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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第11章 斜陽編 -暗闇も絶望も照らし焦がせ恒星-
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第179話 連戦に次ぐ連戦を


「……………………ルノー、ド…………?」


 ――いや、違う。はずだ。


 逆光になって黒く染まったその竜は、小さい。いや、俺と比べればデカいんだが。


 ルノードが竜の姿となった場合、確実にアイルバトスさんと同じか、それ以上のサイズになるだろう。


 それに比べれば、眼前の竜のスケールは小さい。ナージアと同じくらいだろうか。


 ……だが、解せない。何者なんだ。


 俺をじっと見つめ続けているのだろう宙に浮かぶそれは、まず間違いなく味方では無いはずだ。


 アニマなのだろうか?


 だとすれば、アニマの中にも竜の姿になれる者がいるということになる。


 それは余程高位の緋翼を持ち合わせているということになり……里の中で、最も力を持った個体と言えば。


「まさか、ジジイじゃねェよな……?」


 真っ先に思い浮かぶのはそれだ。アニマの族長、シャラミド。だが、それなら戦いは避けられるはずなんだ。


 少なくとも、この場に親父さえいてくれれば。俺の価値を説明し、共にルノードと戦って欲しいと説得を試みることが出来る。いや、親父が居なくても、俺が自力で説得をすればいいのか。


 しかし、その竜がジジイではないことはすぐに明らかになった。


「――――状況は?」


 竜から、中性的な響きの声が発せられたからだ。なんとなく、男だろうなと感じた。


 そしてその内容は、どうやら俺に向けたものではないようで。


「――――ッ!?」


 首の後ろを刺されたような感覚を覚え、左足を引いて半身の構えを取る。視界の隅に竜を入れたまま、森の方向を見れば。


 ――ビリビリくるな。


 周囲の森から強烈な気配を放つ人影が二つ、姿を現した。


「シャラミド派閥の連中が独自に動いてるっぽいね。カイが伝令の能力を使ったせいで、この場に数人が向かってる。まぁ、セリカとヒルデだけでもなんとかなるレベルだろうけど」


 気怠げな男の声。


 身体に吸い付くようなボディスーツを纏い、脚や腰に巻いたベルトに幾つもの短剣をぶら下げている。


 黒仮面が、妙に前方に突き出した形をしているな。イヌ科の生物を模したものなのかもしれない。


 俺が言うのもなんだが、ちゃんと飯食ってるのか? と言いたくなるほどのやせ型だ。大きめの黒仮面を少し上に上げるように着用しているのか、そのせいでダークグリーンの髪が押されて逆立っている。


「あとは、王子様の仲間たちもここに向かってるわね。でも、そっちは他の皆に任せちゃう。ふふっ、王子様の緋翼を食べれば、私はもっと強くなれるかしら……?」


 次に、歓喜に打ち震えるような女の声。


 暗褐色のマントを着用した、長髪すぎる女。


 緋翼を通しているのか、地面に触れるほどの長さのはずのその赤みがかった髪の毛が鎌首をもたげるようにうねり、汚れることを嫌うように持ち上がっている。


 見たところ、武器の類は身に着けていないように見えるが……徒手空拳を得意としているのか。例によって、黒仮面によって表情は分からない。


 衝撃と共に、大岩の隣に竜が着地した。赤い鱗を持った竜だ。その背から何者かが飛び降りるまで、俺はその人物の存在に気づけていなかった。


 ――黒仮面を付けていない。壊れたからだろう。そいつはロウラだった。腰に帯びているのはフーゴの双剣か。得意としている鎖の代わりは、用意する時間が無かったのか。


 それよりも、なんで。どうやってここに。シャパソ島にいたはずなのに。そう簡単に人間の船に紛れ込めるとも思えないが……そうか。


 その竜に乗って飛ぶことで、海を渡ったんだな。


 ならその竜の中身、いや、正体は。


「お前、青髪のアニマ…………だな?」


 以前から俺と同等の……もしかすると、同等以上の緋翼を持っていた青髪。あいつがルノードから更なる力を受け取ったと考えれば、この竜の出現にも納得できる。


「ふふ。そんなことを気にしてる余裕があるのかしら」


 長髪過ぎる女が俺を煽るように言葉を放ちつつ、右手を頭の横にかざした。髪の毛の一部が束を作ってそちらに流れ、手の中へと納まる。


 女はそれをブチブチと引き抜いた。かと思うと、たちまちそれが形を変え、槍の形を取った……?


 あれは槍なのか。緋翼によって造られた、漆黒の武器。長い柄は槍の特徴ではあるが、まるでその途中から剣に移り変わったかのような。


 まるで十字の形を取るように左右へと短剣のような棘が伸び、上方へは長剣が伸びている。剣槍(けんそう)とでも呼べばいいのだろうか。


 それが金属の武器であれば、常人であればとても持ち上げられるようなスケールの武器ではない。だが、緋翼で造られた武器だからこそ、驚くべき軽さを実現できているのだろう。


 問題はその強度だ。何の武器も芯にせず緋翼だけを固めた状態では、武器としてはそれほど強くないというのが俺の認識だった。


 だが、彼女自身の髪の毛を芯に使い、それを自信に満ち溢れた様子で振りかざされれば……油断なんて、出来る筈がなかった。


「――さあ、力比べといきましょうか」


挿絵(By みてみん)


 長髪の女が振り下ろした剣槍をギリギリで左に躱し、右足で刃の手前を踏みつける。


 右手でレンディアナを振り払うと、女は意外にも即座に剣槍を手放し、後ろへ跳躍した。かと思うと再び髪の毛を引きちぎり、右手の内に剣槍を生成しやがった。


 踏みつけている剣槍を左手で掴み、吸収を試みるが……非常に遅々として進まない。出来ない訳ではないが、かなりの強度だ。戦闘中に奪える程度のものじゃない。


 すぐに身体を起こし……たところに剣槍で突き込まれる。身体を仰け反らせるも、右の横髪が少し持っていかれた。


 左にステップして距離を取る。女は距離を詰めずに伸ばした腕を振り回す。剣槍の先端が俺の首に迫る。


 レンディアナを逆手に持ち、根元から剣槍の先端を……思い切りブチ当てる!


 剣槍の先端が砕け、飛び散った緋翼が俺の中へと入る。左手を女の顔に向け緋翼を吹き付けるが、女の足元から漆黒の壁がせり上がるように生えてきて、防がれてしまう。


 ルヴェリスとルノードの決闘を思い出す光景だった。


 ――離れた場所に緋翼を生成できるタイプの相手だ!


 緋翼を扱う際の器用な動きに関しては、間違いなく俺より上なんだ。いや、黒騎士というのはどいつもこいつも俺より上の部分を持っていると考えた方がいい。


 そこまで考えられたが故に、ギリギリで反応できた。右側より飛来した剣槍に。


「んがぁッ!!」


 手放した剣槍をいつまでも消さない理由は、それを遠隔操作して俺に差し向ける為だったんだ。


 フーゴとの戦いで、直剣を浮かべるあの戦術を見ていなければ、きっと反応できなかっただろう。


 剣槍をレンディアナで弾き、だが地面には落とさない。身体ごと回転し、左手で剣槍を掴み取る。それに左手を起点に緋翼を発生させ、剣槍を包み込むことをイメージする。


 俺が掴んでいれば、さすがに操作はできないだろ。


 せっかくの高強度の武器なんだ。有効に利用させてもらうぜ……!


「凄いわね、王子様。じゃあ、これならどうかしら?」


 女が左手を閃かせた。後ろ髪が腰あたりでバッサリと斬られたかと思うと、そこから6本もの剣槍が生成され、その全てが先端を俺に向けた。


 ぎっ……なんだそりゃ。髪の毛を確かに消費して行っている技な以上、無限に使用することは出来ないはずだが……しかし、強力すぎる技だ。


 まず右手に向かってきた1本目を弾いた。次に、頭部を狙った2本目を弾いた。だが、それ以降はほぼ同時に放たれていた。


 右足に、左足に、左肩に、腹に剣槍が突き立った。左手に持っていた、奪い取った剣槍が地面に落ちる。


「ガッ……ブッ……ゴバッ……………………!!」


 それぞれの根元から緋翼が線のように伸び、地面に突き立つ。俺を逃がさないつもりか。


「グ……がッ…………!!」


 意味のある言葉が口から出てこない。だが、このまま終わるものか。


「――うふ、あははははははははははっ!!」


 女は哄笑し、左手を俺に向けた。俺の身体が自己修復機能として発生させている緋翼。しゅうしゅうと音を立てるそれが、女の方へ流れていく。


 掠め取られているのか……!!


「これで、私はもっと強くなれる……。うふ、ふふっ」


 喜んでるところ悪ィけど、今のお前は隙だらけだぜ。


 ――お前たちにできることは……できると証明されたことは。


 俺だって、力押しで実現してやる!!


 俺の足元に落ちていた剣槍と……それに通しかけていた緋翼に働きかけ、「あいつの腹を貫け」と命じた。


 剣槍がその切っ先を女へと向け、見事にその腹部を貫いた。


「ご……はっ……………………」


 何が起きたか理解できていない訳ではないだろう。女は即座に己の腹に突き立った剣槍を引き抜こうと両手を伸ばした。


 今、この機を逃す訳にはいかない。


「ガァァァァアアァァァァァァアアァァァァアアアアァァァァアアアアアアアアアア――――」


 全身の傷跡から勢いよく緋翼が噴出する。肉体を修復する勢いが、刺さっていた剣槍を押し出す。


「――アアアアアアアアァァアアアアアアアアアア!!」


 痛い。痛すぎる。噴出した緋翼の一部を燃焼させ、炎を発生させる。それが周囲の雪を急速に溶かし、また踊り狂い、やせ型の男とロウラが顔を覆った。竜は拘泥した様子を見せず、俺のことをじっと見ている。


 周りは良く見えている。見えてはいるが、一斉に襲い掛かられた場合に対処できる気は、正直しない。何故こいつらはそうしないのか。分からないが、できない理由があるなら何でもいい。


 俺の身体から抜けた剣槍にも働きかけ、周囲に浮かべる。今この場を切り抜けられるなら、全ての緋翼残量を使い切る勢いで使ってやる。


 雪の解け切った地面を蹴りつけ、身体ごと回転し、右足で女の首に回し蹴りを入れる。女は意識を失い、その場に頽れる。


 だが、着地が良くなかった。微妙に解けた雪に足を取られ、転びそうになる。咄嗟に浮かべていた剣槍の一つを掴み、地面に突き刺すことで態勢を保とうとする。


 その剣槍が弾き飛ばされ、支えを失った俺は無様に転倒する。やせ型の男の仕業か!


「ヒュウッ、やるねー王子。アミカゼを倒すなんて。じゃあ、次は僕の番かな?」


挿絵(By みてみん)


 腰や足のベルトに大量に吊り下げたうちの短剣を1本抜くと、男は俺に向けてそれを投げ飛ばした。


「僕は黒騎士のサイバ」


 顔を狙っている。眼前に緋翼の壁を生成すると、短剣がそれにずぶりと埋まり、眉間スレスレまで刃が迫っていた。


「――短い付き合いになるかもしれないけど、よろしくね」


 あっぶねェ……!! ギリギリのところで止まってくれた。


 俺が寝っ転がっている現状なら、逆に浮かべている5本の剣槍を好き勝手に動かせる。


「うっ……ぜェぞ!!」


 狂った方位磁石のように荒ぶる回転を見せた剣槍が、サイバという名前らしい男の脚や脇腹を複数箇所斬り裂いた。


「うぉっ……ハンパないね!」


 背中を地面に着け、肩甲骨から緋翼を噴出させることで、その勢いで体勢を起こす。勢いあまって前のめりに倒れそうにすらなるが、左手に剣槍を握って地面に突き刺すことで耐え、右手のレンディアナをサイバに向けて突き出す!


 左手で大腿部の短剣を抜きながらレンディアナを弾いたサイバ。未だ塞がり切らない全身の傷口周りで蠢いている緋翼を再び炎に変え、サイバの目を眩ませる。


「ちっ――」


「死んどけェ!!」


 そう叫びつつも、殺す気は毛頭ない。サイバの右腰を通り抜けたレンディアナ。腸あたりを傷つけただろうか。死ぬほど痛ェだろうけど、死にはしないだろ。


 意識は奪えなかったが、サイバは前のめりに倒れ、地面に手をついた。


「つよっ……い、ほんとに凄いね、王子……」


 本心から漏れたのであろうその賞賛の言葉に、浮かれる暇なんて無かった。


 背後より迫っていた直剣を左手の剣槍を後ろに回すことで受け、振り返りながら右足で蹴りを放つ。


 それをもう一本の直剣で受け止めて後ろに弾き飛ばされた彼女は、鋭い呼気を放ちつつ、背後に緋翼を放った。


 ロウラ。またお前と戦うことになるとはな。


 翼……じゃない、随分と長く伸ばして……どこに向けているんだ? そこには何も……地面すらないじゃないか。断崖があるだけだ。


 と考えたのも束の間、ロウラの身体が一瞬、ぐんと後ろの断崖に向けて引っ張られかけた。即座にロウラは反応し、勢いよく前屈みになった。同時に緋翼を収縮させ、回収している。


 その終端が見えた時には、空中に新たな人物が出現していた。


 ――ロウラの奴、崖下から仲間を吊り上げやがったのか……!!


 大柄な男だろうか。得物を持たない様子の人物が、空中で俺を見据えたようだと感じた次の瞬間には、漆黒のベールに包まれる。


 最初に親父に向けて体当たりをした攻撃……あの時の奴か!


 じゃあ、親父は……やられちまったってのか? くそったれ。


 足場の無い空中からだが、突如として強大な推進力を得た緋翼の塊野郎。恐らく、俺と同じように背中側から緋翼を噴かすことでその勢いを生み出しているのだろう。


 大柄な男が全身で生み出した大質量の一撃を、右腕をくの字に曲げて顔の左側を覆うような恰好で受け止める。本能から顔を覆おうとしたせいで、かなり不格好な体勢になってしまった。


 残りの剣槍の全てで迎撃した方が良かった。そう後悔したのは、吹き飛ばされて2回転してからだった。雪の中に岩が混じっていたのか、それに鼻を打ってしまったらしい。ぼたぼたと鼻血が流れる感触気持ち悪い。


 浮かべていた剣槍たちの内、半分が露わになった地面の上に、もう半分が雪の上に落ちた。浮かべ続けるのも……そろそろ限界か。


 ――何手、捌いた?


 間違いなく全力だし、やろうと思った動き、緋翼の操作も出来ている。滅茶苦茶よくやれてる方だろう。


 それでも、体力の限界が近いことが分かる。相手の物量が圧倒的すぎる。


 早くしないと、倒した相手すら復活してしまう可能性すらある。後方で控えているあの竜なら、仲間たちの治癒もお手の物なんじゃないのか。


 絶望の足音が聞こえ始めた頃、俺に向けて再度突進を仕掛けようとしていた大男の足が……止まった。


 来てくれたのか。やっと、というのは失礼だろう。勝手に森の深くまで足を踏み入れたのは、他ならぬ俺なのだから。


「――遅くなって悪かったな。よく耐えた」


 俺の右肩に手を置いたのは、クラウディオだった。


「反撃開始と行こォぜェ」


 左側から進み出たのは、左手を巨大な針に変化させたジェット。彼は右手で落ちていた剣槍の1本を拾い上げると、だしぬけに前方に向けて投擲した。


 丁度、新たに崖をよじ登ってきた敵がいたんだ。それに見事に命中し、叩き落したジェット。現れるや否や、即座に戦果をあげやがって。


「…………助かる」


 思わず、口元に笑みを浮かべてしまう。


 かつて俺を大苦戦させただけはある。……頼りにしてるぜ、このカニ野郎。


 血反吐を吐きながら、膝をついて起き上がる。


 …………丁度親父が崖を昇ってきたところを、ジェットが敵だと勘違いして撃墜してたら最悪だったよな、と少しだけ思った。



過去最高に相手が入れ替わり立ち代わりする戦闘シーンとなりました。

でも、多分すぐにまた記録更新することになります。なんたって総力戦、最終編ですからね。


2020.10.30追記:しばらく原神というゲームに専念するため、更新が止まります。ご了承ください。

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