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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第13章 斜陽編 -在りし日の辛苦も追悼せよ緋色-
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第225話 人質


 ◆レイス◆



 金竜が所有する竜門の間。その内部は、以前に見た竜門とは大きく異なっていた。


 魔王ルヴェリスの竜門とも、炎竜ルノードの竜門とも違う。


 恐らく、元々はそうではなかったはずだ。


 円形をした広い空間であることも、地面がすり鉢状になっており、中央には大穴が空いていたことも同じ。けれど、今はその大穴が見えなくなっている。


 すり鉢全体を埋めるように、黄金の液体が並々と注がれている。色こそ違うもののエーテル流に似たそれは、人が素手で触るべきものではないと察せられる。


 大穴の下には更に広大な空間があり、本来ならばその下の階で龍は“竜門の根”を通じてエネルギーを補給するはずだ。


 しかし、それは金竜が他の龍とは一線を画した特別な龍であることの証明なのだろうか?


 黄金の鱗を持つドラゴンの姿で、金竜ドールは上階に鎮座していた。


 その身体は、二足歩行をするための造りをしている。飛ぶことは想定していないのか、翼は見受けられない。


 巨大な両足の膝近くまでが黄金の液体に浸されている。恐らく、そこから力を吸収しているんだ。


 がっしりとした胴体に、両足に比べればずっと小さい両腕。


 首から頭部に掛けてはあまり凹凸のないシルエットをしており、その身体を使っての戦いを得意としているようには見えない。


 金鎧兵(きんがいへい)を生成し、使役するのが主戦法……ということだろうか。だからこそ長い歴史の中で、金竜ドール本体は徹底して地下深くに身を潜め続けてきた。


 その臆病にも思える戦い方は、いよいよ炎竜ルノードという脅威が迫ったこの時においても、変わらない。


「――うぐっ」


 唐突に地面へと投げ出され、僕は受け身を取りながらも呻く。


「レイス。まずは君を解放しよう」顔を下に下げ、微動だにしないままのドラゴンから発せられた声。


 背後を見やると、僕を拘束し続けていた柱が空気に溶けるように消失するところだった。


 しかし右へと視線を向ければ、そこには依然として変わらず、拘束されたままのアシュリー君と大生さんの姿がある。


 金色の柱……というよりは十字架のようなそれが一本ずつ地面から生え、T字のポーズを取らされた二人が拘束されている。


 二人の口は金色の布によって塞がれているが、その瞳を見れば恐慌の色がないことは分かる。理性的な目で、僕を見ている。


 ――俺達のことは気にするな。必要があれば、見捨てろ。


 アシュリー君の感情が伝わってきた。だけど、そんなこと、僕は。


「……なぜ、僕だけを解放するんです?」


 鬱屈とした気持ちを抱えつつ、地面に手をついて起き上がる。黄金の液体だったり個体だったりするものがこの部屋には溢れているが、きっとこれこそが金竜の操る“創造する力(クラフトアークス)”なんだろう。


 部屋全体を薄い膜のように覆っている黄金の“創造する力”だけど、何故だか僕が手をつくと、それを避けるように金色の膜が引いた。


 そこだけ本来の色であろう、白い床が露わになっている。


 ――()()()()()()()


 僕だけを解放したこともそうだ。あの柱に、これ以上僕を拘束し続けることが難しかったから。それを僕たちに悟られないように、望んで拘束を解いたように見せかけている……?


 僕は自分のルーツを知らない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。レンドウと初めて戦って以降、何故この謎に満ちた“白い創造する力”が発現したのかも。


 しかし……副局長が、金竜ドールの命令によって僕をヴァリアーへと引き込み。その力を対ルノード戦への駒の一つとして利用しようとしているのであれば……。


 もしかすると、この力は龍にも通用するということなのだろうか……?


 そんなことがあり得るのだろうか。


 だけど、もし、それがあり得るなら。


 僕は今この瞬間、金竜に反旗を翻すこともできる……?


「薄々勘づいているだろうが。君たち三人を捕らえていたのは、君たちを盾にするためではない。炎竜ルノードは人質程度で止まりはしない故にな」


「……………………」


 ――いや、それはダメだ。理屈では通用するのかもしれないとしても。


「だが、レイス。君自身はどうだろうか。そこのアシュリーと大生を人質にすれば、君は私のために、炎竜ルノードに対して立ち向かってくれるのではないだろうか?」


 ――やっぱりそうだ。仲間を見捨てるなんてこと、僕にはできない。金竜はそれをよく理解している。


 人質がいる限り、僕は言いなりになるしかない。


 拳を強く握りしめる。睨むように視線を上げると、しかし金色のドラゴンは相も変わらず頭部を下げ、瞑目したままだった。その状態でも周囲の状況を把握できるということなんだろう。


 ……僕は、なんという思い違いをしていたんだ。


 こんなやつが局長だったなんて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……そうか、ようやくわかった気がする。副局長が時折見せたあの表情は。


 恐らくはあの人も、同じように大切な人を人質に取られて……。


「……ええ、その通りですね。僕が炎竜に負けた後も、その二人を盾として使ったりせず、即座に解放することを約束してくださるのであれば。……僕は、炎竜と戦いましょう。あなたの前に」


(うけたまわ)った。それは保証しよう」


 ――少しも信用できるとは思えなかった。


 頼りない口約束を交わし、竜門へと目を向ける。



 ――竜門をすり抜けるように炎竜ルノードが姿を現したのは、その数分後のことだった。



謎めいた白き魔人、レイスの抱える秘密が少し仄めかされています。


レンドウだけでなく、レイスもまた記憶喪失である……という情報は今回が初だしかな?

いや、作者も忘れてるだけで以前にも既に仄めかしたシーンがあったかもしれません。


1/21追記:あけましておめでとうございます。現在少々立て込んでいるため、次回更新は2月のどこかになると思います。

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