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間違って召喚されたけど頑張らざるをえない  作者: 佐々木尽左
2章 ライティア村での生活

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新しくやって来た騒がしい先生

 村の護衛としてロビンソンがやって来てから、村の子供は冒険者に憧れるようになっていた。これはロビンソンが冒険譚を面白おかしく話したからでもある。そして、更には冒険者ごっこと称して村の内外を探検するようになった。

 ライナスもそんな1人だ。途中で入ってきた女の子であるローラと一緒に、バリー達のパーティに参加しながら毎日遊んでいる。誰から見ても冒険者になりたがっているようにしか見えなかった。これで長男じゃなければなぁ。

 俺は相変わらずライナスの夢の中で一緒に遊んだり、日中に声をかけたりしていた。最近はいきなり声をかけても驚かず、当たり前のように返事をするようになっている。俺としてはいつ話しかけても怪しまれなくなったので嬉しい。そうなると後は現実の世界で姿を見せるだけなのだが、これはまだやってない。なんとなく現れそびれた感じがして出にくいのだ。まぁ、焦る必要はないだろう。

 それと俺の魔法の勉強だが、こっちはマンネリ化している。覚えるべき魔法はまだたくさんあるのだが、呪文を覚えるコツというのがわかってくると後は単調な作業になってしまう。それでもやらないといけないのだが、ただ、どうやっても全部覚えられるとは思えないんだよなぁ。


 「先生、ちょっと相談があるんですが」

 「なんでしょう?」

 「この本に書いてある魔法って全て覚えられそうにないんですけど、それでもやらないといけないんですか?」


 魔王討伐の旅に出てからが特に不安だ。この将来の懸案事項をどうしたらいいのかをエディスン先生に質問する。


 「さすがに全て覚えろとは言いませんよ。その書物は差し上げますから」

 「え、くれるんですか?!」


 俺は驚いて先生を見た。確かこれって結構な力作じゃなかったんですか? そんな簡単にあげてもいいの?


 「旅先でも勉強してもらわないといけないですから。大切に使ってください」

 「もちろんですよ、先生! ありがとうございます!」


 それからしばらく、俺はエディスン先生にこの本の使い方について説明を受けた。以前に開けたいページを念じるだけで開けられる機能を教えてもらったが、それ以外にも実はいくつかあったのだ。

 まず、本の出し入れだが、これも念じるだけだ。消えろと念じれば手元から消えて、出てこいと念じれば手元に出てくる。どこにしまってるんだろう。次にこの本に何かを書き込むときだが、これは羊皮紙に書き込む感覚と同じだった。それと情報の整理もキーワードを思い浮かべながら念じるだけでよかった。最後にまとまった情報の追加もできるらしい。これは対象となる情報群と本を接触させて複写と念じればいいそうだ。

 ここまで知って思ったのだが、このエディスン先生の作った本ってコンピューターのソフトウェアに近いよな。ページ表示はページ検索機能に近いし、書き込めるのはエディタ機能だし、ソート機能もある。そして最後はデータの一括読み込み機能だ。そう考えるとすごいな、この本は。


 「いやぁ、使い込むほどにこの本のすごさがわかりますねぇ」

 「ははは、そうですか。私としてもそう言ってもらえて嬉しいですよ」


 エディスン先生が朗らかに笑う前で、俺はしばらく本の機能をいじっていた。もっと速く教えてくれたらよかったのにと思うが、まぁそれはいいだろう。恐らく何らかの理由があったに違いない。


 「ああ、そうです。今日から君に新しい言葉と魔法を覚えてもらうことになりました」


 まるでついでで思い出しましたよ、という感じでエディスン先生は重大なことを発表された。もちろん俺はいきなりのことでついていけない。


 「え、新しい言葉と魔法ですか?」

 「はい、精霊語と精霊魔法です」


 精霊魔法っていえば、確か精霊を召喚する魔法だったよな。ほほう、自分の周りに妖精みたいなのがふわふわ浮かぶのか。悪くないな。


 「誰に教わるんですか?」


 エディスン先生が教えるんだったら、こんな言い方をしなくてもいきなり「始めます」って言って教えたらいい。でもそうじゃないっていうことは、他の誰かが教えるってことだよな。そういえば、エディスン先生って四大属性と無属性が専門だったっけ。


 「とある妖精ですよ。アレブ殿がこちらに遣わしてくれるとのことです。日が沈んでからのお話しですね」

 「妖精ですか」


 昆虫のような羽を持ったちっこい奴かな。きっと忙しく飛び回ってておしゃべりに違いない。


 「まずは妖精語を覚えて、それから精霊魔法を習うという順番ですね」

 「いつも通りですか」


 王国語と四大属性の魔法を覚えたときと同じだな。そうなると、妖精語を覚えるのに1年で、精霊魔法を使えるようになるのに半年以上かかるのか。精霊魔法の方はどれだけ覚えられるかわからないけど。


 「ですから、今日の日中は今まで通りで構いません。ライナス君が家に戻ってきて日が沈んだ後に改めてお話しします」

 「わかりました」


 そういうことなら、昼間はいつも通りに行動するとしよう。ライナスが初めて森へ行ったとき以来、少しずつ行動半径が広がっているのがわかる。だから今日も仲良く外で遊ぶのを見守ろうじゃないか。

 俺はしばらくエディスン先生と雑談をした後、遊びに出かけたライナスに引きずられるようにしてその場を後にした。




 エディスン先生に精霊語と精霊魔法を学ぶように伝えられた日の夕方、ライナスが元気に家へ帰ってきた。今日も冒険者ごっこで村内を駆け回っていたのだ。最近は戦士役が多い。そしてローラが僧侶役で傷を回復するふりをする。きわめて自然に振る舞っているのが何ともにく……いや、ほほえましい。

 それはともかく、ライナスが家に入った後、俺はエディスン先生の待っている納屋の前までやって来た。既にジェフリーも家の中なので今日はもう誰も来ない。


 「ただいまです」

 「はい、お帰りなさい。こちらの準備はもうできています」


 ということは、もういつでも妖精を呼び寄せられるということか。アレブのばーさんが用意してくれるってことだけど、一体どんな妖精なんだろう。


 「日没までもう少しありますが、周囲に人の気配もないようですから早速始めましょうか」


 俺としては異存ないので頷いた。


 「では、ジル、出てきてください」

 「はいはーい! ジルだよー!」


 エディスン先生の呼びかけに応じてその脇が突然球形に光り輝いたかと思うと、身長30イトゥネック程度の羽根付き小人が現れた。ロングスリーブでロングスカートの白いワンピース姿の元気な女の子だ。


 「ユージ君、今日から君に精霊語と精霊魔法を教えるジルです」

 「あんたが、ユージってゆーの? あたしはジル。妖精の中でもかなりの実力者なんだよ! だからけーいを持って接するよーに!」


 そう言いながらジルは俺の周りをぐるぐると回る。結構速い。


 「見た目と言動はともかく、その内容は正しいですよ」

 「え、じゃ、本当に実力者なんですか?」

 「はい。ですから君の教育担当に抜擢されたんですよ」


 確かにそうなのかもしれないけど、とてもそうには見えない。


 「あのうさんくさいアレブってヤツに頼まれて来てやったけど、まさかこんな珍しいヤツを相手にするとは思わなかったなぁ。ねぇねぇ、ユージ、あんたって何者?」


 興味津々といった様子でジルは俺に顔を寄せて質問してくる。アレブのばーさんがうさんくさいという意見には同意だ。しかし、俺としてもエディスン先生に言われた程度のことしか知らないからな。何て答えようか。


 「あれぇ、だんまり? え、そんなにヤバいの? ちょ、あんたどんなに危ないヤツなのよ!」


 見た目通り、こっちが黙っていてもジルは勝手に話を進めていく。なんか、大阪のおばちゃんというか、売れないお笑い芸人が勢いだけでしゃべってるような感じだな。実にうるさい。


 「俺のことはエディスン先生やアレブのばーさんに聞いてないのか?」

 「精霊に近い霊体ってことは聞いてたよ。何でも人間の守護霊になったんだって? 災難だよね~」


 災難ゆーな! その通りなんだけどさ。


 「そういえば、さっきからしゃべってるのは王国語? 妖精でも普通に使えるのか?」

 「まさか! 妖精で人間の言葉を使えるなんてほとんどいないわよ! あたしはその数少ない1人なの!」


 ジルはほとんどない胸を張って答える。見た目だけならほほえましいんだが、えらく騒がしいのでかわいらしさも半減だ。


 「王国語を知っているので精霊語の単語との対比などもできますから、言葉を教える者としては都合がいいんですよ。それに、精霊魔法の使い手としても相当なものだと聞いています」

 「ふふん、そんな超一流なあたしに教えを請えるなんて、ユージは幸運だよ!」


 だからもっと敬えぇ! と騒ぎながら俺の周りをぐるぐる回る。そんなに敬ってほしいならもっと落ち着けっての。


 「それはいいとして、このジルって子は、俺達みたいに普段は姿を隠せるんですか?」


 俺は気になることをエディスン先生に尋ねた。半透明である俺やエディスン先生と違って、ジルはどう見ても実体があるようにしか見えない。これが昼間だと問題ありだ。


 「ふふん、こうかな?」


 俺の正面で止まったかと思うと、俺を見下すようにめつけながら体とワンピースが薄くなってゆく。


 「ということです。能力に関しては問題ありませんよ」

 「……わかりました」


 問題があるのは性格の方か。


 「それで、俺がジルに精霊語と精霊魔法を教わっている間、先生はどうするんですか?」

 「私はジルの補佐をすることになってます。色々必要になってくる場面はあるでしょうから」


 まぁ、あの性格じゃジルだけに教わるってのはこっちに不安があるからな。俺としてもエディスン先生がいてくれる方が嬉しい。


 「トーマスは私の助手ってことね! いいわね。そうこなくっちゃ!」


 自分の都合のいいように解釈してやがる。ごねられるよりかはいいか。


 「それじゃ、これからよろしくお願いします」


 ということで、新たにジルを加えて俺の勉強は次の段階へと移っていった。


 ジルに精霊語を教えてもらいはじめてから、改めてわかったことがある。何をするにしても騒がしいということだ。教え方が上手か下手かという以前に、ひたすらしゃべりまくる。放っておけば、1で済む説明を5でも10でもしゃべろうとするのだ。

 エディスン先生もまさかここまでとは思ってなかったらしく、ジルが過剰な説明をしそうになるとうまく話を切り上げてくれた。俺の物覚えの悪さを知っているから、あまり余計な時間をかけるのはよくないと判断したんだろう。

 なら指導者としてダメなのかというと、実は悪くなかったりする。教え方そのものはきちんとしているのだ。どうしても感覚的になってしまうところはあるものの、基本的にはエディスン先生のような論理的な教え方をしてくれた。さすがにばーさんが一本釣りしてきた人材なだけある。

 そうなると、この落ち着きのなさと騒がしさがますます残念に思えてくる。お前絶対に性格で損をしてるぞ。

 それともう1つあった。教えてもらうのは基本的に夜で、昼間は復習ということになった。というのも、俺と一緒にライナスの行くところへついてきて回るのだが、ジルが周りに気を取られて授業にならないからだ。好奇心が旺盛すぎる妖精である。まさか教師側の問題で授業が滞るとは思いもしなかったよ。だから昼間は復習に当てることにした。それでも騒がしいことには変わりないが、エディスン先生が相手をしてくれているおかげで、俺は復習に専念することができた。

 何か色々とおかしいと思うけどな。

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