間章 燐火のダイモス
◆レヴァン◆
まさか、劫火様がこいつらを殺さない選択を取るとは……。
レンドウらは硬くない雪に受け止められ、劫火様の放つ熱風によりその雪も消え失せた。
確実に凍死するとも、しないとも言えない状態だ。
あとは運次第だろう。
……何の苦労も知らずに生きてきた、裏切りの王子めが。
苛立ちを込めて倒れ伏したレンドウを睨むも、当然返答などある筈もなく。
怒りを発散する手段が無いまま、人の姿となった後にこの場を後にしようとしている劫火様に追従する。
そして、背後に続くのは仲間たち。
劫火様はレンドウらを気絶させた後、配下たちに力を分け与えて強制的に覚醒させると、「早々にラ・アニマに戻る」と短く宣言した。
今戦ったのがレンドウらの全戦力であるはずがない。
この場は捨て置き、本陣がここに到着するより前に出立し、3月4日以前からアラロマフ・ドール内に潜伏するべきだと。そう申された。
わたしを含め、それに異を唱える者はいない。劫火様のお考えは絶対だ。
いや、仲間たちの中にはあるいは……。
……よしておこう。この手の思考は碌な結果を生まない。
だが、レンドウを恨んでいるわたしでなくとも、奴らを見逃す理由を上げることの方が難しいのではないか。
ここで止めを刺して置かなければ、こいつらはまた邪魔立てしてくるのではないか。
劫火様の御姿を文字通り目に、身体に焼き付けさせ、奴らを滅することができれば、と考えていた。
――パスを通してこの目に映る全て、ありのままを劫火様に伝え続けたのは失敗だった。
奴らの甘い戦い方を見て、それに応じるように劫火様もまた、奴らの命を奪わないことを選択なされたというのなら。
劫火様が、奴らごときに絆され、大局を見誤るとは思わない。
だが、しかし……。
一抹以上の不安を覚え、わたしは劫火様の背中を見つめた。
【第11章】 了
燐火とは、墓場などでイメージされる青い炎のことです。
ダイモスは、火星の第二衛星ですね。