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9 オーレリア自室

「失礼します」


ノックの後、レオナルドが入室する。


「お父様はどうなさるおつもり?」


オーレリアはこらえきれないというように早速聞いた。


レオナルドはとがっているものに触るのは禁止といったが、ペンなどが入った引き出しごと開かなくなってしまっていたし、本棚から薄い本以外は取り出せないようになっていた。

これでは部屋にいてもすることがない。


全く、レオナルドの魔術の才覚はとどまるところを知らない。

魔力量は6歳までに決まるというのが通説だから、技術でここまで能力を高めたのだろう。

一体、なんのために、、、?


「婚約は破棄します。」

「な、なんですって、、、。」


レオナルドは慎重に言葉を選んだ。


「父様と母様は貴方を心配しています。あんなに仲がよかったではと」

「なぜ婚約破棄を?メリットがどこにあるの?」


オーレリアは続くレオナルドの声が耳に入っていなかった。


焦っていた。


レオナルドは動揺する義姉をみて、やはりと思う。


婚約そのものが彼女の存在価値になっていたのかもしれない。

貴族の子女が家に最も貢献しやすいのは、嫁ぐときだろう。家同士をつなぎ貴族の交流を広げれば、商業、物流、派閥関係で融通を利かせられる。

王妃になるのが名誉なのは、実家丸ごと権力を持てるからだ。


「いかに情勢のことがあろうと、公爵家から王妃を輩出するのは権力が偏って不安材料が残ります。

親王権派の中には侯爵家も伯爵家もある。

今更キャンベルと結束を強める必要性は強くありません。

王家も大衆の目の前で行ったことを訂正してしまえば、威厳を損ないますから。」


「だからって、、、。では私は?」


「父上はキャンベル家の領地で療養するのが良いのではないかとおっしゃっています。」

「キャンベル家?…どうしてエッツォではないの?

傷物の私が、だれかと婚約する可能性を考えていらっしゃるの?

それともただの情で私を生涯養うと?」


オーレリアは厳しい瞳で義弟を見上げた。

レオナルドは驚いた。そんな目を向けられたことはなかった。

義姉はいつも優しいというわけではなかったけれど愛情深かったから。

オーレリアは涙をあふれさせた。


「無駄だわ!戸籍を抜いて!」


オーレリアは叫んだ。

初めてのことだった。

淑女とは貞淑で慎み深く、感情を表に出さないものだ。学園で淑女の代表とされた彼女が、声を荒げるのには控えていた侍女も、レオナルドも、本人も驚いた。


レオナルドは思考する間もなく、オーレリアを抱きしめた。

家族として当然の成り行きだということにして。


「な、」

「姉上、養女だと意識しているのは、この屋敷ではあなただけです。」


レオナルドは幼子に語り掛けるように穏やかに語った。

事実だった。


「私たちは貴方が生きていてくれるだけでいい。愛しているからです。」


オーレリアは泣き出した。

そんなはずがなかった。

お荷物になってはいけないと、そう教えられた。

義弟が焦って自分の涙を拭いている間、不思議に思う。

誰に?

誰がそういったんだっけ?

家に貢献したいと思うのは貴族なら当然の信条だ。

きっと家庭教師の話したことでも過大解釈したにでも違いない。


「生きているだけでいい?」

「はい。」


レオナルドは愛おし気に義姉を見つめた。


「それ以上何を求めるというのですか」

「だって、、、。じゃあ私がいる意味は」

「幸せに生きるためです。」


ぽかんとしたオーレリアのその表情をレオナルドは観察した。

高嶺の花としてふるまっていた彼女が、今は年相応に見える気がした。


「き、貴族の義務だわ。社交は。

私たちは、民の血税に、、、生かされている。」

「婚約するのもあなたの自由です。ただ今は疲れた体と心を休ませてあげる時期というだけです。」


レオナルドは決意をこめて尋ねた。


「オーレリア、教えてください。ヘヴン殿下とのご関係はどのようなものだったのですか?」


オーレリアは逡巡した。

ここまで自分に気を遣う義弟に不義理を返すことはしたくなかったし、夫妻も知りたがっていると彼は言っていた。

嘘がばれるのは心ぐるしかったが、こうなってしまっては仕方がなかった。

本当は婚約破棄される前に言わなければいけなかったのだ。


死ねばすべてが解決するだなんて、あまりにも自分本位だったかもしれない。

オーレリアは反省し、決意をもって自分が過ごしてきた7年間を義弟に語った。


「ほとんど口を交わしていないの。

顔合わせの時、「売女」とおっしゃったわ。あの時は意味が分からなかった。態度はひどかったけれど、何か誤解があるだけで、少しずつ歩み寄っていけたらと思ったの。

そう考えるしかなかった。

次に言葉を交わしたのは、それから数年後だったかもしれない。そのときは、、、」


言葉に詰まったオーレリアにレオナルドが催促した。


「そのときは?」

「…忘れてしまったわ。一言二言交わして…それで、でも、そのころから始まった週に1度の茶会では顔を合わせてくださった。

言葉を交わすことはなかったけれど、夜会に出席するようになると人前では婚約者の務めを果してくれたし、」


レオナルドは頭が痛くなってきた。

聞いていた話は捏造だった。


「デビュタントではドレスを褒められ、いかに自分が王妃らしいかを熱弁されたとおっしゃっていませんでしたか?」


レオナルドは軽口のつもりだったが、オーレリアは瞬く間に頬を赤く染め上げた。


「そ、れは嘘で」

「では、もしかして、、、」

「自分で、、、考えて言ったの。」


恥だ。

高潔なオーレリアが幼稚な嘘を考え、平然と話すのを想像したレオナルドはほおを緩めた。

笑っているのがばれないように口元を隠したが、にらまれてしまった。


「それから先日の婚約破棄まで、言葉を交わしてはいないわ。ただ殿下には会うたびにきつく睨まれたし、私のことが嫌いでいらっしゃるとはわかっていたわ。

でもまさか婚約破棄とは思っていなかった。」


オーレリアは申し訳なく思いつつも、婚約破棄されるかもしれないと知っていたことは黙っていた。

話したら高確率で怒られると思ったからだ。


それに王太子の側近を名乗る人物からの手紙といえど、信頼性が高いわけではないし、対処できることも多くなかったはずだ。


「そうでしたか。そういった噂は流れてこないものなのですね、、、。」


義弟の後悔する様子に、オーレリアは慌てて付け足した。


「噂は流れないように尽力していたの。私の学園では雰囲気の異質さに気が付いて声をかけてくれる方もいたけれど、事実だとは決して認めなかったし、半ば脅すようなことをしてその話をやめさせたわ。」


口に出すと申し訳なさに襲われた。

嘲笑でなく、オーレリア自身を心配してくれていたのかもしれなかったのに、ひどい対応の仕方だった。

オーレリアにはすべてが敵に見えていた。

謝りたかった。


「大変でしたね。」


レオナルドと視線を合わせると慈愛に満ちた笑みを向けられた。

オーレリアはつられて笑った。


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