9話:騎士って大変だね
わたしはネイド先生とまた休憩する。暇になってしまったな。そんな風に思っていたら顔に出てしまったのだろうか。ネイド先生がわたしを見て言う。
「エシリア様、すみません。私がもっと魔法に詳しければ教えることもまだありましたのに。私は魔力の操作や光属性魔法のことしか知りませんから」
そんなこと気にしてないよ! 魔法に長けている騎士の人なんてあまりいないし。……何人かはいると思うけど。
「大丈夫ですよ。魔法の使い方が分かりましたし、それに一箇所に魔力を集めるなど、とても良いことを教えてもらいました」
わたしがそう言うとネイド先生は、ほっと息を吐く。
「ならいいんですけど。普通の人は一日で魔法を使いこなすなんてことは滅多にできません。エシリア様はやはり才能がありますね」
「ありがとうございます! そこでネイド先生、一つお願いがあるんです」
わたしはネイド先生の目をしっかり見つめる。
「お願いですか?」
わたしの言葉にネイド先生は疑問な顔を浮かべる。
「剣の扱い方を教えて欲しいんです!」
魔力がなくなったときに短剣でも隠し持っていればいざというときに身を守れるからね。あと魔法ばっか使ってたら魔力量がバレちゃうし。
「剣の扱い方? 女性は普通、剣なんて扱いませんよ。女性の騎士や冒険者の人は扱いますけど、エシリア様みたいな貴族のご令嬢は冒険者なんかになりませんし、魔法も普通に使えるので騎士になることもないでしょう」
そうなんだけども、前世は魔法しか扱って来なかったし魔法だけでなく剣も使えるようになっておきたい。なんとかして説得させないと。
「そうですけど……。でも扱えてダメということはないでしょう。魔法を使ってて敵に接近されたら終わりです。そこで剣を持つことによって良い対応ができるはずです! ネイド先生お願いします!」
「まあ、太ももに短剣を隠している魔術師の人もいますしね。……いいでしょう。そしたらエシリア様にはまだ普通の剣は重いですから短剣を扱う練習をしましょう」
やった! 上手く説得できた。
「エシリア様、今日は私、剣を持ってきてないんです。エシリア様の家にある剣を貸してくれませんか?」
そうだった。ネイド先生は今日魔法を教えに来たんだった。
「わかりました。待っててください」
「エシリア様はここでお待ちください。私が取りに行ってまいります」
わたしが取りに行こうとするとサーラに素早く対応された。できるメイドはすごいね。わたしが動く前に対応してくれるなんて。
「ありがとうサーラ。じゃあお願いするね」
「かしこまりました」
サーラはすぐに戻ってきた。手に剣や短剣などを抱えている。わたしはサーラから短剣を受け取る。
意外と大きい。大人が持つと小さく見えるのに子供が持つと大きく感じる。
ネイド先生もわたしに合わせて短剣を手に持つ。
「まず持ち方ですかね。短剣は基本こういう持ち方をしますが、逆手で持つときもあります。そのときに応じた持ち方をしましょう」
ネイド先生は順手で持ったり、逆手で持ったりとする。なるほど。そのときに応じて持ち方を変えるんだね。
「わかりました。こんな感じでいいですか?」
わたしはネイド先生と同じように待ちかえたりしながた見せる。
「えぇ、問題ありません。次は素振りです」
「はい!」
わたしは何回も振り下ろしたり突いたりとする。なんか今のわたしってカッコイイ気がする。そんなことを思っているとネイド先生がくすくすと笑いだす。
あれ? どうしたんだろ。何かおかしなことをしたかな?
「ネイド先生! 何かおかしな部分がありましたか?」
「ふふ、エシリア様を見ていたら、ただ適当に振り回しているようにしか見えなくて、とても可愛らしかったですよ」
その言葉にわたしはむっと口をとがらす。
な、なによー! こっちは真剣でやってんのに! こんなカッコイイ4歳児はどこに行ってもいないはずだよ!
「なんですかそれは!? どうしたら上手くなるのか教えてくださいよ!」
「すみません。エシリア様、もっと腰を落とすことが重要ですよ」
なるほど。確かにさっきのわたしは突っ立って短剣を振っていた。これじゃ本当に子供が振り回しているようにしか見えないね。まあ、子供が振り回しているんだけど。
「腰を落とすんですね。わかりました! はっ! やぁっやぁっ!」
わたしは腰を落とし掛け声も合わせて突く。いいねいいね! 魔法も便利でいいけど剣を扱うのも思いのほかわたしは好きだな。
「エシリア様いいですね! 見た限りでは結構、さまになってますよ」
ふふん、わたしってやっぱり才能あるんだね。
でもなんだか疲れてきた。結構短剣を降るだけで体力が消耗される。剣を軽量化したいけど、魔法を使えたばっかでそんなことするとすごく怪しいよね……。やめとこう。
「剣を扱うのも意外と大変でしょう。騎士は体を鍛えなきゃいけないんですよ」
確かにもっと鍛えなきゃいけないな。このまま大人になっても、うまく扱えなさそうだ。
「騎士ってすごいんですね。魔術師と違って鍛えたら結果がしっかり分かりますね」
「エシリア様はいいこと言いますね! あんな魔術師なんかより騎士はすごいんですよ! 魔術師さえいなければ……」
あ、あれ……? なんかネイド先生の性格変わってない? それとあんな魔術師なんかとか言ってなかった?
「……ネイド先生、魔術師と騎士ってもしかして仲が悪かったりします?」
「もしかしなくとも私が生まれる前から魔術師と騎士は仲が悪いですよ。でも何人かはなんとも思ってない人もいますけどね」
そ、そうなんだ……。前世は協力し合ってた関係だったのに。これも時代の変化ですか……。いざという時は協力しなきゃいけなくなるのに。こんな状態で本当に大丈夫!?
「仲良くしようと思わないんですか?」
「無理ですね。魔術師は騎士を下に見ていますので。まあ騎士も魔術師を下に見てますが」
わたしはネイド先生の言葉に顔を引き攣らせる。こりゃダメだ。どうしようもないね。
「そ、そうですか……。じゃあネイド先生は魔術師になるかもしれないわたしのことは嫌いですか?」
「そんなことありません。エシリア様は騎士を見下してるようなことはしてませんし、剣も扱いたいと仰ってくれました。そんなエシリア様を嫌いになるはずがありませんよ」
よかった。嫌われてたらどうしようかと思ったよ。
「ありがとうございます。わたしもネイド先生のこと好きです!」
わたしは満面の笑みで言う。そんなネイド先生は顔が何故か赤い。どうしたんだろ?
「ネイド先生、顔が赤いで……」
「も、もう結構な時間が経ちましたし、今日は終わりにしましょう」
ネイド先生の言葉にわたしは空を見る。確かに空が赤くなりかけている。顔が赤く見えたのは夕日のせいか。
「そうですね。終わりにしちゃいましょうか。次はいつ来るんですか?」
わたしの言葉にネイド先生は目を見開く。
「魔法はもうあまり教えることはないですけど、また来てもいいんですか?」
「もちろんいいですよ。魔法もどのくらい成長したか見てもらいたいですし、それに剣も少しは扱えるようにしておきたいので!」
逆に駄目な理由が見つからないよ。とても優しくていい先生だったもん。
「分かりました。エシリア様に認めてもらえて私は嬉しいです。ルイス様には私から言っておきます。えーと次はですね……。確か来週の水の日がお休みだったはずです。その日にしましょうか?」
水の日か。一週間は闇の日、火の日、水の日、風の日 地の日、光の日、聖の日という順番で繰り返されている。今日は闇の日だから……。えーっと、……九日後だ! ふぅ、完璧だ!
わたしは額の汗を拭う。なんか前世の記憶あるのにあんま頭が良くなってない気がするんだけど、気のせい?
「水の日ですね。分かりました」
* * * * *
わたしはネイド先生を正門の前まで送る。
「ではエシリア様、また会いましょう」
「はい! ネイド先生、今日はありがとうございました」
挨拶をしてネイド先生が歩きだす。わたしはネイド先生が見えなくなるまで手を振る。ネイド先生も何度も振り返ったりしながら最後まで手を振り返してくれた。なんか苦笑いのような顔だったけど。
それにしても今日も疲れたぁ。明日は遅くまで寝てよう。それにサーラに起きてるのがバレないようになんとかしよう。
なんか結局魔法じゃなくて剣の扱い方を教えてもらいました。
騎士と魔術師は仲が悪いそうです。