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PUFF

レイクはクリス・スペンサーに電話した。


「この前の話なんだけど、すまないが受けることはできない」


「やっぱりそうきたか。でもなレイク、キミの参加要請は僕が提案したんじゃないんだよ」


「……」


「言いだしたのはジョーイなんだ。キミの後で正式メンバーになったギタリストのロンじゃなくてキミを指名したのはジョーイなんだよ、まあロンが病み上がりだったのもあるんだけど」


「でもなんで……」


「あのベルリンの一件で傷ついたのはまさか自分だけだと思っているほどバカじゃないだろな。ジョーイは体の傷より精神の方がボロボロになったよ。復帰するまでどれだけ大変だったか。でも彼はバンドに戻った。あの後のほうが演奏は神がかりだったよ」


「彼は、今どうしてる?」


「再結成に向けてひたすら練習してるよ、他のメンバーも、いちおう僕もね。ベルリンの夜以前に戻れるのはライブしかないと思わないか? あの一件で負い目を感じているのはキミよりむしろジョーイのほうなんだよ」


ベルリンのステージでのジョーイをレイクは思い出した。一段高いところにセットされたドラムをスポットライトをあびたジョーイがソロで叩きまくっていた。ライトの中に飛び散る光る汗。高揚感に包まれたジョーイの姿がレイクはとても好きだった。

ジョーイがレイクにアイコンタクトを送ってきた、これがレイクのギターソロに移る合図。


あれから一度も思い出さなかった。もちろん思い出しそうになることもあったが記憶を強制的に遮断するすべを身につけたレイクだった。そうしなければその後の人生を送れなかった。


そして、記憶のいちばん深いところ、永久凍土の中に封じ込めてきたのはホテルの植え込みに突っ込んで倒れている恋人の姿だった。


「ジョーイ」


40年いちども口に出さなかった名前をつぶやいた。


めずらしく午前の遅い時間にレイクがリビングに出てきた。寝癖のつきやすい髪までイーサンに似ているとシンディは可笑しくなった。


「シンディおはよう。イーサンはもう出かけた?」


「今日から出張だって」


「今日は音楽はかけてないんだ」


「寝てる人を爆音で起こすほど私いじわるじゃないわ」


テレビの前でラルちゃんと一緒にアニメを見ていたふたごがレイクにまとわりついた。


「レイクーお寝坊したの?」


「髪ボサボサー」


言いたい放題の孫たちにレイクの表情も緩んだ。


「ねえグレッグ、セシリー、これから僕と遊んでくれるかな?」


「なーに?」


「遊ぶー」


ちょっと待ってて、とレイクは寝室へ戻るとギターを持ってきた。

ソファーに腰かけて両側にグレッグとセシリーを座らせるとなめらかな指使いのアルペジオでギターを弾きだした。


「Puff the magic dragon lived by the sea」


やさしい声で歌った。思いがけないレイクの弾き語りにふたごの顔は輝いた。レイクはふたごに交互にほほ笑みかけながら歌い続けた。ふたごたちも


「Puff the magic dragon lived by the sea」


のフレーズになると一緒に歌った。

歌い終わると


「もう一度!」


「まだ歌うーー!」


とすぐにアンコール攻撃。


キッチンからシンディの鼻をかむ音が聞こえた。


「ママも一緒に歌お!」


「レイクお歌もギターも上手なの」


「あれ? ママ泣いてる」


鼻を赤くしてキッチンから出てきたシンディは


「レイク、いつかそのギターテクニックも子供たちに伝授してね」


と泣き笑いの顔で言った。


「オーケー」


レイクはウィンクで答えた。




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