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終わりには甘いお菓子を

 そうして一週間を過ごした後の、学院がお休みの日。

 ラース様達の方も無事に処理を終えた。


 私は珍しくも同席したアシェル様やクヴァシル様を含めて、四人で夕食をとった。

 今日は、いつも以上にお肉が多めの食事だった。男性は肉類が好きだと聞いているので、ラース様達のためにスヴァルド公爵家の料理人が腕を振るったのだろう。


 私の分を少なめにしてくれる細やかな配慮も嬉しい。

 なめらかなコーンスープにサラダと主菜を食べる。お茶を飲み始める頃になると、クヴァシルとアシェル様は用事があると言って退室してしまう。

 するとラース様は、王宮での決定について教えてくれた。


「魔獣のことは、伏せるのですね」


 ラース様がうなずく。


「他国に対して、我が国の弱みを見せることになりますから。その分、家を潰す理由に難航しましてね」


「どう……なったのでしょうか」


「オーグレン公爵は領地の税を正しく収めなかったことと、病気により執務がとれなくなったと理由をつけて爵位を取り上げました。税収についても本当のことですし、陛下の下問の際に失礼な態度を取ったこともあり、理由が増えてこの結論に落ち着きました」


 オーグレン公爵は、自ら取り潰しの要因を増やしたようだ。


「エレナ嬢は……」


「彼女ももちろん、公爵令嬢ではなくなりました。今後は公爵ともども、放逐するのも危険なので牢獄暮らしをしていただきます」


 ラース様は、「それから」と付け加えた。


「あなたを助けようとした例の従者は、綺麗に記憶を消すこともできましたし、公爵家を解雇。そのまま元の勤め先だった家へ送り届けました。その後、あなたに陳情した令嬢の家で暮らすかどうかは、本人が決めるでしょう」


「良かった……」


 気になっていたので、安心する。


「そしてヘルクヴィスト伯爵家も、同じように取り潰しされました」


 アルベルトの家だ。


「こちらはヘルクヴィスト伯爵が正当な後継者ではなかったという理由を、神殿の記述を変えて作りまして。彼の伯爵位をはく奪。彼の元で魔獣に関わっていた者も収監。アルベルトは分家の人間という扱いになりましたが……今までの自分を知っている人間の中で、伯爵子息ではなくなった者として見られ続けるのも辛いと思ったみたいです。例の娘と一緒に、私の領地の町に移住が決定し、すでに移動しているはずです」


 私は顛末を聞いてほっとする。

 これでもう、学院でひどい目にあうこともない。

 自分を捕えた枷みたいに感じていた婚約の一件も、完全に消えてくれたのだ。


「本当にお世話になりました。どうやってこの恩を返したらいいか……。でも私がいる限り、近くにいる人は守ってみせます! スキルがあれば、魔獣相手でも安全確保は完璧だとわかりましたので」


 極端なことを言えば、私さえ眠ったりしなければ、誰も傷つけられる心配はない。


「そんな危険なことに、遭遇させたくはないのですが……」


「いいえ。ぜひ恩返しをしたいのです」


 私がそう言うと、ラース様がふいに私の頭に手を触れた。


「恩なんて考えなくていいんですよ。あなたが側に居てくれるだけで、十分です」


 そのまま子供にするように撫でられて、私は落ち着くような、気恥ずかしいような気分になる。

 ラース様の手はそのまま髪をなぞるように降り、横髪のひと筋を指先に絡めた。


「それに、あなたのおかげで聖花の研究も進んでいます。きっとずっと僕は聖花のことを研究し続けるでしょうから、あなたはそれに付き合い続けてくれたらいいと思っていますよ。もしどうしても恩返しをしたいと思ってくださるのなら、そうしてください」


 そんな風に言ったラース様が、私の横髪を指先で持ち上げ、口づけする。


「…………!」


「よろしいですね?」


 念押しされて、びっくりしていた私はただただうなずくことしかできなかった。

 ラース様は笑って立ち上がる。


「ではまた、明日からに備えて、お休みになってくださいリネア嬢。レーディン伯爵令嬢がきちんと学院を卒業できないと、伯爵に私が怒られてしまいますからね」


「はい」


 私はうなずき、また変わっていくだろう生活に想いをはせた。

 今度は自分を気遣ってくれる人達がいて、誰かに睨まれたりすることがない状態で生きていけるのだ。

 もうそれだけで、明るい未来がやってきたと感じられる。


「ではおやすみなさい」


 私はラース様に挨拶し、自室へと戻った。

 部屋は綺麗に整えられて、入室するとカティが現れて眠る準備をしてくれる。

 カティに下がってもらった後、私はすぐにも眠ろうかと思ったが、ティーテーブルの上に置いてある小さな箱に気づいた。


 開けると、そこにおいてあったのは、アクアマリンのように美しく透き通った、ガラス細工のような花。

 聖花菓子だ。

 まるでカーネーションのように、ひらひらと優美な形をしている。


「何より、こんなに明るい気持ちで聖花菓子が食べられるなんて、本当に嬉しい」


 私は、花弁の部分を一つ折り取って、口に入れる。

 すぅっと溶けていく甘さを感じながら、私は幸せな気分を味わうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白く、一気読みさせていただきました。
[良い点] 主人公がメソメソイジイジせずに諦めながらも意地でも前を向こうとするのが、ドアマットヒロインにならず応援したくなる。 [気になる点] 未結で完結に。「問題貴族は潰された」で打ち切り。風呂敷を…
[良い点] リネアと元婚約者との問題が解決してよかったです。 [気になる点] リネアとパパとの関係が結局解決してないので未来が心配です。魔獣も話題解決したから終わりって事なのが分かりませんが隣国と繋が…
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