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10 食堂


夕食の席で、改めてオーレリアは夫妻に叱られた。


貴方をここまで育てたのは決して家門のためではないと。

オーレリアが優秀に育ってくれたのは大変誇らしいが、純粋な愛が根底にあるのだと、普段なら恥ずかしがるような言葉を連続させる公爵に夫人が笑い、レオナルドがからかい、キャンベル家に平穏が訪れた。


オーレリアは悔いた。

孤独に戦っているつもりだった自分の視野の狭さを恥じた。


「オーレリアには療養といったが、もともと避暑に行く予定だったんだ。

今は社交シーズンだけれど、今年の王都は暑くなりそうでね、王都よりも北に領地をもつ家は一度戻ることもあるそうだ。」


幸い出席を求められる夜会も当分ないし、公爵に割り当たっている王宮での公務はすましてきたようだった。


あるそうだ、と公爵は言うが決して多くはないだろう。

オーレリアにしてみれば、貴族らしく社交シーズンは活発に社交をし、まだ婚約者が決まっていない義弟のために働きかけてもいいのではないかと思うが、その必要がないほどどちらも余裕があったし公爵に野心はなかった。そんなキャンベルがオーレリアは好きだったので、怠けすぎていると思わなければそれに従っていた。


「まあ、そうなのね。あらそう、貴方、今年は久しぶりにエッツォ家のみなさんもうちの領地に招きましょうよ。」


夫人が朗らかに提案した。

アイビー夫人はなくなった妹の子供たちを気遣ってこうして何年かごとに、領地に招き入れていた。

オーレリアを兄妹たちと合わせようとする心遣いでもあった。

オーレリアは夫人の優しさにまた涙腺が緩んだ。


「2年前も招きましたよ。今年はオーレリアがゆっくり休むためにも見送りにしたほうが良いのではありませんか?」


レオナルドが口をはさんだ。

面々が目を丸くする。こうして彼が反対意見を言うことは珍しかった。

たいていは流れに従っているだけだったから。

夫人がどこか楽し気に応える。


「あら、だからこそでしょう?オーレリアも前は楽しそうにしていたんだし。ねえ?」

「えっ、はい。」


とっさに肯定するオーレリアを義弟が睨む。なんだというのか。


「しかし姉さまは静かなところで心をじっくり休める必要があります。」

「で、でも、エッツォの人たちと会えるのはうれしいわ。」

「姉さまは黙っていてください。」


よくわからないが不機嫌な様子のレオナルドに、オーレリアは若干ムッとしながらも黙る。


「どうしたのレオナルドったら。エッツォ家を招くとなにか不都合なことでも?」


夫人の言葉にレオナルドは黙りこくった。

見かねた公爵が口をはさんだ。


「まあまあ、君たちも、あまりレオをいじめるな。」

「貴方ったら。いじめてなんていませんわ。ねえオーレリア?」

「あっ、はい。」

「だって、、、。」


レオナルドが小さな声でつぶやく。


「だって、また姉上がまた、エッツォに籍を移すなんておっしゃるかもしれないではないですか。」


かっ、かわ!

頬を膨らませて拗ねるレオナルドが、オーレリアの母性に突き刺さる。


言葉にするのをなんとかこらえたオーレリアだったが、あまりの衝撃にめまいがした。

可愛い可愛いと思っていた義弟がある日声変わりし、次第に自分にくっつかれるのを嫌い、いつの間にか自分を呼び捨てにするようになったとき以来の衝撃だった。


「れ、レオ。」


思わず懐かしい愛称で義弟を呼んだオーレリアを、レオナルドが見やる。


「もう二度とあんなことは言わないと約束してくださいますか?」

「します。」

「よかった。」


即答したオーレリアに、レオナルドは心底安心したようにほほえんだ。

天使のような笑みに、オーレリアは耐えきれず顔をおおった。


「まあまあレオったら。」


夫妻が楽しそうに笑った。

しばらく愛おしさに苦しんでいたオーレリアだったが、長年不思議に思っていた疑問を解消したいと顔を上げる。


「そういえば、レオ。貴方いつ婚約するの?」


ん?

変わった空気にオーレリアは小首をかしげる。

夫妻の笑みもどこかぎこちない。


「まあ、それは、おいおい、姉さまのことが決まった後で。」


信じられないのんきさを語る義弟に、オーレリアは焦って返事する。


「それじゃ遅いわ!貴方、自分がモテるからって余裕をもっているのかもしれないけれど、早く決めたほうがいいわ。良い女性から婚約してしまうものよ。」


夫妻がうんうんと頷く中、じろりとレオににらまれる。

オーレリアは不可解に思いながらも、世間知らずな義弟がまだわかっていないようだったからつづけた。


「レオは身分も公爵家の跡継ぎと高いし、学業も優秀だと聞いたわ。容姿だって悔しいくらいに整っていて態度も紳士的ときてしまえば、貴方に文句をつけられる女性なんてどこにもいないくらいだわ。」

「でも、レオがそのつもりだと知ったら令嬢たちは大変ねえ。」


姉の欲目だとレオナルドは思ったが、訂正するのもわざとらしい気がして何も言わなかった。

夫人が言ったので、その通りだというようにオーレリアは頷いて答える。


「本当です。大量の釣書が連日山のように積み重なるでしょうね。」

「、、、それを言うなら姉さまだってそうだと思いますが。」


顔を赤くする義弟に、なにもわかっていないんだからと義姉は上品に笑い飛ばす。


「何を言っているの。私を娶って何のメリットが?

そうね、どこかの後妻か、かなり貧困の貴族、あとは年が離れた婚姻話とかなら、ある程度来ると思うわ。」

「どうなさるんですか。」

「私が決めることではないわ。でも、私の望みはやっぱり、その中から最も条件のいい相手と結婚することかしら。」

「そうですか。」


それっきり黙ってしまったレオナルドを、夫妻は楽しそうに眺めていた。

現状、彼以上に()()()()()男性は現れなさそうだった。



それから5日後、キャンベル家は北西のキャンベル公爵領へ出発した。




本編は一旦解決になります。

読んでくださってありがとうございました!


伏線や設定的に掘り下げていくのは第2章からになります。ぜひブックマークしてお待ちください。

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