Wheel 3
「エヴァン、起きて! これからイーサンが来るって」
スーザンに起こされたエヴァンには一瞬なにが起きたかわからなかった。ゆうべは飲みすぎた。そして飲みすぎた理由を思い出した。
「なんで兄さんがこんな早朝に来るの?」
「わからない」
わからないけどスーザンにはイーサンのお土産もまた爆弾である予感はあった。
「なんでエヴァンがいるんだ? 家にも寄らないで」
イーサンがとがめた。
「兄さんこそこんな早朝からなんだよ」
兄弟の間にちょっと不穏な空気が流れた。
「まあまあ、ふたりとも。とにかくお茶にしましょう。エヴァンは紅茶のほうがいいわね」
スーザンがキッチンへ消えると、気まずい兄弟だけが残された。
「僕の疑惑は真実になったってことだ。間違いであって欲しいって期待もしてたんだけどね」
すっかり冷めた紅茶を飲みほしてイーサンが言った。
レイク本人がいないところで過去が暴かれた。
「でもそのドラマーが自殺未遂してたなんて。ゆうべなんで教えてくれなかったの?」
エヴァンがスーザンに詰め寄った。
「医者は患者が耐えられないと判断したら告知しないの。でもね、その恋人、ジョーイっていうんだけど。本当に生きててくれてよかったわ。でないと私はたったひとりの弟を失っていたかもしれない」
「そして僕と兄さんもこの世に存在してなかったってことだね」
とエヴァン。
「父さんはずっとひとりで抱えていたんだな。あの時のエヴァンのカミングアウトがなかったら僕は父さんの過去をきっと受け入れることはできなかったと思うよ。でも今は父さんに楽になって欲しいと思うんだ。心から思う」
「レイクもあの時、カミングアウトしようとしてたの。イーサンが壊れるからって私が止めたの」
実際あの時、実の弟と父親からゲイとバイをカミングアウトされてたらどうなっていただろうとイーサンは思った。
「ねえ、兄さん。ロートレックの再結成の話は知ってる?」
「いや、でも昨日父さんにクリス・スペンサーから電話があったって」
「再結成の計画があるんだ。それでクリスが電話したと思うんだ。父さんどうするかな?」
「100%断るだろ? 恋人捨てて自殺未遂までさせて参加できるわけないだろ」
「そうだよね、ジョーイはオリジナルメンバーだから絶対参加するだろうし」
少しの沈黙をスーザンが破った。
「荒療治もアリかもしれない」
「荒療治?」
「レイクが再結成ロートレックに参加できたらそれが壁を破るチャンスになるかもしれない。ていうかそれしかレイクが解放される方法はないと思うの」
「外科医は残酷なこと平気で言うね」
と言うイーサンに
「患者を生かすためなら手足だって切り落とすわよ、ときには」
「でも父さんが再結成話に乗る可能性はかぎりなく0に近いよな」
とエヴァン。
「うん。父さんが必死で隠してきた過去を僕たちが知る前に本人がカミングアウトした方が楽だったろうなとも思う。でも知ってしまったんだから」
とイーサン。
「それにしてもレイクはつくづく幸せな父親ね。こんなすごい息子たちがいる幸せに気づいてるのかしら?」




