真実の愛を見つけたんだ
「ちょ、ちょっと、いったい何を言っているの⁈」
狼狽えた玉美が問い返してきた。
まあ、無理もない話か。サークル活動の打ち上げパーティーという人前で唐突に別れ話を切り出したのだから。
だが、当然それには理由がある。
「真実の愛を見つけたんだ」
「はあ?」
「ねえ、それってつまり別の女ができたってこと?」
思考のフリーズした玉美に代わり冴羽令子が割り込んできた。
「まあ、有り体に言えばそういうことになる。
でも、当然だろ。
玉美とは高校の頃からの付き合いだが、その割に何の進展もないんだぞ?
何度もデートは重ねてきたけどそれだけだ。それ以上の親密な関係はおろかキスのひとつさえ未だなし。
共に行動することが多かったけど、今思えばそれもただの見栄えのためにと連れ回されていただけだろうしな」
俺の言い分は間違っているだろうか。どう考えても玉美に都合の好い装飾品扱いされていただけとしか思えない。
「そうそう、葉介の言う通り。
愛とはお互いに求め合い尽くし合う関係でしょ? それができない偽りの愛よりもより崇高な愛を求めるのは自然というものよ。
もし少しでも葉介のことを大事に想っているというのなら、大人しく葉介のことを解放してあげるのが愛ってものじゃないかしら?」
玉美のことに令子が口を挿んできたからであろう、俺の側にも灯里が援軍に現れた。
やはり真実の愛とはお互いを助け支え合うものだよなぁ。
「というわけだ。
正直衒らかす真似はしたくはなかったんだけど、俺は灯里と付き合うことにしたんだ。
悪く思わないでくれよ」
伝えることは伝えたし、もうこれ以上話すことはないだろう。
俺は灯里の肩を抱き寄せその場を離れていくのであった。
◇◇◇◇
始まりは大学のサークルの歓迎パーティーだった。
俺、三枝葉介は高校の頃からの交際中だった金城玉美と共にそこに参加した。
俺たちカップルは結構周囲から目立っていたのではないかと思う。自慢じゃないが俺も玉美も結構容姿は優れている方で、当時は名前に因み金枝玉葉カップルなどと周囲から持て囃されたものだしな。
しかしそれが後に金科玉条の如く俺を縛るものだった気づくことになるのだからなんとも運命というもの皮肉なものだ。
ともあれ、そんな俺たちだからいろんな奴らに囲まれることとなり、気づけばそれぞれが別々のグループに分かれることとなっていた。
そんな中で、出逢ったのが篝灯里。運命の女だ。
まあ、その時はただ取り巻きの一人、互いに社交辞令の形式的に馴れ合うだけの有象無象と思っていたのではあるが、そこは初めての酒に酔ったのか、それとも雰囲気に酔ったのか──。(※未成年の飲酒は法律で禁止されています)
見知らぬ場所で目を覚ました俺。
なぜかベッドに横たわっており、しかもシーツの中にべったりと何かの密着するような違和感が。
「あ、おはよう。昨日は凄かったね♡」
声に振り向けば、そこにはいたずらっぽく微笑む小悪魔がいた。
ま、待て、何があった?
そんな風に問い掛けたいところだが、しかし状況に鑑みれば一目瞭然。だがしかしなぜ?
ズキズキと痛む頭を抱えながら昨晩のことを思い出す。
「え? もしかして覚えてない?
ひっど~い。私のことは遊びだったのね?」
「い、いや、それは……。
……ごめん、覚えてない。酒のせいかすっかりと記憶が……」
詼けるような灯里の問い掛け。
一瞬なんて誤魔化そうかなんて思ったものの結局は素直に答えることにした。
なんとなく彼女ならば笑って許してくれそうな気がしたせいかも知れない。
「……ま、いいけどね。酔い潰してここに連れ込んだのも私だし」
「な……。なんだよそれ?
それって普通は男がするやつだろぉ?
それをまさか男の俺が体験するなんて……」
「あっはっは。これじゃ世間知らずのお嬢様そのものだよね」
酷いのは俺でなくこいつだったようだ。
ならば罪悪感なんてこれっぽっちも感じる必要はないだろう。
「ああそうかい。好かったな、楽しい一夜を過ごせて。
用が済んだなら俺はこれで帰らせてもらうからなっ」
などと言いつつシャワー室を探す俺。
体を洗わないと気持ち悪い。
ホテルの構造なんて知りはしないけど、きっとどこかにあるはずだ。
シャワーを浴びつつ頭を冷やす。
完全に灯里に弄ばれた俺だが玉美は許してくれるだろうか。バレたときを思うと怖過ぎる。
とはいえ野良犬に咬まれたようなものだし、要するにこれは事故みたいなもの。
そう、俺は悪くない。
よし、これでいこう。
嫌な汗を流し終えシャワー室を出る。
そこでは先に着替えを終えた灯里が俺を待っていた。……俺のパンツをヒラヒラさせて。
「ホント無防備だよねぇ。あれだけ好いように弄ばれてそれでもこんな隙を見せちゃうんだから。
でもそんなところが可愛くて好いんだけどね」
あ……。
確か灯里の言う通りだ。
「しかしなんでそんなにあの子のことが好いのかなぁ。
普通恋人同士って、本当に好きならばお互いを求めずにいられないものだと思うんだけど。私ならキスひとつしないだなんてそんな退屈な関係なんて絶対イヤ。
ねぇ、もしかして本当はあの子に好いように利用されてるだけでそんなに信用されてないんじゃない?」
「バ、馬鹿な。そんなはずはっ」
「え~? 本当にぃ~?
実は心当たりがあるんじゃない~?
そんな風に動揺してるのが良い証拠だと思うんだけどぉ~。
そもそもそれならばどうして私とホテルなんかについて来たのかなぁ? しかもあんなに激しかったし。
これって本当は相手に不満があるってことなんじゃない?」
…………。
「ま、いいけどね。
でも、せっかくこうして縁もできたわけだし、相談くらいならいつでも乗ってあげるからいつでも言ってきていいよ」
こいつには散々弄ばれはしたけど、それでも案外悪いやつってわけじゃないのかも知れない……。
◇◇◇◇
あの日以来、俺は玉美との関係を客観的に見るようになった。
これまで疑うことすらなかったそれに疑問を感じるようになった。俺は何のために玉美のそれに付き合わされているのだろうか。それに必然性が全く感じられないのだ。
結果不安は膨らみ続け、遂には灯里に頼ることに。玉美の親友令子に相談するという選択もないではなかったが、中立性な意見は聞くことができないだろうしな。
「ふ~ん。そうなんだ。
なんか、本当の恋を知らないお子ちゃま恋愛ごっこの典型って感じだよね。
目的と手段が逆転してるというか、恋をすることが目的となって愛の方が疎かになってるっていうかぁ。
要するに恋をしている自分に酔っているって感じかな?」
「つまり何か? 玉美にとって相手は誰でもよくて俺は偶々偶々選ばれただけって言うのかよ?」
「だってそうでしょ。求めるばかりで自分からは何も与えるものがないんだから、他に言いようがないじゃない」
た、確かに。これまでのことを振り返ってみればその通り。俺の方が何かと世話を焼いてばかりで何かをしてもらったということは少ない。
悩む俺をベッドから眺める灯里。その興味深そうな笑みは小悪魔のそれのよう。
……まあ、これも仕方ないよな。何事にも対価は必要なわけで。
人間関係はギブアンドテイク、持ちつ持たれつが基本といったところか。そして恋愛もその延長と言われれば納得もいくというものだ。
こんなちゃっかりとした強かさを見せつつも、この愛嬌は憎めない。
もしかするとこれが正しい人間関係というものなのだろうか……。
こうして何度も相談を繰り返すうちに俺はすっかりと灯里に打ち解けていた。
あの詼た明るさの中に見せる物事の本質を見極める知性。玉美には持ち得ない大人っぽさ。
こんな風に意識したことで、俺は俺の本心に気づいてしまった。
どうやら俺は灯里のことが好きらしい。
そして俺は玉美に別れを告げることに決めた。
口を挿むの表現は私の拘りで一般的には口を挟むが正解のようです。
でもなんで?




