忘れ去られた街
その日を境に、街から次々に人が消えていった。
一人、また一人と姿を消していく。
消えた人々は皆、あの日あの事件で大切な存在を亡くしていた。
その者たちの最後の姿を見た者は必ずこう言う。
『何かに取り憑かれたかのように、何者かを求め彷徨い歩いていた』
やがて住人は街を離れ、その街は寂れていき、そして忘れ去られていった──……
「ねぇ知ってる……? あの街の話」
「知ってるわよ。……あの、“魔女の復讐”があった街のことでしょ?」
「そうそう。確かあれ、悪魔が現れたって聞いたわ」
「何十人もの人が死んだらしいじゃない。あれって殺されたんでしょ?」
「その死んだ人たち全員、魔女が処刑されるとき魔法で魔女を刺し殺した人たちらしいよ」
ここは“炎の国〖レッドフォーリア〗”の首都“アーデンティリア”。
そこでは一つの噂が広まっている。
“魔女の復讐”と呼ばれる、忘れ去られた街で起きた事件。
その事件は“孤独な悪魔”と呼ばれ恐れられている者が現れたことでも有名になっていた。
「……早いね、もう広まっちゃってるよ。つい昨日のことなのに、さ」
楽しそうにそう呟く一人の少年にその相棒は呆れた声で言う。
『よく言う。お前自身がその元凶だろ』
「まぁね」
彼の名は“アルフォンス=レンフィールド”。
鮮やかな緋色の髪に、燃え盛る炎のように綺麗な朱色の瞳を持っている。
彼の本性を知るのは、本人とその相棒のみ。
彼の本性は“孤独な悪魔”と呼ばれる邪神竜と契約した者。
……そう、“魔女の復讐”の実行犯である。
“アルフォンス=レンフィールド”
それもまた彼の本当の名ではない。
しかし当の本人も自身の名を知らない。
知る前に彼を知る者はこの世を去ってしまった。
大切な存在も、全て――――。
それ故に今では“孤独な悪魔”その名の通りの存在。
復讐に生きる悪魔だ。
そのために名を作り出し、自身を偽っている。
“魔女の復讐”の噂を広めたのも、アルフォンスその人だ。
「さぁ――――始めますか」
そう呟くと、アルフォンスという名の少年は一瞬にして姿を消した。