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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第12章 斜陽編 -炎天も嚇怒も撃ち堕とせ死星-
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第183話 戦いと言うには


 突如として飛来した轟炎の塊により、身体の前面をズタズタにされつつも……私の心は冷え切っていた。


 氷と化した両腕でそれを挟み込むことで勢いを殺し、右足で蹴り上げる。


 いとも簡単に上空へと打ち上げられたそれは、衝撃により思うままに行動できない様子で。


 だが、ここで私は気づき、自らを叱咤した。


 油断も失望もしている暇はない。


 ――この相手は、炎竜ルノードではない!


 炎竜ルノードがここまで弱いはずがない。


 腹を裂かれ、内臓が露出した状態でこんなことを考えるのも滑稽な話ではあるが。


 だが、この程度の傷など造作もない。すぐに“創造する力(クラフトアークス)”を集めて身体の傷を癒す。


 それと並行して、氷のつぶてを20個ほど生成し、空中の相手へと一斉に発射する。


 標的を取り囲むように生成されたそれに、逃げ場はない。


 全てが命中し、撃ち落とされた鳥のように落下する人物は無視して、続いて上空へと光弾を発射する。


 簡素な魔術だが、結界によりパスを無効化されている以上、これが最適な通信手段となる。


 音を立てて夜空に輝くは、赤い光と、緑の光の2種類。


 戦闘を開始したことを表す赤と、作戦に変更はないことを伝える緑。


 ラ・アニマの周辺に控えさせた戦士隊の力添えは必要無い。


 今目の前に落下し、立ち上がることもできないこの人物こそが、この周囲に感じられる中で最も力を持った相手なのだから。


「炎竜ルノード……劫火は、ここにはいないようだね。 君、話はできるかい?」


 全身からしゅうしゅうと蒸気を立ち上らせた人物。


 碌に身動きも取れないまま地面に叩きつけられた人物は、どうやら竜の姿をしていたらしい。


 だが、竜人という訳では無いな。


 地面に落下した衝撃で右腕と両足が骨折したのか、うつ伏せの状態から首だけでこちらを見上げたその顔は、既に竜のものではなくなっていた。


 体格のいい、アニマの老人だ。多くの皺と傷が刻まれながらも、短く揃えられた髪は黒々としている。


 古傷によるものか、左の眉には殆ど毛が生えてこないらしい。


 竜の全身から紙が燃え散るように力が拡散し、そこに残ったのは一人のアニマとなった。


「……ええ。こうして敗北した以上、私の役目は全て終わりました。何なりと」


 酷く疲れたような、しわがれた声だった。


 敗北とは言うが、正直なところ戦いになっていたとは言い難い。


 が、それを相手に伝えるのも野暮というものだろう。


「まずは名前を聞かせてほしい。私は氷竜の長、アイルバトスだ」


「……私は、ラ・アニマの≪グロニクル≫、シャラミドと申します」


 グロニクルというと、アニマの族長に与えられる称号だったか。


 ということは……。


「レンドウ君の祖父、か」


 命を奪わずに済んで良かった。


 私の口から孫の名前が出たことに小さく肩を揺らしたものの、シャラミド殿は何も言わなかった。敗者としての立場を鑑みたのかもしれない。


「この場には望んで私に立ち向かった者たちもいたように感じたが……あなたはどうにもそうでは無かったように見受けられる」


 周囲で気絶しているアニマ達を眺めつつ言うと、シャラミド殿は頷いた。


「はい。この場に伏している者たちは劫火様の直属……黒騎士ではありませんが、今の情勢を鑑みて、劫火様に従うべきだと考えた者たちです」


 若者が多い……というより、若者しかいないように見える集団だったが、基本的にアニマの外見年齢が若いだけなのだろうか。


「劫火様は……黒騎士を率い、既にアラロマフ・ドールへ向けて出立しました。里に残る全ての者に……これよりこの場所に訪れる、氷竜という種族たちと戦うように命じて」


「なんだって……?」


 なぜルノードは、()()()ラ・アニマを襲撃することを知っていた?


 内通者……がいるとは思えない。とすれば、別動隊が拘束・尋問されたと考えるべきか。


 レンドウ君らは現在、捕虜になっているのか?


「私は……戦いを望まない者には、この戦争に参加しないことを許してもらえないかと……嘆願しました。その結果……この力を与えられ……」


「なるほど。他の者の分まで働いてみせろと、ルノードはあなたに……一時的に竜化するだけの力を与えたのだな」


「……はい」


 突如として膨大な力を与えられ――否、押し付けられ――シャラミド殿は生まれて初めて竜化を果たした。


 その力に慣れていなかったことも、私に対して何もできなかった理由の一つだろう。


「それで、全力を持って戦い、私に敗北した今。あなたはこれからどうしようというのかな」


 私の問いに、シャラミド殿は眼光を鋭くした。


「私は誓いを果たしました。これより生存を許されるのならば、是非とも孫に力添えをしたく」


 仮に私が今から彼を殺すとでも言えば、死力を尽くしてでも起き上がろうとするのだろう。


 私は彼を安心させようと、笑みを浮かべた。


「あなたが(くだ)ってくれるというなら有難い。あなたの言葉なら、アニマの民も従ってくれるでしょう」


「……感謝いたします……」


 そう言うと、緊張の糸が切れたのか、シャラミド殿は意識を失って倒れ伏した。


 ここまでは気合いで持たせていたのか。凄まじいな。


 孫に力添えをするということは、すなわち私に協力すると口にしたことと同義だ。


 ルノードに対しての明確な裏切りともとれる行為だが……。


 氷竜アイルバトスが炎竜ルノードを殺してくれれば問題ない。そういうことだろうか。


 先程の、戦いにもなっていなかった戦いのおかげで私を認めてくれたというなら僥倖と言える。



「――さて」



 これからどうするべきか。


 当然、アラロマフ・ドールへ向かったというルノードを追わなくてはならない。


 だが、奴も4日を待たずに攻撃を開始するつもりではあるまい。


 まだ3日……いや、2日の猶予がある。


 半年前のルヴェリス様との件に続いて今回もまた約束を違えるほど、彼が誇りの無い龍だとは思わない。


 そもそも半年前は、彼自身が冷静さを欠いてしまったことが原因だろう。現在の彼は落ち着いているはずだ。いや、詳しい人柄は知らないが。


 それに、アラロマフ・ドールを支配する金竜ドールとやらも、まさか何の策も用意していないはずがないだろう。


 昨日、アンリ達を降ろす際に遠目にしただけだが、あのエイリアという古代の遺物が立ち並ぶ街は、そう簡単に落ちることはないはずだ。


 差し当たってはラ・アニマ全体の掌握が必要か。


 これに関してはシャラミド殿が協力を約束してくれた。が、その彼は現在意識を失っている。


 ならば、まだ周囲の民家の扉を解放するべきではないのだろう。住人との邂逅は、いたずらに混乱を招くことに繋がりかねない。


 ルノード達が、捕虜を連れた状態でアラロマフ・ドールへ向かったとは考えにくい。


 とすれば、レンドウ君らが既に敗北していたとして、この周辺のどこかに拘束されている可能性は高いだろう。


 まずは彼らを救出するべきか。


 だが、そのためにはルノードの張り巡らせた結界が邪魔になる。


 これさえ無ければ、私はレンドウ君に念話を送れるはずなのだから。


「この結界を破壊するべきなのだろうな」


 例え、この結界が長らくこの里を護ってきた防護壁を兼ねていようとも。


 私の目的のためには、破壊せねばなるまい。


 恐らくは結界の核が隠されているであろう、シュレラム聖堂へと歩みを進めつつ。


 ――住む場所に困ったアニマらは、私たち氷竜で受け入れてやればいいだけのことだろう。


 新たにルーツの異なる者と共同生活を送ることになるのも、苦ばかりではないのだから。


 自分にそう考えさせる継起となった、吸血鬼たちへと感謝の念を抱く。


 ――ヴィクター、新たな同居人(アニマ)たちを楽しみにしておけよ。



アイルバトスの視点が続くと、作品のテイストが「俺TUEEE」になりますね。

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