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34.《絶滅》

 魔法、アムルタートを失ったのが惜しく感じる。

 久しい感情だ。 戦力が事足りていたのもあって、惜しくなったのは久しぶりだ。


「シンユ……よく食うな」


 目の前で美味そうに魚を頬張るおっちゃんに毒づくが、気にした様子もなく頷く。

 魚が七匹いれば、一人で四匹を食べるのはおかしいことを気がついて欲しい。

 結構前にイユウが手を付けている魚を取るのも気が引けるので、イリファが食べている途中のと、残り一尾の焼き魚を三人で食べるのか。

 アムルタートが使えたならば、そこらの草やらから生命吸収していれば飢えないのに。


「まぁ、ライア君。 他の物もありますから」


 そう言ってルルは最後の魚を食べ始める。

 他の物と言っても、いつもの豆と、シンユが育てているボソボソした穀物と僅かばかりの干し肉だ。

 私の決めた「みんなと共に新鮮な物を食べる」という決意は何の意味もなかったということか。


「冗談ですよ。 はい、あーんしてください」


 口を開ければ、丁寧に魚の身が入れられる。

 魚より肉の方が好きなのは確かだけど、干し肉よりかはまだ美味い。 わざわざ取るのが面倒であることを除けば満足出来る食料だ。


「どうですか?」


 ルルは微笑みながら私に尋ねる。


「まぁ、悪くないな」


 量はもう少し欲しいところだけど。 明日はシンユがよく食べることを念頭に入れて食料を調達しよう。

 イリファにも相談して、鳥肉を取りたいところだ。


「残った骨に、お湯を注いで飲むのもなかなか美味しいですよ」


「骨を食うのか?」


 横の獣人の夫婦も骨ごとバリバリ食べているので、割と普通なのかもしれない。 猿人もだいたい獣人のようなものではあるのだ。


「いえ、骨の出汁を取るだけと言いますか……。

まぁ、骨は食べなくても大丈夫ですよ。

骨を食べようと思うのなら、骨を揚げると美味しく食べれますが……油が沢山いるので、現実的ではないですね」


 揚げる料理は好きなのだけど、油を取ることが出来ないのだから仕方がないか。

 なんだかんだで、主人に甘やかされていたので舌が肥えているらしい。 油濃い食べ物は屋敷から抜け出してから食べられてないので、ああいった物はやはり高級なものだったのだろうか。


「あまり美味そうには思えないけど……試してみるか」


 ルルは頷き、湯を沸かしに動いた。

 彼女の柔らかそうな身体の動きに目をやりながら、今まで気になっていたことを訊ねるために口を開いた


「そういや、シンユは何の獣人なんだ?」


 獣人であることは確かなのだが、何の獣人なのかがわからない。 恐らく猫に近いようなものだと思うが……。


「ああ、獣王種(ウェアキマイラ)だ。 ほとんど滅んでいるから知らなかったのか」


 シンユの種に驚きを示したのは隣で聞いていたイリファだった。


「そんなに珍しいのか? 私にはよく分からないんだが」


「珍しいというより……本当にいたのかといった感想だな。

伽話のようなことしか知らないが、幼児でも竜をも単一で狩れるような強靭な種族だとか……」


 イリファの到底信じ難い言葉にシンユが首を振って否定する。


「いや、子供では竜は無理だ」


 大人ならば狩れるのか。 無茶苦茶である。


「そんなに強いのに、滅びかけるのな」


 竜を倒せる以上に不可解なことなのに、シンユおっちゃんを見れば納得は用意である。 滅びそうなのは、たぶん、阿呆な種族だからだろう。

 おっちゃんに失礼なことを考えていると、湯を沸かしている途中らしいルルが話に入ってくる。


「私達からしたら、ライア君達半生種もすごく強い生き物ですけどね。

老衰以外で死ぬことはほとんどないのは反則みたいなものですよ」


「えっ、そこまで死ににくいのか、私」


「はい。 半生種は、というより死人属はほとんど寿命以外では死にませんよ」


「つっても……確か、人は少ないんだよな」


 シンユのおっちゃんの種族のように阿呆だから、ということはないだろう。

 自身のことについて別種属のルルに訊ねるのはおかしなような気もするが、気になってしまったのは仕方がない。


「それはですね。 私達人王種、あ、人王種は猿人種のこちら側の呼び方です。

その人王種以外の種は、大体めちゃくちゃ強くて生存能力も高いんですが……それ故に、と言いますか、村単位でも何の不便もなく暮らせてしまうんですよ」


 シンユも何故自身の種族が滅びかけているのかが分からないらしく、興味深そうにルルの言葉を待つ。

 私は豆を口の中に放り込みながら、彼女の言葉を聞く。


「強いのでわざわざ無駄に交流する必要も、移動する必要もないので、村や集落の中で暮らすことになります。

村単位でずっと生活をしているとですね。 説明が難しのんですが、周りの人が親戚ばかりになりますよね」


 ルルの言葉の意図が上手く掴めずに、俺とシンユは首を捻る。


「ん、俺の故郷はだいたい家族か、家族の家族だったな」


「はい。 そういうことになるんですよ。

そうなると、結婚する相手も血が繋がった近しい人になりますね」


「そうだな、俺の父母は従兄妹同士だったと聞く」


 私達三人で食べ終えた後の骨に湯を注ぎながらルルは前置きするかのように言葉を並べる。


「そういうのは、いいと思うんですけど。 想い合って一緒になるのは素敵ですし、憧れますし、幼馴染みってのもキュンってなりますけど、不都合があるんですよね」


「不都合?」


 私がイリファに頬を拭かれながらルルに訊ねると、ルルはシンユの顔をちらりと見てから言葉を続けた。


「血が、濃くなるんですよ。 一代や二代なら全く関係ないぐらいなんですが、何十代も続けると」


 私とシンユは意味がよく分からずに、首を捻る。 イリファには「血が濃くなる」なる概念が分かるらしく不思議そうにはしていない。


「めちゃくちゃ血が濃くなると、先天的に……産まれたときから身体の一部が欠損していたり、重大な病気に罹っていたり、そもそも産まれることも難しいようなことが増えてしまいます。」


「よく分からんけど。 つまり、小さい村で何十代も暮らしていたら、滅びるってことか」


 ざっくりと纏めてみるが、結局はよく分からなかった。


「……分からんが、おそらく合っているのだろう」


 何か納得が出来る節でもあったのか、おっちゃんは頷いてから、私のためにルルが用意してくれた汁を飲んだ。

 まだ食うのかこのおっちゃんは。 そして私の汁を返せ。


「近年になって、人王種を除いた種の限界がきて、色々な種族の混血が始まったので、現存しているどの種族も滅びることはないと思います。

少しでも他の村の血を取り入れるだけでも、そこまでにはなりませんから。

ちなみに私は人王種の父と魔人種の母の混血です」


 私達は、よく分からない理由で絶滅の危機に瀕していたのか。


「すげえ戦争してるのに、混血もいるんだな」


「全く関わりがないよりかは、戦争していた方が愛も情も生まれるんですよ」


 そんなものなのか。 まぁ、分からない話でもない。

 猿人種以外の種族では戦争をしていないので、滅びそうな種族も全くなくなることはないということか。


「にしても、純粋な猿人種じゃなかったのか。

魔人種って種族が混ざっているのに、猿人にしか見えないな。

元々似ている種なのか?」


「ん、まぁ……猿人種の形質の方が優性遺伝なので……。

と、言っても分かりませんよね。

純粋な人王種と純粋な魔人種の子は人王種に似るって感じです」


 ルルは私達に伝わるように言葉を選んでいるのだろうが、あまりピンとこない。


「勉強になった。 礼を言う」


 おっさんは少し寂しそうに言った。


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