の人魔戦争の主戦力として騎士団を差し置いて活躍する統一軍に対してはいい感情をあまり抱いてはいない。それ故否定的な感情が多く交ざったざわめき声が響き、視線がその少女に向けられるが、彼女はそんなことを気にせず歩を進めイレクトアの前に立つと、背伸びをしながらも彼女との身長差を詰め胸ぐらを掴みあげる。
「おい……なんださっきの試合は・・・!!ふざけてんのかっっ?!」
「………!!………一体何のことですか?私は騎士です、この御前試合には誇りを持って取り組んでいます。ふざけてなどいません」
「……!!いけしゃぁしゃぁと………!!」
「おい、いい加減にしろっっ!!」
イレクトアの胸ぐらを掴んでいる少女に向かってエドガーは鋭い突きを放ち、少女はそれをかわすとバックステップで後ろに下がり彼らから一度距離をとる。いきな且つどう見ても頭を狙った本気の突き攻撃を向けられた少女であったが、特に動じていないのか怒りに満ちた視線をイレクトアへと向けていた。
「………青い髪に青い瞳の軍学校生………貴様、キリア・カラレスだな?」
「……!!確か入学してすぐに上級生を押しのけて軍学校のエースなったっていう、天才魔術師。彼女が………」
「イレクトアっ!魔術師を褒めるな!それにエースだの何だの言うがそんなものコネに決まっている!!
奴はあの提督の孫娘なのだからな!」
エドガーの発言にキリアは明確に視線を鋭くすると、近くに転がっていたイレクトアの木剣の柄部分を踏みつけ刀身部分を上方向に上げると、それを右手で掴みバトンのように右手でぐるぐると回転させた後、掴んだ。
そのままゆっくりとエドガーに向かって歩を進める。
「……まさか、自分は魔法不全者だから、提督の孫娘だから攻撃されないなどと思ってるんじゃないだろうな?数々の無礼の代償は、払ってもらうぞ!!」
エドガーは右腕を大きく引き絞り、体全体を使って超速の突きをキリアの喉元に向かって放つ。強化魔法を発動はしていなかったがそれでももしも直撃すれば命に関わるような一撃。そんな攻撃に対しキリアは、
「おせーんだよ、ロン毛」
ギリギリを見極め体を反らし紙一重でエドガーの突きを回避、と同時にエドガーの右腕に木剣を裏拳のように片手で打ち付ける。いくら体格差はあれど強化魔法抜きでは耐えきることができず鈍い骨折音が響き、エドガーは苦悶の表情をして木剣を落としてしまう。
エドガーは骨折した部位を強化魔法で固定した後、左手で拾おうとするが、それを察知したキリアは体勢を低くし右足で落ちている木剣を遠くへと蹴っ飛ばす。さらにそれとほぼ同時に右太腿にも木剣で打ち付け、エドガーは這いつくばってしまう。
「………木剣なんて拾わず強化魔法で襲ってくればいいのに。頭がかてぇよボンボン」
「………き、貴様ぁ!!提督の孫だと!!魔法不全者だと!!手加減をしてやっていればつけあがって………!!!絶対に許さん、我が本気で叩き潰しt……?!!!」
ガンっ!!グチャっっっ!!!
骨折部を強化魔法で覆い立ち上がろうとしているエドガーの顔面にキリアは鉄製ブーツで思いっきり蹴り飛ばし彼を闘技場の壁をと吹き飛ばす。エドガーの鼻は完全に潰れ端正な顔は陥没し、もし彼に意識があったとしてもおそらく前は見えていないであろう。
明らかに十代前半の少女の脚力ではなかったが、彼女の鉄ブーツのつま先からは鋼鉄製のプレートがせり出しており煙を上げていた。
「………魔導具を使って蹴りの威力を引き上げたと言うことですか………」
「………本気出すなら最初から出しとけっての。………さ、茶番は終わり。こっからが本番だ。
………勝負しろ、イレクトア・ラスターク」




