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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活
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─幕間─ 冒険者ロビンソンの仕事

 俺はドミニク・ロビンソン、冒険者だ。魔法戦士として少しは名を知られている。

 そんな俺だが、アレブのばーさんにとある仕事を任された。ライティアという村の護衛役を引き受け、ライナスという子供を大人になるまでに、一人前の冒険者に鍛え上げるといいう仕事だ。なんでそんな仕事を俺にと思ったが、ばーさんの依頼じゃ断れない。

 仕方がないので詳しい話を聞いてみた。それによると、ライティア村は王都から400オリク以上南にある村らしい。そして、ライナスというガキは4歳だと聞いて俺は思わず目を剥いた。


 「ばーさん、本気か?」

 「ひぇひぇひぇ、もちろん本気じゃとも」


 てっきり12歳か13歳のガキを大人になるまで鍛えるもんだと思ってたんだが……10年も張り付くのか。


 「これが終わる頃にゃ俺は引退だぜ? いくらなんでも長すぎる」

 「わかっておる。じゃから終われば王国への士官を約束してやろう。念願じゃったんだろ?」


 確かに、いくら魔法戦士として名を知られているっていってもしょせんは冒険者だ。安定した職業である国の仕事にはかなわない。一獲千金を実現できる奴なんて一握りもいないからな。

 しかしだ。問題は、10年後の約束なんて本当に守ってくれるのかってことだ。空手形を掴まされたなんてごめんだぜ。


 「保障もなしに10年先の……」

 「これがその契約書じゃ」


 俺が言い終わらないうちにばーさんが1枚の書類を差し出してくる。手に取ってみると、それは王国が発行する正式な契約書だった。


 「驚いた。王家の紋章まで入ってやがる……!」


 以前仕事で1度だけ見たことがある王家の紋章、それがこの書類にもあった。しかも最下級とはいえ騎士かよ。おいおい、力を入れすぎだろう。いろんな意味でヤバい臭いがするじゃねぇか。


 「確かに保障が欲しいとは言ったが、ここまですんのか? ガキ1人を一人前の冒険者にするだけだぜ?」


 鄙びた村で10年間かけてガキを1人前の冒険者にするお仕事か。病気やけがをしない限り難しいことじゃない。極端な話、ちょっと剣術でも教えて一人前にしましたっていうことだってできるからな。冒険者っつってもピンからキリまでいるし。


 「ひぇひぇひぇ、まぁ、楽ができるんならそれに越したことはないの。全てお前さん次第じゃ」


 くそっ、やっぱそうだよなぁ! このばーさんがその辺りで手抜かりするはずがねぇよ!

 散々悩んでばーさんと話をした結果、俺はこの仕事を引き受けることにした。裏事情は一切教えてもらえなかったが、襲撃や誘拐の心配についてはないと説明されたのが決め手だ。ばーさんの依頼っていっつもこうなんだよな。含むところはあっても嘘は一切ない。あーあ、交渉で勝てた試しがねぇ。




 ライティア村には、村の護衛役として赴任することになった。もちろん表向きのことなんだが、村長をはじめ村人はそんなことを知らない。あくまでも俺は村の護衛役だ。その仕事をこなしつつ、俺はさりげなくライナスっていうガキを立派な冒険者にしないといけない。


 「まずは、そのライナスってガキを確認しないとな」


 大して大きくもない村だからすぐわかるだろうと考えていたら、ガキがわらわらとやって来た。なんだ?


 「ぼうけんしゃさん、でてきてください。はなしがききたいです!」


 ガキ大将らしい奴が家に向かって声を上げてきた。なるほど、村の外に興味がある連中だな。

 外に出て見てみると、8人くらいいた。後で互いに自己紹介したところ、ガキ大将が村長の四男坊バリーでその隣にいた奴がライナスだった。こいつか。そこらにいるガキと同じに見えるんだがなぁ。

 ともかく、目的のガキがすぐに見つかって安心した俺は、かつて自分が経験したことを面白おかしく話してやった。すると、元々話題の少ない村のガキには大受けだ。うんうん、この辺り、素直に感動してくれるからこっちも気分がいい。

 そして、そういったことを何度か繰り返しているとガキ達の遊びに変化が起きてきた。バリー達が冒険者ごっこをして遊び始めたらしい。あー、そういえば俺もやってたなぁ。更にうれしいことに、その中にはライナスもいた。どうも楽しんでいるようだから自主的に遊んでいるんだろう。俺としては結構なことだ。このまま冒険者を目指してほしい。


 ライティア村に着任してから1年が過ぎた頃、5歳になったライナス達は教会で勉強するようになった。これより少し前に、ライナスはバリーと一緒に俺のところへ弟子入りしている。四男坊のバリーはいずれ家を出ないといけないので冒険者として身を立てるつもりらしい。しかもライナスを一緒に連れてきてくれた。俺の仕事を1つ減らしてくれたバリーを内心褒めてやる。


 「よぉし、お前ら! 今日も素振りだ!」

 「「はい!」」


 まずは体を作ってきっちりと基礎を体に覚えこまさないといけない。小手先の技術は後でいくらでも覚えられるしな。しかし、この手の稽古は重要なんだが地味でもあるので嫌われる。だからたまに息抜きで俺が1対1の相手をしてやった。予想通りこれへの食いつきはやたらといい。しばらくはこれで稽古をつけられるだろう。

 そうそう、その稽古のときだが、ローラっていう女の子がいる。俺の稽古を受けているわけではないが、常にライナスにくっついているんだよな。それで何をしているかと見れば、教会から借りてきた写本を見て熱心に勉強している。そんなに勉強好きなら教会ですればいいと思うところなんだが、まぁ、これは、あれだよな。俺にはなかったなぁ。

 それで、このローラなんだが、勉強熱心ということもあって非常に優秀らしい。2年かかる神父の授業を1年で覚えてしまったと聞いた。更に僧侶を目指しているらしく、神父に光属性の魔法を教えてもらっているようだ。神父もやたらと乗り気で王都の大神殿と何やら交渉している。


 一般的に村の子供は7歳になると働き始める奴が出てくる。どんな人生を歩むのかは本人の意思だけじゃなく周りの環境にも左右されるが、それはライナスも同じだった。早い段階でライナスは長男だと知っていたのだが、これが冒険者となるのに足かせになりそうなのだ。まぁ、普通は長男が家業を継ぐもんだからな、このままだとライナスは冒険者になれない。俺はライナスを一人前の冒険者にすることが目的なんだが、このままだと鍛える以前の話で蹴躓いてしまう。定期的にアレブのばーさんと手紙でやり取りしているから、もちろんこの問題ついても前から書いている。しかし、有効な対策については提案してもらえてなかった。


 「さて、どうしたものか……」


 これといった打開策がないまま悩んでいると、緊急連絡用の水晶が光り輝いているのに気付いた。ばーさんから急ぎの連絡があるときは光り輝くようになっている。普段は袋に入れてしまっているのだが、毎晩寝る前に変化がないか確認していた。最低1ヵ月はかかる手紙では対応できない場合に使うことになっていたわけだが、それが初めて輝いていたわけだ。


 「どうした、ばーさん」

 「ひぇひぇひぇ、ライナスの進路についてのじゃよ」

 「お、何かいい案でもあるのか?」


 その案を聞いてみると、弟のフレッドの様子を見てから決めるというものだった。その出来がよほど優秀でない限りは弟に家業を継がせ、ライナスを外に出すということらしい。


 「単に判断を先延ばししてるだけじゃねぇか?」

 「お主の手紙によれば、ライナスはローラ並に優秀なのじゃろう? 同じ村にそうそう神童が出てくるとも思えんが」

 「確かにそうだが、そんな曖昧なものに頼るなんてらしくないな、ばーさん」


 俺に対してもそんだけ隙を見せてくれたらもっと楽なのによ。


 「とりあえず、今はライナスの父親が早まった判断をしないための対策をせねばならん。これで乗り切れるならばそれで良かろうて」

 「もう1つ疑問がある。そんな優秀な長男をジェフリーは跡継ぎにしたいと思ってねぇのか?」


 俺なら優秀な方に家業を継がせたいけどな。


 「どうもそうは思うとらんらしい。自分の家業に先がないことが見えとるらしくてな、優秀な方を外に出して身を立てさせたいようじゃ」

 「あー、なるほど」


 確かにジェフリーは自作農だが生活は苦しそうだ。努力不足だからというんじゃなくて、狭い痩せた土地しか持ってないからなんだったよな。そうなると、いくらライナスが優秀でもどうにもならねぇか。


 「それでも、冒険者で身を立てるってぇのはなぁ」


 自分で言うのも何だが、お勧めはできないな。それとも、家業を継ぐよりもましって考えてるのか。


 「こちらの思惑通りに動いてくれる分には問題ないじゃろ」

 「ひでぇな」


 その片棒を担いでる俺も大概だがな。


 「ロビンソンよ、今の案をできるだけ早くライナスの父親に提案するのじゃ。よいな」

 「はいはい」


 俺には選択権なんてないしな。これも仕事と思うしかない。

 後日、俺は雑用をこなしたついでにジェフリーと出会った振りをし、何とかこっちの提案を飲ませた。実際は相当困っていたようでこの案を出すと喜んで食いついてきてくれたんだが、何も知らずにばーさんの掌の上で踊らされているその姿を見て内心同情したな。

 しかし今気づいたんだが、ばーさんはどうやってジェフリーが跡継ぎ問題で悩んでるなんて知ったんだ? 悩んでるなんて知らなかった俺はもちろん手紙にも書いてねぇぞ。

 ……くそっ、いいように操られてるのは俺もか。


 7歳になったローラが王都の大神殿へ旅立ってから半年ほど過ぎた秋頃に、俺はライナスに魔法を教えることにした。それまでばーさんに用意してもらっていた上級算術や上級自然科学の写本を使って勉強を教えていたが、それがいよいよ終わって魔法を教えることになったわけだ。

 それにしてもライナスは随分と物覚えがいいな。神父がたまにそんなことを言っていたが、なるほど、実際に教えてみるとよくわかる。教えていく端から使いこなしていくからこっちも気を抜けない。気が付けば年末になっていたが、同時にいつのまにかライナスの家業継承問題も解決していた。あれだけ悩んでいたことがこんなにあっさりと解決するとはな。まぁ、楽でいいんだが。

 ともかくだ、出し惜しみなしでこっちは教えていたんだが、いよいよ教えられることが限られてきた。いや、剣術に関してはまだまだこれからなんだが、魔法については俺も体系的に知ってるわけじゃないから、すぐに底が見えちまうんだよ。魔法戦士っても魔法使いじゃないからこんなもんだ。

 これに関してはばーさんに手紙で知らせていたんだが、俺個人としてはある程度剣術の方に目処をつけてから魔法についてどうにかしたいと思っていた。だから、魔法を指導する奴も1年は待ってほしいと頼んだ。すると、こっちの都合がついたら連絡しろと返信が返ってきた。さすがに修業に関することはこちらに一任してくれるらしい。

 それで、きっかり1年かけて仕上げて魔法の指導者を派遣してもらうことになったんだが、ばーさんから届いた手紙を見て驚いた。


 「ライナスの守護霊?!」


 なんだよおい! そんな奴がいたのかよ?! くそ、あのばーさん、隠してやがったな!

 それで実際に会ってみたが、よくわからなかった。というのも、ユージと名乗ったそいつは慎重なのか臆病なのかわからないが、姿が見えなかったからだ。しかしライナスによると、守られてる本人もその姿を見たことがないらしい。目に見えない上にその気配さえ感じられねぇ。

 精神感応テレパシーを使って今後の取り決めなんかを話し合ったが、感触としてはどうも元平民っぽいよな。あと、バリーの質問でわかったことだが、ユージは自分が守護霊になった理由を知らないらしい。本当かどうかはわからんが、事実だとしたらご愁傷様だな。絶対ばーさんのせいだぜ。

 それはともかく、姿すら見えない相手と今後は連携の訓練もしていかないといけなくなったわけだが、そうなるとユージの実力を知る必要がある。だからどの程度なのか示してくれと頼んだら、何と四大属性の魔法を使いこなしていた。更に言うと威力も俺より上だ。畜生、魔法は最初っからこいつに丸投げしときゃよかったんじゃねぇか。


 (ふむ、大したものだな。さすがに守護霊なんて呼ばれるだけのことはある)


 何て言ったが、ありゃ本心だ。

 生前はさそがし高名な魔法使いだったんだろうと思って聞いたら、貧民から成り上がったらしい。そこは俺と一緒だったので共感できた。


 ユージも含めた訓練を初めて2年が過ぎようとしている。この守護霊はかなり強力な魔法を操り、ある程度連携もこなせたので、思っていた以上に役立つことがわかった。生前は冒険者か何かをしていたのかもしれんな。

 基本的にはライナスとバリーで何とかしつつ、危なくなったら守護霊が対処するという形で戦術は組んでいる。ユージの力をもっと使ってもいいんだが、それじゃ2人が強くなれないからな。

 とりあえず、2人に教えられることはほとんど教えた。ライナスは剣術に体術、それに途中でユージに丸投げしたが魔法を、バリーは剣、槍、斧、ナイフなど武器全般と体術を叩き込んだ。魔法ありならライナスが、なしならバリーが強い。単純に戦闘面だけ見たら、とても13歳とは思えねぇ連中だ。今じゃ訓練で俺も2人同時に相手をするのは無理だな。

 しかし、まだ冒険者としての泥臭い駆け引きは全くできないから、それで足下をすくわれる可能性はある。だからこそ、大人になるまでの残り2年で仕上げるんだ。そのためには、村を出て王都に行く必要がある。


 「それでは、ロビンソンさん、ライナス、バリー、気を付けて」


 まだ春先にもなっていない2月末、突き刺すような寒さの中、神父が見送りに村の外れまで来てくれていた。特に仲が良かったわけではないが、こういうのは嬉しい。

 そして、いくらかの注意をライナスとバリーにすると、いよいよ別れの挨拶を口にした。


 「ああ、じゃぁな」

 「神父さん、行ってきます」

 「行ってくるぜ!」


 俺達は三者三様の挨拶を口にすると、そのまま北に向かって歩き始めた。


 王都ハーティア、次の舞台へ。

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