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王政事情

「?!がぁっっ?!」


 突然自分の指を折られたことにより悲鳴を上げ膝から崩れ落ちるノーブゥル。それを冷めた目線で見下ろしていたのは筋骨隆々で褐色肌、似合っていないスーツを着込んだ男性、ガイウスであった。

「……!!貴様ぁぁ……ガイウス!!」

「おい、俺とテメェは腹違いとはいえ一応兄弟だろ?尊敬の心を持ってちゃんとガイウス兄さんって言えコラ」

「王家から廃嫡された貴様など下民以下の存在だ、兄でも何でもない!!」


 ノーブゥルは折られた人差し指を左手で掴みつつ立ち上がり「やれ!!」と声を上げる。すると従者と思われる二人の魔法使いが右手をガイウスの背へと向けるが、その瞬間彼らの伸ばした手も横から伸びた手にそれぞれ掴まれるのであった。


「王子殿下。この方々の手を退くよう指示を出していただいてもよろしいでしょうか?」

「でなければ、私達は彼らの手をへし折らなければならなくなってしまいますからねぇ。お願いしますよ、義弟様」

「レイゼ、オルトラント………!!」


 先ほどまでいなかったはずの二人、レイゼとオルトラントの姿にノーブゥルは憎々しげに声を上げ、目線で従者達に指示を出すが、従者達はやや恐怖が混じった瞳でそれを拒否する。

 腕を直接掴まれている彼らはもちろん、近くで見ているノーブゥルも気がついている。おそらく詠唱を極限まで切り詰めた魔法を使おうとも魔力が流れた時点で、彼らの手が破壊されることを。ノーブゥルは舌打ちをしつつ指示を口で出す。


「お前達、退け………!」

「「は、はっ……!」」


 従者二人が力を抜くと同時に、レイゼ達も彼らの腕を放し解放する。ノーブゥルは右人差し指をかばいつつよろよろと会場の外へと歩いて行く。

「……この馬鹿が申し訳ございません、王子殿下。私がその指を回復させましょうか?」

「いらん……!!教会の人間の施しなど受けん……!!」


 ノーブゥルの発言に教会所属の勇者候補達は皆表情をしかめるが彼はそれに気づかず、従者達とともに会場から出て行くのであった。

 ノーブゥルが完全に出て行くと、勇者候補達は胸の中にたまっていた様々な感情混じりの息を吐き出す。


「……相変わらずですねぇ、あのヘイト王子は。子供の頃はナタリー同様可愛らしかったのに。……レイゼ、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。思わず掌底を顔面に打とうとしたけど、ちゃんと我慢したわ」

「……じゃあなぜ笑顔で指をならしているんですか?本当に大丈夫なんですよね??」


 とオルトラントがレイゼをたしなめる中、ガイウスはやや気まずそうは表情で、シンシア達に近づく。


「……ああぁ、その、大丈夫かシンシア?すまねぇ、うちの馬鹿が……」

「……いえ、その、大丈夫です!!アタシは、気にしてないですから……」

「……あんたの弟、本当に王族なわけ?いやこの国の貴族ならあんなもんかとも思うけどさ」

「ガキの頃から自分と自分を讃える奴=正義、それ以外=悪、みてぇな考えだったんだが、少しみねぇ間に悪化しまくってんなありゃ。

 ……バー。行方不明となった前国王と第一側室の間に生まれた男子で22歳でありながら現人類統一国の国王となった傑物である。年齢的にはガイウスの弟、ノーブゥルの兄となる。

 人格的、魔法能力的もに優れている人物であり18歳の時に王位を継承したが、その半年後に突如体調を崩し現在は離宮にて療養、先王であるバルカンが隠居から再び国王代理に戻ったのであった。


「ただ現国王が統治不能な状態でも、唯一の王候補であるあのヘイトロン毛じゃなく隠居の先王が統治するあたり、バカ貴族どもからもあり得ないって思われてんだね」

「一応俺があいつの兄貴ってこと知って話してるか?いや否定しないけどよ」

「ご、ゴホンゴホン!!そ、そろそろあちら側にいきましょう御姉様!!」


 割と大きめの声で現王政に対するヘイト発言を繰り返すミスト達に対しルイスは割と大きめの咳き込みをし、ガイウスの脇腹に連続肘突きをしながら割って入る。

 ミストも流し目で周りを確認しつつこれ以上騒ぐのは得がないと判断したのか、ゆっくりと息を吐く。


「……それじゃ、また後で」

「おう、そんじゃあな」


 そう言うとガイウスはレイゼ、オルトラントとともに別のテーブルへと歩いて行き、ミスト達も自分たちが話していた場所からわずかに離れたところにあるテーブルと椅子に座るのであった。


 その間にも続々と勇者候補達がこの会場に入ってきており、その有名人達を見るたびにシンシアは目を輝かせるのであった。

 先ほどのノーブゥルの発言について後を引いてないようでありミストは安心するものの、それとともに有名魔法使いや冒険者達に羨望のまなざしを向けるシンシアに対しミストは面白くなさそうにしていたが、その時入場してきた人混みの中に見知った顔に似ている人物がいたことに気がつく。


「あれは……ツェン?」

「え、ツェンさん?どこ?」

「いやほらあれ……」


 ミストが指を差すとそこにはいつものチーパオドレスとは違う豪奢な羽織付きのナカハナ式着物を身につけた、くせっ毛の白髪に金色の角、白い竜尾が特徴的な小柄な女性、ツェンの姿があった。また彼女の近くには濃いひげを蓄えた大柄の男性と黒髪を総髪にまとめた長身の青年がおり彼らもまたナカハナ式の着物を身につけていた。

 ツェンも会場の席を見ているときにこちらに気がついたのか優しげな笑みを浮かべつつこちらに手を振っていた。


「確かに、ツェンさんですね。彼女って確か料理人として来たという話と聞きましたが……」

「……なるほど、料理人兼勇者候補だったって訳だ。まぁ、あの婆さんなら納得か」

「え………ミストちゃん一回しか会ったことがないっていってたけど、何か知ってるの?」

「もうずいぶん昔だけど、パ……父さんが言ってたんだよ。ツェンはヴォルフや祖母ちゃんの師匠だったとか。結構興味深い話だったからそれなりに覚えて……っと無駄話はここまでだね。

 ……始まるみたいだ」

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