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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第12章 斜陽編 -炎天も嚇怒も撃ち堕とせ死星-
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第186話 再会


「――レンッ!!」


 感情が爆発することを止められなかったように、俺に飛びついてきた幼馴染。


「……クレア」


 約一年ぶりの再会に、俺だって何も感じないワケじゃなかった。


 でも、それを正面から抱きとめることはできない。そんなのは不誠実だと思ったから。


 彼女の両肩を掴んで、軽く持ち上げることで制する。


「髪、随分と伸びたな」


「……うん。さすがに、あの頃にはまだ及ばないけどね」


 聡明な彼女は、きっとそれだけで察してしまうのだ。


「身体はもう、なんともないんだな?」


「うん……レンの方こそ、大丈夫そうで安心した」


「あァ…………本当に…………良かった」


 俺の頬を伝う涙と、クレアの頬を伝う涙。


 その理由が違うことにも、勿論気づいていたけど。


 ――俺は、それに甘えることにした。


 お互いに、傷は浅いままの方がいいと思ったから……。



 朝日が昇り始めた頃、シュレラム聖堂の中は大量の人でごった返していた。


 世が世なら「そんなウイルス対策で大丈夫か?」と言っていたところだ。


 親父と、それを助けにきた親父の仲間たち。親父の弟……つまり俺の叔父にあたるディン。それから狩人のシララとジョルの夫婦。


 それら4人の手助けもあり、まだ体力の戻らない仲間たちを運ぶことは難しくなかった。


 中にはアニマに負ぶわれることに抵抗を覚えるものもいたが――隠さずに言うとジェットだ――、それにしたって生理的に嫌悪感を覚えている訳では無く、単にさっきまで敵だった者に対する警戒の範疇に留まるので、これからどうとでもなるだろう。


 俺達はもう、戦う必要が無くなったんだ。


 錚々(そうそう)たる面子じゃないか。


 ――世界の一端を担う存在である氷の龍、氷竜アイルバトス。


 彼が率いてきたという序列十位までの戦士隊は、ナージアを除いて相変わらず里の外周部に控えているそうだが、ここでの会話はアイルバトスさんを通じて彼らにも伝わるとのことだ。


 ――炎の龍、炎竜ルノードが生み出した謎多き種族、アニマ。その族長である≪グロニクル≫、シャラミド。


 長らく隠されていたが、俺の義理の父親の父である、つまり俺の祖父にあたるというジジイには、言いたいことが山ほどある。まず、一年前にヴァリアーに来た際にレイスと話しこんでいたのを隠していたっていうのがもう許せん。いや、これはどっちかというとレイスへの怒りになるか……。


 その他にも、直接の発言権こそ持たないものの、中心の人だかりを遠巻きに眺めてコソコソ話してやがる一般アニマどもが100人以上。


 若者たちの一部は、黒騎士ではないにせよルノードに従うべきだと考え、実際にアイルバトスさんに攻撃を仕掛けたらしい。


 まぁ、すげなく一蹴されたとのことだが……。


 俺とクレアの再会を見ていた彼らは、「レンドウがクレアを振ったぞ」等好き勝手にペチャクチャしてやがる。グチャグチャにしたくなるからやめてほしい。


 氷竜勢力に恭順の意を示したセリカは、早々に拘束を解かれ、ここへ向かう途中はヒルデの監視を担っていた。


 ヒルデはというと、未だにルノードが勝つと考えているらしく、しかしアイルバトスさんは「それも仕方ないだろう」と特に気にした様子もなかった。


 現在、隅の方の長椅子に腰かけて、「フンッ」と鼻を鳴らしている。


 両腕の拘束は解かれたが、隣に座るナージアの左足とヒルデの右足は、水色に光るロープのようなもので結ばれている。一応、逃げられないための措置だ。


 ――後は勿論、俺の仲間たち。


 魔王軍改め、【(セント)レムリア十字騎士団】の()魔王城警備隊、ジェット。


 かつてはアニマと共に暮らしていたが、現在は多少ギクシャクしている吸血鬼という種族。その一の戦士である、クラウディオ。


 人間界における指折りの武闘派貴族、本代(もとしろ)家のナンバーツー、本代ダクト。


 ルーツも謎で能力も謎、ゴキブリ並の生命力と名高い白き魔人、レイス。


 無統治王国アラロマフ・ドールの治安維持組織、【ヴァリアー】の研究班に所属する武闘派学者、アシュリー。


 アラロマフ・ドールの貧民街に隠れ住んでいた魔人たちのお姉さん役、でも今となっては形無しで俺にぞっこんで甘えたがりで何故か髪が真っ白になった、(せき)ウサギ耳のカーリー。


 そして、他ならぬ俺。


 気高く完璧で高潔で実力のあるレンドウ君……くくっ。最後にこれを口に出したのはいつだったか。


 久しく忘れちまってたよ。どうして以前は、実態以上に自分を大きな存在に見せようとしていたんだっけか。


「――レンドウ。おかえり」


 ……まァ、あんたを安心させようと思っていたというのも少しはあったはずだ。


 そう思いながら、俺は振り返って母親……サンドラの顔を見た。


「ただいま、かー……コホン。お袋」


 昔の呼び方をしかけて、慌てて訂正する。当然気づいただろうが、お袋はそこを突っついてきたりしない。俺を不快にさせないコツを心得た人だ。


「身体は大丈夫なのか?」


 お袋は生まれつき病弱だったらしい。アニマという種族柄、他人から定期的に緋翼を分けて貰えば命に係わるようなことにはならないとのことだったが……元気に走っているところは見たことが無い。


 今なら、なんとなくわかる。生まれつき濃い緋翼を纏っていたという俺をカイとサンドラの夫婦が養子に引き取ったのは……俺の影響を受けてサンドラの病状が良くなれば、という目論見もあったのだろう。


 いやどうでもいいけどな、別に。与えられた愛に報いられたかは怪しいもんだし。間違いなく俺の親だと仰げる両親のことは、助けられるもんなら今からでも、いくらでも助けてやりたいぜ。


「大丈夫よ。劫火様が復活されてから、この聖堂の竜門から溢れる緋翼の量が飛躍的に増えてね。ここで生活していたら、ずっと良くなったよ」


「なるほど……」


 敵になってしまったルノードだが、奴が目覚めるだけでお袋の体調が良くなったというなら、やはり奴は俺達にとって救世主にもなり得る存在だったんだ。


 残念ながら、現在では破滅に導く存在になってしまっているが……。


「それより、そっちの白い子がレンドウの彼女?」


 いきなりそこに話題を振るのか? というか、同じ空間にクレアもいるんだから多少は気を遣ってやってくれ……という言葉を飲み込み、素早く右後ろをチェック。


 カーリーが驚いた表情でこちらを見返してくるが……問題は、その更に後ろで興味深げな表情で俺達を見ているレイスがいることだ。


 お袋は楽しそうな表情をしているため、「俺が異種族と恋愛関係にあることは嫌じゃないのか」と喜び掛けるも、()()だけは確認しておくべきだろう。


「えーと、うん、まァ。……一応念のために言っておくけど、これ……じゃなくてこっちの娘ね」


 先にレイスを指さしてから、次にカーリーを指さす。


 レイスは「僕はこれ扱い?」というジト目を送ってきた。カーリーはお袋に向けてペコリと会釈。


 お袋はというと、「なんだそんなこと」とばかりに笑い飛ばした。


「ふふ、言われなくても分かってるわよ~。あなた、お名前は?」


「カ、カーリーです」


「カーリーさん、こっちにいらっしゃい。二人でお話ししましょう」


「は、はひ……」


 ――そりゃあ、緊張するよな。いきなりこんな展開になるとは思ってなかったし。


 お袋に連れられて壁際に歩いていくカーリーを見送っていると、「良かったね、レンドウ」とレイスが声を掛けてきた。


「あァ。いや、元々大らかな人だし、カーリーを紹介した瞬間張り手が飛んでくるようなことはないと思ってたけどな」


「でも、ちゃんと紹介するかどうかは悩んでたでしょ?」


「……仰る通りで」


 100人を超える人数が好き勝手にくっちゃべっている状況だが、ジジイもアイルバトスさんもそれを諫めようとはしない。


 二人で先に大体の話の段取りを決めて、それから全員に向けて発信するのだろう。もうしばらく時間がありそうだ。


「……カーリーさんとは、どこで出会ったの?」


 広間を見渡して“あいつ”の姿を探していると、左後ろから声を掛けられた。クレアだ。


 向こうでお袋とカーリーがしているような話を、俺にもさせようってか。


「エイリアの地下に、潜伏魔人……はぐれ魔人って言った方が分かり易いか? ヴァリアーの管理を逃れた魔人達が住んでる集落があって、そこでだな」


「ふぅん……」


 こいつ、失恋したばっかりでなんで自分の傷口を抉るようなマネを……。


「続けて?」


 続けなきゃいけないの!? 馴れ初めをってこと!?


 大体の状況を察しているであろうレイスも、やきもきした様子でこちらを見守っている。


 ――うん、もしもの時はこいつに助けを求めよう。


「えっと、ヴァリアーの連中に首輪を掛けられそうになっているカーリーと……その集落の人達が……その頃の俺自身と重なって見えてさ。無我夢中で、助けようとしたんだよな。そしたら、いつの間にか惚れられてたっぽい」


 ……そうだよ、その時に首輪を掛けようとしていた陰険茶髪メガネ、アルフレート。


 そいつの姿を探していたんだ。だけど、どうやらこの大広間にはいないらしい……?


「それじゃあ、レンがカーリーさんのことを好きになったのは?」


「え? あー……」


 これって本当に続けた方がいいやつなのか? とレイスに視線を向けてみるも、恐らくこいつも恋愛周りの経験値は最低レベルだろう。


 顎に手を当てて、目をつぶっている。つかえねー!


「……頼りにされてたけど、それだけじゃなくて。お互いに助け合ってるうちに、いつしか……的な? お互い故郷を離れて、心細くなってたのはあると思う」


「それは依存とは違うの?」


 ある種の、切り口を見つけたとでも言うかのように。感情を感じさせない口調で呟いた幼馴染の顔を見れば、彼女は俯いていた。


 もしかして、俺とカーリーを別れさせる手段を模索してたのか?


 あんまりそういうの、良くないと思うぞ。


「……もうやめようぜ。お前を嫌いになりたくない」


「ッ! ……ごめん、もうやめる」


 俺とクレア、それにゲイル。3人の間には雲一つないと信じていたが、長い人生、こういうこともあるものか。


 それでもやっぱり、険悪にはなりたくないな。


「いや、いいけど……直接の嫌がらせさえしないでくれれば…………」


 最低限、この予防線だけは張らせてくれ。そういう疑いを向けられること自体、お前を傷つける行為だと分かっていても。言わずにはいられなかった。


 そのラインさえ侵さないでくれれば、きっと俺達は元の関係に戻れずはずだから。


 確かに、状況が違えば俺達は両想いにはならなかっただろう。カーリーだけの片想いで終わった可能性もある。


 けど、そんなことを考えても意味が無いだろう。人生をやり直すことはできないんだからさ。


「……………………」


「……………………」


 沈黙に耐えかねて、今一度レイスの方を見る。視線を感じてか目を開けたレイスは、後ろ頭に手を当てて「あ~……」と言った。


 そこまで言ったならちゃんと続けろよ。


「シンクレアさん、僕のことは覚えてる? ヴァリアーのレイスって言うんだけど」


 クレアは果たして、小さく頷いた。


「覚えてる。私の緋翼が通用しなかった、どんな傷でもたちまち修復する……ゴキブリみたいな生命力の魔人」


「ゴキブッ……! えほっ、けほっ」


 ゲホゲホせき込んだレイスを尻目に、俺は手を叩いて爆笑した。周囲のアニマがなんだなんだとこちらを見るので、すぐに声量は抑えたが。


「やっぱどこの誰でもレイスの回復力を見れば、“ゴキブリ並の生命力”って表現せずにはいられないんだな!」


「けほっ! やめてよっ!」


 憤慨するレイスは放っておくとして、俺達のやり取りを聴いたクレアが、「――ふふっ」と小さく笑ってくれたことが重要だ。


 ――悪ィなレイス、この戦いが終わったら、いくらでも奢ってやるから。


 今はこの場の空気が悪くならないように、精一杯いじられてくれ。



本当に、処理しきれないくせに大量のキャラを一度に登場させるのが好きだな~、作者。

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