ああ、なんて素晴らしい日なのでしょう
明日、明日だ!
やっと、やっと、待ちわびたあの日がやってくる!
「ロータスぅぅううう!!!!」
「ぎゃあああ!!!悪かった、悪かった!謝るから拷問は勘弁してくれ!!!お前の着替えを覗いたのはほんの出来心だったんだ!」
なんだ急に。
というか、今何つった?
「私は今すこぶる機嫌がいい。一発で勘弁してやる。」
「ありあとーございます…って機嫌がいい?」
「ああ。」
「じゃ、じゃあ、なんなんだよ!その満面の笑みは!普段のブスくれた顔はどこ行った!」
「明日が楽しみすぎて笑いが止まらないんだよ!あーはっはっはっ!!!」
「おま、怖っ!お前の笑顔怖っ!どこの悪役だよ!」
失礼な奴だな。
私だって嬉しいことがあれば笑うさ。
「笑うのが慣れてなさすぎて若干引きっつってんだよ!大体お前が笑うのは人に暴力振るう時じゃねーか!」
「何言ってんだ!私が笑うのはお嬢様が不幸になった時だ!」
「お前本当にお嬢様の執事なのか!?」
「今まではな!」
「え?何お前、クビになったのか!?…お、おめでとう……でいいのか…?」
「まぁ、クビじゃないんだが、大体そんな感じだな。」
「はぁ?」
「まあまあ休憩がてら話そうじゃないか。ホリー兄さんからケーキを貰ってきたんだ。」
「マジで!?さっすが気が効くぅ!」
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
「んへ?ほうしはんあよ?(んで?どうしたんだよ?)」
「食うか喋るかどっちかにしろ。汚い。」
「ング、で、どうしたんだよ?お前が満面の笑みで登場なんて余程のことだろ。」
「ああ!聞いてくれ!ロータス!」
「聞いてる、聞いてる。ちょー聞いてる。」
「明日、」
「明日?」
「お嬢様が、」
「お嬢様が?」
「屋敷からいなくなるんだ!!!!」
「はぁ!?」
ああ、素晴らしい!
明日からあのお嬢様がいなくなるなんて!
私はきっと明日という日を迎えるために生まれてきたんだ!
「いや、待てよ!お嬢様がいなくなるってどういうことだよ!そうか、お前いよいよお嬢様をヤッちゃうんだな!落ち着け、シラン、早まるな!」
「私は落ち着いている。」
「例えお嬢様が気持ち悪っくって残念を通り越して変態でも殺しちゃダメだ!俺はダチに犯罪者になって欲しくねぇ!!!」
「当たり前だ。お嬢様を始末するためだけに私が手を汚すなんてアホらしい。」
「お嬢様に手をかけたりしたら旦那様がヤバイ!」
「だからお嬢様をヤらないと言っているだろう。一旦落ち着け。うるさいぞ。」
「ぐほっ」
全く、人の話を聞かない奴だ。
早合点だと言っているだろう。
「じゃ、じゃあなんでだよ。引き篭もりのお嬢様がこの屋敷からいなくなるなんて…。」
「お前本当に知らないのかよ。仮にもうちの使用人だろうが。」
「お前だけには言われたくねぇわ、そのセリフ。」
「どういう意味だ。」
「ぎゃあああ!!!待て、ストップ!話が進まねえだろ!」
「それもそうだな…。」
「ふぅ…で?明日何があるんだよ?」
「クリンセム学園の入学式だ。」
「入学って…あ、お嬢様もう15か。」
クリンセム学園。
ほぼすべての貴族が15歳になると通うお金持ち学校だ。
魔法、貴族のマナー、一般常識、様々な事を学ぶ場所。貴族はここで擬似社交界を体験できる。いきなり大人の世界に放り込むより学校で予め経験せよということだ。
一部平民の学力特待生が入学するが、ほとんどはいいとこのお嬢ちゃんお坊ちゃんだ。
もちろん、お嬢様も例に漏れずクリンセム学園に通う。
「しかも、全寮制!帰ってこない!お嬢様が帰ってこない!」
「いや、でもお前は通わないのか?お前ん家曲がりなりにも伯爵家だろ?」
「うちが多額の入学金払うわけないだろうが。そもそも学校で学べることは執事になる為に散々やったわ。なんで一度やったこともう一回教わりに行くんだよ。」
「ああ…ヒスイさんも、カトレアさんも無駄遣い嫌いだもんな。」
うちの両親というかうちの家柄というか。
貴族とは程遠いからな。
散財なんて以ての外。金は貯めてなんぼ。必要な分だけ使うべし。我が家の家訓の一つだ。
実際我が家の誰一人として学校に通ってないからな。
「でも、そっか。お嬢様行っちゃうんだな…寂しくなるな…。」
「そうか?私はせいせいしているが。」
「お前なぁ。5歳から一緒にいるんだからさ、寂しいだろ。」
「お前とお嬢様はやたら趣味が合うからな…この間もエロ本の回し読みをしてたんだって?」
「おう、人妻系、ボインボインで…ってなんで知ってんだよ!?」
「ほう?まさか本当にやっていたとはなぁ…?ちょっとカマかけただけなんだがなぁ?」
「嵌められた!!!」
エロ魔人成敗。死ねい。
「ふん。そんなに巨乳がいいか。」
「俺はお前の貧乳のが好きだけど?」
「どうやら死にたいようだな…?」
「びゃ!」
人が気にしていることを……。
栄養が全部身長に行ってしまったのだから仕方ないだろう…!
「ま、まぁ、とにかくおめでとう!えーと、祝、お嬢様入学式!」
「やったーー!!!仕事サボれる!!!ひゃっほい!フーーーー!!!」
「さっきからキャラ崩れまくってんぞ。誰だ、お前。」
「私だ私だ私だーーー!!!」
「お前本当にシランか…?」
さぁ!飲むぞ!(飲酒は18からなのでジュースだ。)
「あ、こんなところにいた!」
「え?お嬢様!?」
「なんですか!私は今喜びを噛み締めているところなのに!」
いきなりロータスの自室に入ってきたお嬢様。
いい気分だったのに……
「何って、明日の予定の確認よ!入学式なんだから!ロータスも!」
「私は入学式の開始時刻もお嬢様の出発時刻も存じております。明日は盛大に送り出させていただきます。ロータスも。」「ん?ああ。はい。」
「送り出すってあんた達何言ってんの?二人とも来るでしょ?学校。」
「「は?」」
え?な、何を言っているのでしょう、お嬢様は。
私が、学校へ?は?
「当たり前じゃない。クリンセム学園は貴族が大半だから使用人を連れてきていいのよ。」
「そ、それはアイリス姉さんが行くのでは?ほら、女性ですし。」
「いや、あんたも女でしょう。アイリスはホリーと離れたくないだろうしね。」
「ま、待ってください、お嬢様。俺は庭師ですよ?なんで学校に、」
「ロータスは私の護衛よ。シランも強いけど四六時中私の側に居られるわけじゃないし、あんた庭師のくせに国の騎士ボッコボコにできるじゃない。」
「そ、そうですけど、あ、うちの庭!俺一人で管理してますし、誰もいなくなったら荒れ果てますよ!」
「それは問題ないわ。お父様に頼んでベテランの庭師雇ってもらったから、心配ないわよ。」
「そ、そんなぁ〜」
お、俺は庭師なのにぃ…もうそれ転職じゃんかぁ〜とかなんとか言いながら頭を抱えるロータス。
「あの、お嬢様、私執事長から何も聞いてないのですが…?」
「あ、私が伝えるって言っちゃったんだっけ。遅くなってごめんね。ま、いいじゃない!これからも一緒ね!さ、あんた達もさっさと準備しなさい!」
パタパタと去って行くお嬢様の後ろ姿を見つめる。
私は最後の望みに賭け通信用の魔道具を取る。
「執事長…あの、私学校に行かなければならないのですか…?」
「ひ、ヒスイさん!何かの冗談ですよね!俺が護衛で同行するなんてっ…!」
横からロータスが入ってくる。
ゴクリと唾を飲み返答を待つ。
「冗談じゃないぞ。シラン、しっかりとお嬢様の面倒を見るんだぞ。ああ、ロータスは旦那様から話があるから今すぐ来い。」
現実は無情だった。
…
……
……………ふ
「フハハハハハハハハアーハハハハハハハハ」
「ギャーーーシランが壊れたーー!!!」
「アハアハアハハハハ世界は素晴らしいな、ロータス!お嬢様とこれからも一緒だぞ!アハハハハ」
「だ、誰かーー!!病院をここに連れてきてくれーー!!!」
シランとロータスの会話が一番好きです。
書けて楽しかった…!